第26話 最長片道切符の旅26日目(高崎~越後湯沢~高崎)

二日ほど高崎のアパートに滞在した。新年度の説明会やゼミなどの用がある。ついでに洗濯や今後の予定などを立てることにする。体力をつけるために栄養のあるものを取ることを心掛けた。今日の最長片道切符のルートは新前橋までだが高崎までかえって再度宿ることにする。つまるところ、今日の予定は行きは新幹線、帰りは在来線で越後湯沢と高崎を往復するだけである。いたって簡単な日程だ。


高崎の天気は良好。と思いきや越後湯沢に停車するとき窓に水滴がついたのが気になった。谷川岳を越えて新潟側の天気は午後からあまりよくないようだ。駅の改札から外に出ようとする。しかし特急券が1枚しか見つからない。私の特急券は高崎―上毛高原と上毛高原―越後湯沢で分割してある。その買い方のほうが110円安いからだ。しかし、よりにもよって上毛高原―越後湯沢の特急券が見つからない。ここまでとあきらめて潔く買いなおすことにした。110円の特をして880円の損をした。一応、落し物の届け出をしたが半ばあきらめている。無駄な出費をしてしまったことと自分の不甲斐なさが頭から離れない。雨模様がその心情に拍車をかける。


越後湯沢の町を少しぶらつこうという考えにもならない。上越線に乗り換える時間が1時間以上あったが駅でじっとしよう。心なしかいつもよりも寒く感じる。越後湯沢駅のなかには立派な店が並ぶ。新潟の特産品を所狭しと並べているのだ。魚沼のコシヒカリとそれを使った日本酒がイチオシらしい。今日は平日にもかかわらず外国人を中心に多くの観光客で駅は賑わっていた。


発車時間よりも10分ほど前だったが上越線水上行普通列車のボックス席は埋まっていた。どれも観光客のようだ。ボックス席を4人で使うリタイア組のおばちゃんたちの話し声の大きいことこの上ない。改札が始まり例のごとく私は切符を見せるが、ちかくに座っていた高校生にも中学生にも見える男子生徒がキセル疑惑をかけられていた。六日町からの乗車を証明するものがないらしい。男子生徒がへらへらしていたため駅員さんの語気も強かった。誰もが雨模様で調子が狂うのだろう。


土合駅で途中下車して一の倉沢という景勝地に行こうと思っていた。しかし思いのほか気温が低かったのでそんなやめてしまった。土合駅で2時間以上も寒空にさらされたくない。ただひたすらに鉄道に乗るだけ水上駅に到着。10分ほどの乗り継ぎの待ち時間も耐え難い寒さだったので賢明な判断だっただろう。ロングシートでも腰をぐるっと回して上越線の車窓を楽しむことがせめてもの報いである。上越線で新前橋に近づくにつれ天気も回復してきた。新前橋ではすぐさま高崎行きの電車に接続しているのだが、それを見送って新前橋で下車印をもらう。


別に急いでいなかったが、見送るつもりの電車に乗れたので乗ったら14時少し過ぎに高崎に着いてしまった。なんともやりきれない思いがあったので、高崎駅の観光案内所で名所などを聞く。無論、地元民である私が試すような立場でよろしくはないのだがどうも虫の居所が悪かった。若い女性の方が対応。美人だが不愛想だった。歩いていける名所だと市役所展望台からの眺望と高崎城跡だけらしい。どちらも行ったことはあるが、前者は天気が良い日に限り、後者は城跡とはお世辞にも言い難いだだっ広い公園のことである。なぜ高崎パスタや高崎車両センターちかくの踏切などを紹介しなんだ。15時ごろに家に帰りだらだらするという最長片道切符の旅とは思えない始末だった。

 

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最長片道切符の旅~2023春~ @120-191

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