第24話 最長片道切符の旅24日目(新潟~神城)

4時半に目を覚ます。例の日本語講師は二段ベッドの下で寝ている。起こさないようにゆっくりと梯子を下りたつもりだったが、起こしてしまったらしい。最後まで旅の安全を願ってくれた。この宿の様相はまさしく人の家という感じで、さらに同じ部屋に3年ほど住み続けた男の部屋に居候する形だった。そのため何とも言えない人の家のような匂いが服にしみついてしまった。しばらくこの宿が頭から離れることはなさそうだ。


今日の旅は5時56分発の越後線からだ。宿から駅までの距離を見誤って危うく乗り遅れるところだった。今日だけは悠長なことはできない。なぜならこの先、観光列車に乗りtがなくてはならない。快速「越ノShu*Kura号」に乗り、さらに快速「おいこっと」に乗り換える。その後は新幹線で糸魚川に行き大糸線に乗り換える。まさしく鉄道の旅である。天気も回復し晴天とまではいかないが、青空も確認できる。8時ごろに柏崎駅到着。列車の乗り継ぎまで1時間ほどあるが、空いている店はない。ブルボン本社を見上げ駅前をぶらつく。特段面白いことはない。


この後は素直に信越本線で長岡方面に行くのではなく、せっかくなので経路外ではあるが青海川駅まで足を延ばす。柏崎―青海川間の往復乗車券は400円である。この駅は海に最も近いというのが謳い文句で確かに景色は一級品である。しかし降りようとする者はいない。青海川駅周辺には意外と見どころがあるのに。駅から歩いて数分のさけのふるさと公園に行く。村上市同様、ここらの河川でも鮭の遡上がみられるらしい。展示物も村上市のイヨボヤ会館には劣るが、無料とは思えないほどの充実感である。さらに、青海川駅から国道のほうに上る小道を行けば道の駅のような土産店がいくつか集まる所にでる。急な坂道を15分も登れば着くので容易い。さらに行けば恋人岬という若いアベックがこぞって集まりそうなところに行ける。ここではハート形の絵馬のようなものに永遠の愛を誓うような甘い言葉を書いて南京錠で任意のところに結び付けることができる。よく見るような気がするが景色は良いので一人でも訪れる価値はある。件の土産屋ではクーポンが使えたのでショッピングを試みる。村上市で買うことのできなかった鮭の煮つけやら乾物やらを2000円近く買ってしまい大荷物になることを覚悟しながら店を後にする。しかし、今後友人の家に世話になるときの土産としては絶対に必要なのだ。激坂を下って駅に戻る。勿論、駅と海は目と鼻の先なので簡単に海岸に出られる。このように青海川駅はさまざまなアクティビティがある素晴らしき観光名所なのだ。


私はここから越ノShu*Kura号に乗車する。どうやら少々の停車時間があるらしく、一斉に乗客が出てきて海岸をカメラに収めていた。この列車は観光列車で一部の土日祝にしか運転しない。さらに人気の列車のためなかなか指定席券はとれない。この列車のコンセプトは新潟の酒を楽しむということらしいが酒はあまり好まない。しかし、乗客にはウェルカムドリンクとして日本酒がふるまわれた。無料なので頂戴したが、すぐさま眠くなってしまいどうも調子が狂った。座席などのリクライニングも質が良いため眠るにはうってつけだった。しかし、蚊の羽音よろしく、隣の中年男性の鼻息がどうも気になるのだ。無表情で駅員さんへの愛想も悪く不気味だった。終点十日町で下車。


さらに私はここからもう一つの観光列車おいこっと号に乗車する。この列車は飯山線沿いの里山の景色を堪能することができるとのこと。ご丁寧に要所要所でナレーションまでついていた。しかしこの列車は先ほどの「越ノShu*Kura号」とは違い、ボックス席とロングシートが混合した内装で、お世辞にも上等とは言えない。席を見誤った私はロングシートを指定してしまった。しかしいくつかボックス席も空いていたのでどうやら人気はないようだ。確かに指定席券530円を払う価値は快速という時間的な速さだけのような気がする。景色の良さを楽しむには座席があまりにもお粗末だった。終点飯山に着いたのは14時30頃。観光列車とはいえ快速なので結構早く着いた。


飯山から北陸新幹線にて糸魚川へ。フォッサマグナミュージアムに行くためにここで途中下車。歩いて45分ほどらしいが30分ほどで着いた。途中、山道をショートカットしたおかげだろう。ゆっくりと見物を済ませて、フォッサマグナを走る大糸線に期待を寄せる。糸魚川駅に戻ってきてもまだ大糸線発車の時刻までは余裕があったので、駅隣接のジオパルという鉄道博物館のようなところで時間をつぶす。かつて大糸線を走っていた実車のキハ52系が目玉である。中のボックス席で座りながら当時の情景を想像できる。他にも鉄道模型や広大なジオラマがあり見ごたえ抜群であった。


日も完全にくれた頃、大糸線列車が糸魚川駅を発車する。勿論、沿線は何も見えない。1両編成のキハ120には私ともう一人の乗客を乗せて終点平岩に向かう。平岩駅から徒歩5分ほどのところに姫川温泉という秘湯がある。この湯は武田信玄の隠し湯とも言われている。700円は決して安くはない入湯料だが、大糸線の平岩駅での乗り換え時間の暇つぶしにはちょうど良いのだ。いい湯だった。20時にこの温泉は閉まるのだが、次の上り大糸線列車は20時47分。ギリギリまで休憩室にいたら、ご主人があまった煎餅をくれた。小腹を満たしたところで温泉を出る。雨が降っていたが駅までは大して遠くないので気にならない。南小谷駅でJR西日本と東日本の管轄が変わるため乗り換えなければならない。運転手が寒いだろうから、少しの間車内で待機してもよいと言ってくれた。素晴らしい心遣いである。外は雪が舞っていた。21時30分、南小谷を出て22時前に神城で下車。ここから歩いて10分ほどのところにスキー客がよく使う安宿がある。姫川温泉で湯につかってきたので後は寝るだけである。宿は思ったよりも混んでいたが、大半がスキーヤーで鉄道マニアは皆無と見えた。

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