第72話 2人の未来は重なり合う
「———本当にいいの? 折角仁が里のために頑張ってくれたのに……」
メアが眉尻を下げて何処か不満げに言う。
「良いんだよ俺は。メアが褒めてくれるだけで十分」
邪龍王を倒した俺は、そのままの足でメアを連れて、メアのご両親に挨拶した後その夜の内にエルフの里を出た。
女王が回復したということでお祭り騒ぎになり、皆が酔っていたお陰で誰にもバレることなく倒せて、尚且つ、里を後にすることが出来た。
現在は里からかなり離れた、王国近くの森の出口にいるので、追われることはないだろう。
既に数時間が立っているので、今頃倒したのがバレ、誰が倒したのか騒ぎになっているだろうが、それくらいは向こうで何とかして欲しい。
「ふふっ、相変わらず仁は欲がないね。私が褒めるだけじゃ足りないのに」
「でもなぁ……俺の欲はメアとこういった関係になることで、もう既に満たされてるからなぁ……」
死んでこの世界に転生して。
始めは絶対死ぬ悪役に転生して混乱したが、推しであるメアと出会って。
俺の、そしてメアの物語を改変できる事が分かって。
紆余曲折を経て、こうしてメアと恋人、果てには婚約まで出来る関係になって。
後の俺の望みは、結婚式を上げて夫婦となり、2人で死ぬまで一緒に平穏な生活を送るだけだ。
その他に何も欲しいものはない。
「……不意打ちはずるい……」
メアが顔を赤く染めて俺から目を逸らす。
しかし、エルフの特徴的な長い耳がピコピコと頻りに動いているので、喜んでいるのは間違いない。
余談だが、メアの御両親には今すぐ家に帰ること、メアを生涯愛し続けること、全てが終わった暁には結婚式に1番に招待することも伝えている。
その時メアは、俺の言葉と家族の生暖かい目線に、恥ずかしさのあまり顔を湯気が出そうなほど真っ赤にしていたのだが……正直めちゃくちゃ可愛かったとだけ言っておく。
ついでに今から里を出るのを黙っておいて欲しいとのお願いもしてある。
まぁ本音を言えば、勝手に世界樹に侵入した挙句、好きなだけ暴れてしまったので、メアとの婚約を認めないとか言われるのが怖かっただけだが。
これこそ本当のやり逃げだな。
それに———
「まだ俺達にはやることがあるんだ。家も荒らされてないか心配だし」
「家はトルデォンが居るから大丈夫。来ても返り討ち」
「ああ……確かに」
最近全く会ってないのですっかり忘れていたが、俺達が家を建てた森には支配種のサンダーウルフが居たことを思い出す。
アイツは俺やメア程ではないにしろ、そこらの雑魚共やそこそこ強い相手程度では絶対に負けないだろう。
何なら森の一部が焼けてないか心配。
そして1番の問題———俺達のラスボス展開についてだ。
最早原作ストーリーは崩壊しているので、ストーリー知識は全く持って意味をなさないが、これからは俺自ら動いて全ての危険の芽を摘むことにする。
勿論学園には行く意味皆無なので、もう行くことはないだろう。
ざっと俺達に関係があるのは1つで、俺達がラスボスとなる原因でもある———ディヴァインソード家についてだ。
1度脅してからは今の所なにも接触はないが、あいつらが諦めるとは考えにくいし、恐らくもうすぐ仕掛けられるだろう。
あの家は他国と繋がっており、他国より得た魔法技術でジンをラスボスへと仕立て上げた張本人なのだから。
つまり———これから剣術名家と国と戦争をしなければならない。
相手は相当な大国と流石に正面切って戦うのは時間が掛かるので、何人かには手伝ってもらう予定である。
それさえ終われば、俺達の死亡フラグは遂に全て消滅することとなり———ストーリーから開放される。
「そうすればやっと……俺達は平穏に暮らせる」
「何考えているのか大体分かるけど……根を詰めすぎると良くない。……うん、そういう意味でも早く帰ってよかったかも」
「……?」
メアが突然そんな事を言う。
俺がメアが言う意味が分からず首を傾げていると———メアが突然、手を握って恋人繋ぎにしてくるではないか。
更にいきなりのスキンシップに固まった俺の腕に抱き付いた後、肩に頭を乗せ———
「———2人で、何の心配もせず、誰にも邪魔されず、悪意を向けられない、新婚生活みたいな穏やかな日々を過ごしてみたかったから」
上目遣いでふにゃっと無防備な笑みを浮かべて、そんな嬉しい事を言ってくれる。
……くそっ……どうしてこんなにもメアは可愛いんだ……ッ!
危うく可愛すぎて失神するところだったぞ。
「……そうだな。確かに今までそんな生活過ごしていなかったもんな」
「うん。私は仁と2人で過ごす時間が何よりも1番好き」
……何で俺の恋人は、こうも可愛いくて嬉しい事を言ってくるのだろう。
幸せ過ぎて死んでしまいそうだよ。死なないけど。
「———じゃあ急いで帰ろうか。俺達の家に」
「うんっ」
さて———戻ったら結婚式の準備もしないといけないな。
やることは沢山だ。
俺は肩に頭を乗せるメアを見つめる。
綺麗な白銀の髪が風で靡き、髪と同じ色の瞳が此方をジッと見ていた。
俺達はどちらかともなく顔を近付け、そっと唇を触れさせ———
「———メア、こんな俺の側にいてくれてありがとう」
「———仁、いつも私を大切にしてくれてありがとう」
そう言って、メアは満面の笑顔を咲かせる。
対する俺もきっと満面の笑みを浮かべているだろう。
ゲームでのジンとメアが遂ぞ最後までプレイヤー全員に見せることのなかった———幸せそうな笑顔を。
仁とメアの波乱万丈な物語の幕引きもあと僅か———。
————————————————————————————
はい、これにて第4章は終了です。
そして次話から遂に———
『最終章 平穏を望む剣術名家の元悪役貴族』
———が開始します。
是非見てくださると嬉しいです!
最後に———ここまで読んでくださった皆様に感謝!!
また次話でお会いしましょう!
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