今はメロスより羅生門が微笑む時代なんだ

脳幹 まこと

ひどく赤面した。怒りで。


 芥川は激怒した。

 必ず小説執筆サイト「閣麻呂かくまろ」に文句をつけてやると決意した。


 芥川には流行が分からぬ。芥川は、町の役人である。酒を飲み、犬と遊んで暮して来た。けれども評判に対しては、人一倍に敏感であった。


 さて、そんな彼が激怒したのは、きょう未明のことである。

 彼には娘の如く愛でていた執筆作品がいた。「化生門けしょうもん」と名付けられたそれは、話数は千、文量は百万をゆうに超えている。

 お役所仕事をしながらも、ちまちまと文章を練り上げ、執筆期間にして五年の歳月をかけた。

 手塩にかけた作品を成長させることが、彼の生きがいのひとつであった。


 それが、突如として行方をくらましたのである。

 童子を思わせるマスコットキャラ「マロロくん」が申し訳ない表情で「そのページは見つかりません」と書かれた木版を掲げるばかりだ。


 何十回と更新を繰り返した。

 URLが間違っているのかもしれぬと、過去に記念に取っておいたスクショを元に書き写してみたが駄目だった。


 のんきな芥川も、だんだん不安になって来た。質問サイトで逢った聡い衆カテゴリマスターをつかまえて、語勢を強くして質問した。聡い衆は答えなかった。

 芥川はからだを貧乏ゆすりして質問を重ねた。見かねた誰かが、このように回答した。既に日の暮方になっていた。


「あのサイトは、不人気作を殺します」


「なぜ殺すのだ」


「慢心を抱いている、というのですが、誰もそんな、慢心を持っては居りませぬ」


「たくさんの作品を殺したのか」


「はい。ここ二三年、方針転換が行われたのです。AIの作文機能も相まって、小説投稿の氾濫が起こりました。しかし、大半は容量と時間ばかり食うお粗末な作品であるとの判断が下されたのです。結果、【健全な管理】の為に評価の少ない無益な作品を機械的に殺すという判断を下しました」


「おどろいた。運営こくおうは乱心か」


「いいえ、乱心ではございませぬ。底辺執筆者を、信ずる事が出来ぬ、というのです。少しの得票しか持たぬ作品には、警告なしに削除が行われます。再投稿した者には容赦のない処置が取られます。きょうは、二百殺されました。かくなる私もそのうちのひとつです。今やサイトにむは、一部の神作者と、その神作を抜いてかずらにする盗人、肉を漁るからす狐狸こりの類だけです」


 聞いて、芥川は激怒した。

「呆れたサイトだ。生かして置けぬ」


 芥川は、単純な男であった。

 とつしようにもやり方が分からないので、「閣麻呂」のお問合せ窓口に犯行予告を書き込んだのである。

 チャットボット相手に暴言マウントを取った芥川は、たちまち垢BANの刑に処されることになった。


 芥川の行方は誰も知らない。

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