第70話 誰も知らぬ夜の一件②(邪龍王復活)

「…………」

「……?」


 俺は無言で、前を歩くメアを見ていた。

 メアは俺の視線に気付くと、可愛く首を傾げる。

 原初の精霊でメアの契約精霊である———カオスと一緒に。


「どうしたの〜〜ジンお兄ちゃん?」

「……君はメアの事をどう思っているんだ?」


 お兄ちゃんの部分は軽くスルーして、カオスに問い掛ける。

 流石にメアに危害を加えることはしないと思うが……念の為だ。


「メアのことぉ? メアのことはぁ———だいすき!!」


 カオスは見た目相応の子供っぽい笑顔を浮かべると、さながら母親に甘える子供の様にメアに抱き着く。

 そんなカオスを受け止めたメアは、優しげな表情でカオスの頭を撫でた。


 な、なんて目に優しい光景なんだ……!

 この2人のイラストがあれば何円であっても買うぞ。


「仁、カオスのことは警戒しなくていい。カオスはいい子」

「そうだよぉー! かおすはいい子なの!」


 『むふぅー!!』と胸を張るカオスの姿に、俺もシェイドも張っていた気が抜ける。

 しかし、そんな空気も世界樹に近付くほどに霧散していき、俺達全員の顔が険しくなっていく。

 

 エルフの象徴であり、世界で最も最初に現れた生物とされる世界樹は———根から地上50メートル辺りをドス黒い何かに侵食されていた。

 更にはそこから膨大な瘴気が立ち込めていたが、世界樹から伸びた枝によってドーム状に覆われていて外に出る事はなかった。


 見るも無惨な世界樹の様子に、メアが呆然と呟く。


「……こんな事になってたなんて……」

「……とっとと始めよう———《完全浄化》」


 俺は一先ず、あたりに立ち込める瘴気を浄化する。

 普通なら俺もメアも呪い抵抗力が高いため無視するのだが……この瘴気は抵抗を突き破って俺達にデバフの効果を与え、逆に邪龍王には多大なるバフを与えるため、戦う前に無くしておかないと後で痛い目を見るのだ。

 

「しっかりと浄化しないとな」

「私も手伝おうか?」

「メアのかわりにかおすがてつだうー!」


 カオスがそう言って両手を広げて『えいっ!』と声を上げると、瘴気が一瞬にしてカオスの両手に吸い込まれ、そのまま無に帰す。

 あまりにも一瞬の出来事に、俺は無言でカオスを見る。

 

「お前……やるな」

「でしょー! かおすはすごい!」


 そう言って再び胸を張るカオスだが、直ぐにしゅんとした表情に変わった。


「でもね、ここにふういんされてるのね、かおすとおなじぞくせいなの……」

「虚無と同じ属性か……なるほどな、どおりで見覚えのある技だと思ったわけだ」


 今回戦う邪龍王は、他の龍とは全く別の力を持っていた。

 ゲームでは残念ながら最後までどんな属性とかは公表されなかったが、戦いの途中で体力が50パーセントを切ると、一定時間の間、全ての攻撃が効かないことがあった。

 しかもそれは攻撃だけでなく、相手の攻撃の防御魔法もバフまでもである。

   

 まぁその能力で攻撃はできなかったが、それでも物凄く戦いにくい相手ではあった。

 しかし———ちゃんと対策はある。


「さて……そろそろ封印を解くか。———シェイド」

「了解だよ!」


「「【精霊王の目覚め】」」


 俺達から膨大な純粋な闇の魔力が噴き出し辺りを覆い———メアとカオスを弾き飛ばす。


「……っ、仁……!!」

「ごめんなメア。ただ……どうしてもメアに傷付いて欲しくないんだ。カオス、メアを護ってくれ」

「あいあいさー! メアはかおすがまもる!」


 カオスの頼りになる力強い言葉を聞いた後、世界樹全体———その全てを漆黒の魔力が覆われた。

 薄暗くなった空間の中で、俺はゆっくりとドス黒い世界樹の幹に手を置く。

 そして———



「出て来い———邪龍王」


 

 俺は全力で闇の魔力を世界樹に注ぎ込んだ。

 すると、世界樹が胎動し、ドス黒い何かが世界樹から引き剥がされる様に飛び出し、上空に集結する。

 それは奇妙な蠢きを見せた後———爆発的に増殖して鱗や爪、毛、目などが出来始め、漆黒の龍の姿に変化した。


『……封印を解いたのはお前か……?』

「ああ。俺の名はジンだ。そして復活して直ぐで悪いが———《闇の侵食》」

『はっ! 人間如きが何を———!?』


 ドクンッ……と言う心臓の音が俺にまで響いてくると同時に全身の鱗が腐り落ち始めた。




「———メアのために、お前には此処で死んで貰う」

 

 

 

 



 

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