第67話 女王の呪い

 俺はユミエルに連れられて玉座の奥にある女王の寝室へと移動する。

 此処は本来唯一ユミエルのみが立ち入ることを許されているため、ユミエルの信頼を勝ち取り、女王へとユミエルが話を通してくれないと入れない。

 やって、ユミエルとは絶対に原作でも戦わなければならないのだ。


「———女王陛下、メア様の婿殿を連れて参りました」

 

 そう言うユミエルの声に返事はない。

 しかしユミエルは一瞬悲しげな顔をするだけで気にせず「失礼します」と言って入る。


 普通なら失礼極まりない行動だが、呪いの進行した女王は呪いによって当たり前の様に聴覚も声帯も失ってしまう。

 しかも、これはまだ初期をちょっと過ぎた辺りでしかない。

 その内5感全ての感覚が無くなり、骨も肉体の中でボロボロになり、意識が朦朧として最後には自分が生きているのか死んでいるのかさえ分からないままに肉体が灰となって消え去ってしまうのだ。


 このことから、如何に女王の呪いが酷いかが分かるだろう。

 まぁ一般人ならば即死級の呪いを受けて十何年も生きていることは十分に凄いのだが。


 そんなことを思いながらも俺は荘厳な寝室を音を立てずに移動する。

 此処では音を一切立たない様にするのがのがマナーらしい。

 なら普通に話していいのか、と思わずツッコミたくなるが。


 そしてユミエルは兎も角、それを予め知っており、何度か女王にも会っているらしいメアも完璧に音を消して歩いていた。

 しかし俺だけは歩く時に音を完全に消すのは不可能なので軽く宙に浮いている。


 寝具へ近付くと共に、呪いを抑えるためであろう色んな結界に当たるが、俺は気にせず先へと進んだ。

 時折不要な・・・結界はわざと闇魔法を使用して壊しているが、別にユミエル達に言わなくてもいいだろう。


「———女王陛下……メアが帰って参りました……」


 そう言うユミエルは、寝具を囲む様に掛けられたカーテンを開ける。

 するとそこにいたのは———


「……っ……」

「……これは結構まずいな……」


 メアも俺も思わず息を呑んでしまうほどに衰弱し切り、痩せ細り過ぎて脂肪がなくなってまるでミイラの様になった、嘗てメアと同等に美しかった女王の姿だった。








「———こうなったのはいつからだ?」


 俺はもう相当な末期だと一目でわかったので、出来るだけ早い治療をするために取り掛かった。

 一先ず話を聞きながら彼女の契約している精霊———光の精霊王(結局主人公ユージンは認められていないらしい)を介して、俺の魔力を彼女の魔力に変換して貰いながら魔力を送っている。

 精霊は王に関わらず、契約した者のデバフも突いてしまうため、相当弱っていた。

 一応俺の魔力で軽く回復はしている様だ。


 まぁその代わりとしてバカスカ俺の魔力は食われているわけだが。

 更に言えば、もう俺の1つ目の魔力器官の魔力が半分を切った。


 やはり契約者と同様のデバフもバフも受ける精霊王も相当弱っているのか、魔力の減りが尋常にではない。

 

「およそ2週間前程です。始めはこれほどではなかったのですが、だんだん衰弱して今ではもう何も聞こえず何も感じず思考をしているのかすら分からない状態になってしまっています」


 なるほどな……まぁ始めから全部知っているので彼女がどんな呪いでどんな効果があってどう言った治療法を取ればいいのかなど、すべては俺の頭の中に詰まっているんだが。


「……2週間か……」


 恐らくもう既に骨は崩れていっていると思う。

 触ればグニャグニャとスライムを触っている様な感触だったからな。


「———《治癒》」


 俺は苦手だが一応回復魔法を掛けてみるが、やはり効果は芳しくない。 

 まぁ分かっていた事なので次に行くとしよう。

 

「メア、少しの間女王陛下に魔力を送っていて貰えると助かるんだが……」

「それは全然大丈夫なのですが……何か問題があるのですか?」

「ああ。俺はやることがある」


 これからやることには相当な魔力量が必要で、更には1人の魔力で発動させるから1人でやらなければいけない。

 そして今から俺が描こうとしている物は———聖域魔法陣だ。


 文字通り、此処を神の定めた特別な場所———聖域にして、呪いの力を打ち消すのだ。

 勿論その聖域を作る魔法陣は失伝しており、仮に分かったとしてもとてもでは無いが人間では発動できない。

 更にはこの魔法陣はのちの聖女の呼ばれるメインヒロインの1人が習得する技で、本物の神に寵愛されているものと比べれば威力などは劣るだろうが、そこにはもう一つの策があるで問題はない。


 そして、1番の問題である魔力使用量だが、俺には出来る。

 俺の体には5個の魔力器官があり、現在その内の4つは満タンなのだから、仮に本家より魔力量が必要だとしても全く問題ない。


 俺は指に膨大な魔力を纏わせ、寝室の上空に描いていく。


「……相変わらず物凄い魔力量だな婿殿は……」

「私の自慢の夫ですので」


 圧倒された様に呆然としていたユミエルに、メアが満足気というか少しドヤ顔っぽい表情で胸を張っていた。

 後で俺の前でもやって貰おう。


 俺はもっと見ていたい衝動を抑えて次々と描いていく。

 最後に使ったのが前世なので、一応記憶通りに書いているが、それでも確実と言うわけでは無いので、正直3割くらいの確率で失敗するだろうと思っている。

 勿論細心の注意を払ってやることにはやるのだが。


 それにしても、今日は物凄く魔力が減っていくな。

 まぁ軽く普通の人間の10000倍位は魔力を減らしているからしょうがないと言えばしょうがないのだが。


 何とその魔法陣は約30分で半径数十メートル程の巨大な円を描く様にして完成した。

 その余りの膨大な魔力のため、周りの空気が若干重たくなり、光が漏れ出ている。

 

 俺は早く完成させるべく詠唱に移った。



「———我、神を敬愛する者。願わくば、我の祈りに応え、その御技をこの地に巡らせん———【聖域】」



 その瞬間———寝室の部屋全体自体に暖かながら包み込む様な心地の良い光と共に安らぎのある風が吹いてきた。


 さて、次の段階に移ろう。


 俺は新たに魔法陣を描き始めた。

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