第69話 誰も知らぬ夜の一件①(メアの秘密)

 女王を治した俺は、持ち前の規格外の魔力回復力により、僅か数時間で完全回復まで至った。

 そしてこれから俺は、彼の国に根付く災厄を倒しに行く。

 

 何百年も居座り続けているので物凄く強いが、今の俺ならば倒せるはずだ。

 そのための準備もしてきた。


「———それじゃあ行ってくる」

「私も行く」


 俺が玄関から出ようとすると、メアが引き留める様に俺の袖を摘んだ。

 力は入っていないが、行かないで欲しいと言う意思がありありと伝わってくる。  


 しかし、俺はその手をゆっくりと離させる。


「ダメだ。メアを危険に晒す訳にはいかないだろ?」

「私は心配っ。毎回仁の帰りを待つ私の気持ちにもなって……!」


 そう目を潤ませながら言われると、俺は何も言えなくなる。

 確かにメアも物凄い強いし、精霊王と契約しているらしいので俺が思う以上に助けになるかもしれない。


 しかし———俺の感情が、心が彼女を行かせたくないと叫んでいる。


「………………分かったよ。一緒に行こう」

「頑張るっ」


 胸の前で拳を握って意気込むメアを連れて世界樹へと向かった。








「———仁、本来此処は女王陛下以外は入れない」


 メアは世界樹の前に聳え立つ巨大な木の根で出来た壁を背にそう言葉を溢した。

 それは俺も知っている。

 

 実際にゲームではついぞ1度もこの壁の奥に入ることは出来なかった。

 ゲームではどうやっても封印が解けた後からしか戦闘が出来なかったからだ。


 なら壁を壊せばいいって?

 確かに壊せないこともない……が、それは普通に厳しい。


 この壁は世界を創造したとされる世界樹が、自らを守るために創造した謂わば世界樹の守護者。

 その強度はただでさえ破壊不可能な世界樹をも上回るほどのだ。

 つまり、世界樹を壊せる生物はこの世に存在しない=この壁を壊せる生物はいないのだ。


 俺でさえ、全力でやってギリギリと言った所だ。

 なので1番は飛び越える(100キロメートル)のが無難なのだが……何やらメアに秘策があるらしい。


「本当に大丈夫なのか?」

「ん、任せて」


 凛々しい顔でサムズアップするメア。

 正直めちゃくちゃ可愛い……けど不安ではある。


 そんな不安が表情に出ていたのか、



「———此処からは内緒だよ?」



 メアが魅惑の笑みを浮かべて人差し指を口元に当てると、そっと壁に手を触れる。

 そしてメアが一言。



「久し振りに出番だよ———【虚無カオス】」




 メアが俺の知らない名前を呼んだかと思うと———目の前の虚空が突如四次元に、立体的に凹む。

 そして凹んだ空間が徐々に黒くなり……そこから真っ白な髪と瞳の幼女が現れる。


「……ふわぁ……おはよー」


 幼女は眠たそうに目を擦りながらメアへと近付く。

 そして俺はその間、その幼女に視線を固定させられていた。


 な、何者だコイツ……初めて見た……。


 俺は、この世界で初めて知らないものに出会った。

 しかしそれだけでなく———目の前の奴が同じ精霊王の契約者であるが故に、目の前の異質な存在が精霊王であることが直感で分かってしまう。


『シェイド……この幼女が何者か知っているか……?』

『……虚無の精霊———カオス。僕達精霊王よりも先に創られた原初の精霊だよ……』


 俺は珍しく緊張感のあるシェイドの声と彼から出た衝撃的な言葉に瞠目してしまう。


 精霊王がずっと原初の精霊かと思っていたが、まさか別に原初の精霊が居たとは……こんなのゲームに出てきてねぇぞ……。


「……メア、ソイツがメアの精霊か……?」


 俺が恐る恐る訊くと———メアは小さく頷いた。


「やって、カオス」

「あいあいさー」

 

 カオスの気の抜けた返事とほぼ同時に彼女とメアの体から魔力が噴き出したかと思うと、俺でも壊すのは大変だと思っていた壁が、突如として大きな風穴を開けた。

 俺はその光景に唖然とする。


「仁、先進もう?」


 しかし唖然とした俺を、メアの声が現実へと連れ戻した。

 俺はメアの言葉に無言で頷いた。


 何が何だかよく分からないが……1つ言えることがある。



 ———メア可愛い。




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