第71話 誰も知らぬ夜の一件③(王VS王)
『に、人間……一体……我の身体に、何ヲシタァァアアアアアッッ!!』
邪龍王の悲鳴にも似た怒号が暗い闇の中に響き渡る。
しかし奴の怒りなど梅雨知らず、そんな邪龍王の身体を蝕む。
俺がしたのは極めて簡単な事だ。
奴が完全復活を遂げれば、倒せるには倒せるが、エルフの里が荒野になってしまう。
それは俺は勿論皆が望む最善な未来ではない。
だから———精霊王であるシェイドと同質となった俺の魔力を使って奴の身体の中に魔力を忍び込ませた。
後は復活したと同時に俺が魔力を操作すれば奴の身体は魔力の拒否反応が起きて内側から崩壊していく。
しかし———あくまでこれは弱体化。
「『お前がこの程度で死なないことなど……既に経験済みだ』」
俺は苦痛に身を捩らせる邪龍王へと急接近すると———手に召喚した漆黒の大剣を眉間に突き刺す。
『グルァアアアアアアアア———ッ!? 人間ガァアアアアアア!!』
痛みに咆哮を上げて呻く邪龍王だったが、流石デバフを扱う龍王なだけあり、普通の龍なら死んでしまってもおかしくないデバフを受けながらも口を大きく開く。
その巨大な口から、何処からやって来ているのかと戦慄する程の膨大な魔力の篭ったブレスを吐き出す。
瞬間———真っ暗な空間を眩く照らす一条の光が俺目掛けて放たれる。
その威力は食らわなくてもマズいことくらいは容易に想像できる。
———が、ここで避ければ闇のドームが崩れてしまいかねない。
闇のドームはあくまで戦闘の際に吹き飛ばされた石や木、軽めの魔法などを防ぐためのものなので、あれほどの威力の物を受ければ間違いなく崩壊する。
「『———【精霊王の破光】ッッ!!』」
俺が両手を前に突き出すと、前方に巨大な魔法陣が現れ———破壊の極光が包み込む様にブレスを喰らい尽くす。
「『ふぅ……どうだ———って、もうそれが来るのかよ……!』」
『消エロ———カァアアア”ア”ア”ア”!!」
邪龍王の身体からドス黒い混沌とした色の魔力が全方位に向けて放出される。
これこそがゲームでコイツの攻略難易度を引き上げた技だ。
その魔力自体に攻撃力は殆ど皆無だが、触れた途端に魔法が解除される、俺や精霊にとってはまさに天敵の様な攻撃である。
しかしそれと同時に奴の体力が4割を下回った事を意味するため、一種の合図と言っても良いだろう。
そして———
「『この時を待っていた———ッ! ———【夜を染めるは深淵の常闇】ッッ!!』」
刹那———闇の魔力で出来たドームが地を揺らす様に胎動する。
それと同時に闇のドームから強力な瘴気が発生し、邪龍王の身体から発せられる魔力を悉く打ち消す。
しかし———
「『く……やはり人間の体じゃ精霊王の魔力を完全に受け入れるのは難しいか……』」
今俺の身体を絶えず全魔力量の3分の1以上の流れている。
そのせいで、俺の身体はあまりの魔力の負荷に耐えきれず、身体の端からヒビ割れの様なアザが現れ始め、全身がミシミシと悲鳴を上げていた。
『持ち堪えてご主人様……ッ!』
『分かっている……絶対に出力を落とすなよ……』
俺達はテレパシーを通じて会話しながら、俺を、世界樹をこの森を、エルフ達をも消し去ろうと蠢めく混沌の魔力を防ぐ。
邪龍王はそんな俺の体が徐々に崩壊していっているのを見て嗤う。
『カッカッカッ……人間ニシテハヤルナ。ダガ———我ニ勝ツナドト言ウ不遜デ傲慢ナ考エハ捨テルノダナ!!』
「『そうやって嗤っていられるのも今の内だけだ。———【完全精霊同化】」
その瞬間———俺の身体を漆黒の魔力が包み込み、全身を人間の身体と言う限界を突き破り———
『ソ、ソノ姿ハ……!? 何故キサマノ様ナハイエルフデモナイ人間如キガ……!? 何故人間如キガ———精霊ニ変化出来ルノダ!?」
俺の身体を一時的に精霊という高次元の魔力体へと押し上げた。
「イベントボス風情が———ラスボス舐めんなよ……?」
俺は何もせずとも浮き上がる身体に慣れないものの、この身体の圧倒的な魔力操作センスを活かして即座に身体を制御する。
そして軽く宙を蹴ると———この世界の全ての束縛から解放された様な清々しさを伴って、刹那の内に邪龍王を殴り飛ばした。
しかし、今の感覚的に、この状態を維持出来るのは次で最後の様な気がする。
『グルァアアアアアア———ッ!?!? コ、小癪ナ……我ヲ弱体化サセナケレバ殺セナイ弱キ物ノ程度デ……!!』
「小癪でも何でも良い。俺はメアの故郷であるのこの里を護り切り、彼女が喜んでくれるのであれば———」
俺は邪龍王の上へと瞬間移動すると、全力で邪龍王に踵落としを食らわせ、絶叫と共に地に落とす。
更に俺は元に戻る不安定な身体で上空へと浮かび上がると、空一面を埋め尽くす程の無数の漆黒の剣を創造して———未だ眉間に刺さったままの漆黒の大剣目掛けて一斉に発射させた。
「———卑怯と罵られようが、悪役と言われようが……喜んで受け入れよう」
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