最終章 平穏を望む剣術名家の元悪役貴族
第73話 仲間集め①
「———また家出るのか……早く此処に永住したい……」
メアの実家から帰ってきてから1週間。
俺は1週間の間メアと穏やかで心地よい休みを満喫して、ルドに会うために最後の学園の準備をしていた。
今日が学園の再開日であり、ルドを勧誘するついでに退学届を出しに行く。
メアはその間お留守番で、現在はこの森の主のサンダーウルフのトルデォンを勧誘して貰っている。
サンダーウルフはゲームでも大分強い部類に入るモンスターであり、特にトルデォンはずば抜けて強い。
恐らく上級精霊程度の強さはあるだろう。
更には強力な雷の能力を持っており、対多数との戦闘を特に得意としている。
だから、今回の打倒大国のメンバーに是非入れたい。
「さて……俺はルドに話をつけてくるか」
俺は少し憂鬱になりながら森を出た。
「———は? すまん、もう1度言ってくんない?」
「だから、大国の魔導王国と戦うから手伝ってくれって言っているんだ」
「お前……とうとうトチ狂ったか?」
俺によって人気のない所に連れて来られたルドが、俺を異常者を見る様な目で軽く引きながら言ってくる。
ただ……驚くほどそんなにおかしいことを言っただろうか?
「大国とはいえ魔導王国だぞ? 魔法で俺が負けるわけないだろ」
「いや、それは分かってる。ただなぁ……何で俺が必要なんだ?」
「国に侵入してとある人間と成り代わってほしい」
俺がそう言った後に成り代わって貰う相手を話すと、ルドが頭を抱えた。
その姿に自分の都合に付き合わせていることに罪悪感を感じるが、同時にルドにもそれに見合う報酬を与えるつもりなので、少し我慢して欲しい。
「お前……魔導王国の暗部の長になれとか流石に無理過ぎるだろ……」
俺が頼んだのは魔道王国直属の暗部の長———ベイリーズを殺して入れ替わること。
ルドは家が家なので、極悪人だが既に何人も人を殺しているらしいので、ギリギリで見逃そうなどと思わないだろう。
そもそもベイリーズは暗部でありながら酒癖も女癖も悪く、貧困民の子供を攫っては弄ぶ相当な屑野郎だ。
正直生きる価値もないし……暗部を掌握すれば、魔導王国内で活動するのが物凄く楽になるので、正しく一石二鳥だろう。
それに———
「いや、お前なら十分に果たせる筈だ。前に俺と戦った時より遥かに強くなっているだろう?」
昔1度だけルドとガチで戦ったが、その時よりも更に静かで、まるで凪の時の水面の様に気配が落ち着いている。
コレは暗殺者特有の境地で、如何なる時でも決して揺らがず、常に100パーセントの力を発揮できる様に準備している証拠だ。
謂わば、俺達で言う戦闘態勢に常時入っているといったらいいか。
しかもその状態で相手と普通にコミュニケーションが取れる物はゲームの中でもそう居なかった。
魔導王国の暗部の長は魔導に頼っているため、そこまでの境地に達していない。
つまり———純粋な実力は圧倒的にルドが上回っているというわけである。
「頼む。後生の願いだ。その代わりそれに見合う報酬も用意しよう」
「報酬……?」
俺は首を傾げるルドに告げた。
「———サーシャと一生遊んで暮らせる金と、この魔導具とやる」
俺が指輪型の魔導具を取り出し、後にディヴァインソード家から奪うお金からやると言うと、ルドが驚いた様に目を見開いた。
更に莫大な魔力を孕んだ魔導具を凝視しながら恐る恐るルドが訊いてくる。
「っ!? ち、因みにこの魔道具は……?」
「御守りみたいな物だが、一応婚約指輪を元に作っている。見た目も何ら変わらないぞ。ただ———敵意ある相手から近づいて来たら、俺がセットした何百もの魔法か魔力に応じて好きなだけ発動できる。更に常時身体を覆う魔法結界を発動する。魔力は大気中のを使うから充電もいらない。それに、着けていれば身体能力が強化され、即死も3度までなら防げる」
「なんだよそのぶっ壊れ魔導具はよぉ!? それ売ったらどんたけ値段すると思ってんだ!?」
因みにセットした魔法俺が本気で撃った魔法を数百種類、それぞれ数千発にも登り、更には相手に応じて自動で迎撃するオート機能付きだ。
ルドが彼女のサーシャが心配と言っていたので、あの時から少しずつコツコツと作り上げていた。
「さて———どうだ? 俺の手伝いをしてくれるか?」
ルドはゴクリを唾を飲み込むと———
「———やってやろうじゃねぇか!!」
俺から指輪を取って叫んだ。
さて……次は学園長に退学届を出しに行くとしよう。
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ぬるっと新章突入です。
もう少しお付き合い宜しくお願いします!
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