第68話 解呪

「次は何を書くのだ?」

「まぁ見ていろ。今度は直ぐ終わる」


 ユミエルの質問を軽く流し、俺は魔法陣の制作に集中する。

 

 今から作る魔法陣は、先程の聖域の能力を、完成度によっては一時的に数十倍まで強化してくれる魔法陣———【女神の加護】と言うものだ。

 まぁこれも同じく失伝した魔法なのだが、生憎俺には原作知識があるのでな。


 此方の魔法陣は先程よりも大分簡素な代わりに、先程の聖域以上の魔力を使うと言う最早力技見たいな魔法だが、多分俺の魔力で発動できる……はず。


「ぐ……」


 描き始めると、途端に俺の体から大量の魔力が吸収され、あまりの消費量に軽い眩暈や疲労感が俺を襲う。


「じ、ジン様……!?」

「だ、大丈夫だ……少し魔力が減ってふらついただけだ……メアは変わらず魔力を送り続けていてくれ……」

「……分かりました」


 心配そうに俺の方へ駆け寄ってきそうな雰囲気のメアを手で静止させる。

 俺に止められた事に不服そうな表情をしていたが、素直に再び魔力を女王へと送ってくれた。

 

 これは……後で何かしらしてあげないとな。


 俺はそんな事を思いながらも、描く手を止めない。

 既に魔力は半分以上無くなっているが、未だ変わらぬ量で吸収されている。


 くそッ……やっぱ力業じゃむずいか……。


 本来は聖女が神の力を借りて発動する魔法陣であり、更には大司教や枢機卿などの、教会の力の強い人達と共にやる魔法であるために、俺1人でやることがそもそも異常なのだ。

 こう考えると、如何に神の力が凄まじいのかを改めて思い知らされる。


 ……もしもの時のために神を殺す魔法も考えておくか。


 正直もはや原作通りとは口が裂けても言えない状況に陥っているので、本当にそれくらいの覚悟はしておいた方がいいかもしれない。


 俺がそんな事を考えていると……遂に魔法陣に魔力が溜まった。

 もう魔力が10分の1も残っていないが、足りたので少しホッとした。


 俺は何とか立ち上がると、朦朧とする意識を脳を強化する事によって誤魔化して女王の下へと足を運ぶ。

 メアも魔力が減って少し顔色は悪くなっていたが、ユミエルが終始2人に回復魔法を掛けていたお陰か、意外と元気だった。

 

 そして問題の女王はと言うと———


「やはり俺の劣化版聖域じゃ治らないか」


 全身に柔らかな光が纏わりついて体内のドス黒い何かを引っ張り出そうとしていたが、ドス黒い何かの方がまだ力が強く、未だ解呪には至っていなかった。

 

 俺はメアに魔力を供給させるのをやめさせた後、彼女を抱き抱えて【女神の加護】の魔法陣の真ん中に寝かせる。

 そして俺は最後の詠唱を始めた。



「———女神に願う。かの者を救う光を———【女神の加護】ッッ!!」


 

 俺が詠唱を終えた瞬間———膨大な魔力が発光して、辺りを眩い光が包み込んだ。










「…………ここは……」


 衰弱し切り、痩せ細り過ぎて脂肪がなくなってまるでミイラの様になっていた女王の姿はそこにはなく———メアと同等に(俺的には1億倍メアの方が綺麗だと思うが)麗しい女性が、その瞳を開き、呆然と、困惑した様子でゆっくりと起き上がった。


「あ、ああ…………じょ、女王陛下……おお待たせさせてしまい申し訳ありません……!しかし……遂に女王陛下を蝕んでいた呪いは完治されましたっ!」


 ユミエルが涙を流しながら、呪いの完治した女王の下へと駆け寄り跪く。

 そしてそんな彼の言葉を聞いた女王は、ゆっくりと自分の手や足を見た後、自分の顔に触れ———その大きな瞳から涙を溢れさせた。


「私は……生きているのですか……?」

「はい……っ!」

「これは夢でないと……?」

「はいっ……!」

「そう、ですかっ……少し、安心しました……」


 女王はそう言うと、相当気を張っていたのか、まるで気絶するかの如く、安らかに眠りに着いた。

 一瞬死んだかと思ったが、生命反応は先程よりも強かったので、ただ寝ているだけだ気付き、ホッとする。


 いやぁ……マジで疲れたな……。

 一応前世で女王を救う方法を考えていてよかったぜ……まさか本当に解呪出来るとは思わなかったけど。


 実際、この魔法は賭けだった。

 

 そもそも発動できるかも怪しく、魔力がどれほどいるのかも厳密には不明。

 更に仮にこの呪いが後少しでも彼女の体を侵蝕していれば、幾らかの魔法でも解呪は不可能だった。


 まさに幾つもの奇跡が重なり合ってこの結果に辿り着いたというわけだ。


「ふぅ……」

「お疲れ様、仁」

「おう、メアもな」

 

 眠る女王の傍で号泣するユミエルを見ながら俺は壁に寄りかかっていると、メアが俺の隣にやって来て、労ってくれる。

 

 ああ……メアの声聞くだけで癒されるわぁ……流石メアボイス。 


 俺がメアの鈴の様な透き通った声に癒されていると、涙を流しながらユミエルが此方に頭を下げた。


「本当にありがとう……我らの女王陛下を救ってくれて……!」

「別にいい。俺はメアのためにやったんだからな」

「それでもだ。女王陛下は我らエルフの象徴。彼女が亡くなれば封印が解けるどころか皆がパニックになって里が消滅していただろう。本当にありがとう……!」


 まぁゲームではそうだったな。

 それ程までに女王陛下は民に愛されているということか。


 ただ……この状況でいうのは申し訳ないのだが、まだ全ては終わっていない。

 しかし———


「———俺のことはいいから、お前は女王の世話でもしてろ」


 今はこの束の間の平和に浸らせてやるのも悪くないだろう。

 

 

————————————————————————

 次話は明後日投稿します。


 それと、新作上げました。

 今回は異世界ファンタジーで、推しのために力を振るう主人公の話です。

 是非見てみてください!


『精霊学園の隠れ神霊契約者〜鬱ゲーの隠れ最強キャラに転生したので、推しを護る為に力を隠して学園へ潜り込む〜』

https://kakuyomu.jp/works/16817330652241364763

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