第25話 最長片道切符の旅25日目(神城~高崎)

神城駅を出る列車の時間は10時30分。しかし宿のチェックアウトが9時までなのでギリギリまで宿にいても1時間以上は暇をした。しかし、電車の時間がこれ以上早いともっと暇をしてしまうかもしれないという憂慮があった。駅周辺にはまだ残雪があるというより、昨晩の雪も積もっていた。少々雪遊びなどをするが、珍しいことはない。


目的の列車は日曜日ということもあり混んでいた。信濃大町駅行き普通電車である。仕方なく空いたロングシートから景色を楽しむ。大半の客は松本に行くのだが、途中信濃大町でも下車客はいた。信濃大町で30分の乗り継ぎの列車の待ち時間。30分もあれば駅前の探索程度はできる。塩の博物館という外観がなかなかに立派な建物を見物する。外から見るだけなら無料なのだ。発車時間の10分ほど前に列車が入線してきたので早速ボックス席を確保。しかし30分程度の乗車である。まずは松本に行く道中の安曇野などを見たい。


穂高駅で途中下車。レンタサイクルなどが盛んなので外国人を中心に下車客が相当数いた。無論、金に余裕のない私が借りることはできない。目的地の大王わさび農園までは歩いて45分ほどだった。汗ばむ陽気に大荷物が堪えた。しかしその分着いた時の絶景もひとしおだった。この旅では展望台から眺望や自然の地形が織りなす絶景、景勝地などはたびたび訪れた。しかしこのわさび農園はどれにも当てはまらない人の手で作り上げられた素晴らしい景色だった。どこまでも続くわさび畑は圧巻である。観光客の数がそれを物語っていた。どこかしこから異語が耳に入った。おそらくこの光景は外国人にとっても物珍しく美しいものなのだろう。金を一円も使うことなく安曇野の名産わさびの農園を満喫できた。穂高神社などに帰りしな寄ってみる。往復1時間半の道中で一休みするにはうってつけだった。


穂高から松本へ。松本駅に着くことには15時頃だった。空腹の限界だったのと、偶然にも信州にいたので、そばを食べることにした。安くておいしい店を教えてもらい、駅前の立ち食いそば屋で腹ごしらえをする。大もりで590円は安いと思った。そこから松本城へ向かう。徒歩15分ほどの好立地である。大半の町は城を中心にして栄えていたので、駅も同じような中心部にある。松本城は黒くて美しい。700円の入場料も高いとは感じなかった。堀の外から眺める景色は無料だが、堀の内からは有料だ。その景色を堪能せずに帰るのはあまりにももったいない。城内の急な階段などは有名だ。一番険しい階段のところでは、人がすれ違わなければならないの行列ができていた。開智学校は工事中で入れなかったが外から一見した。松本は思ったよりも見どころのある街だった。もっと時間をとっても良かったかもしれない。


しかし姨捨から見る景色も捨てがたい。昼の眺望は何度か見たが夜景も素晴らしいのだ。電車の中だと車内の明かりが窓に反射してしまうので、どうしても降りる時間をとらなければならなかった。夕暮れ時に着くように松本駅を出て姨捨駅に着く。次の列車が1時間の間に徐々に日没を迎える。姨捨駅周辺も見どころはあるので退屈はしない。姨捨は善光寺平の景色もさることながら棚田も美しい。駅近くの姨捨公園からの景色がよい。ここはあまり知られていないが、ここからは善光寺平と棚田の景色の両方を完璧に楽しむことができる。時期になれば棚田のライトアップもされるのだが。しかし善光寺平の夜景は素晴らしかった。ここは鉄道に来るに限る。


長野駅で下車する。もう20時ごろで空いている店などほとんどないのだが善光寺が見たい。昼の善光寺は人が多く、仲見世通りも歩いていてたいへん楽しいの。しかし、夜も夜の良さがある。思ったよりも夜の参拝客がいた。仲見世の電灯と山門、仁王門のライトアップが幻想的である。閉じた店で休憩することはできないため駅から善光寺までノンストップで歩くことになるが。長野では1時間ほどの滞在の後に北陸新幹線で高崎に向かう。


北陸新幹線の高崎までの途中駅では上田に軽井沢などの見るべき土地もあるのだが、この区間では途中下車をすると金がかさんでしまうのだ。なじみ深い高崎に22時ごろに着く。私の大学が高崎にあり、アパートも借りているためここで泊まる。連続的な旅の道中になじみ深い街に泊まるのは感動的である。溜まりに溜まった洗濯ものや疲れをとるために何日か休息を設けよう。

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