第66話 SOS

「———本当に大丈夫? まだ休んでてもいいけど……何なら私が言っておくし……」

「大丈夫だって。ただの筋肉痛だし」


 決闘から2日経った朝。

 俺はメアに頻りに体調を心配されながらも2人でユミエルが住んでいるという里のど真ん中———世界樹の麓に向かっていた。


 勿論理由はあの時ユミエルに話した里長について詳しく聞かせてほしいと改めて言われたからである。

 それに俺は勿論二つ返事でOKした。


 始めはもう少し渋ろうかと思ったが、メアとの結婚式をこの里の人総出で準備してくれるという最高の提案をされたために即座で返事を返した、と言うわけだ。

 どうやら俺とメアも自分達が気に入らなければ我儘を言ってもいいらしいしお金も要らないらしいからな。


 因みに、この話からも分かる様に、俺とメアの婚約は正式に認められる事になり、今度この里で結婚式を上げることに決まった。

 メアは恥ずかしそうにしていたが、嬉しそうに耳がピクピク動いていたので、これでよかったと思う。


 そんな話をしていると、前方に世界樹を護っている戦士が見えてきて、俺達を見ると共に魔法の杖をもったエルフも連れて一目散に駆けてきた。


「———メア様、婿様!! よくお越し下さいました! 中で里長と戦士長がお待ちです!」 


 婿殿か……いい響きだな。

 遂に俺もメアと結婚出来るんだな……と思ったら目から涙が……。


 俺が感激していると———


「失礼を承知ですが、急を要しますので今すぐ転移させて頂きます!!」

「「は?」」

「す、すいませんっ! ———【転移】ッッ!!」

「「は??」


 その瞬間———俺達はほぼ問答無用で転移の光に巻き込まれ、視界が真っ白に染まった。







 転移を終え、光が消えたことにより視界が広がる。

 そこは———ゲームでも何度も見たことのある所謂エルフの里の里長又は女王のいる玉座の間の様な所だった。

 

 又、人間と違ってエルフは質素なため、玉座の間も人間達の豪華絢爛な自身の権力を誇示する様な作りというわけでは無く、何処か神秘的で超常的な印象を受ける。

 此処は世界樹の中に出来ており、本来はエルフの里長———今度からは女王と呼ぶ———とその側近などの一部しか入ることが出来ない。


 それほどに神聖な場所に転移されたというのに———


「———それで、いきなり私はまだしもジン様まで転移に巻き込んで……何か言い訳はあるんでしょうか、ユミエル?」

「……わ、悪かったから落ち着いてくれないか、メア……」


 ブチギレ状態のメアが絶対零度の無表情でユミエルを睨み、そんなメアに顔を引き攣らせて俺の方に助けを求める様に此方を見るユミエルという結構カオスな空間になっていた。

 それと残念ながらメアが怒ったら簡単には収まらないし、俺も巻き込まれたく無いので目は逸らしておく。


「む、婿殿!?」

「ジン様は関係ありません。私は貴方にどうして許可も無く転移をさせたのかと聞いているのです」

「そ、それは……」

 

 そう言って押し黙るユミエルが可哀想に思えてきたのと、気になることもあるので此処ら辺でやめさせるべく———メアを抱き寄せた。


「———ひゃっ!? じ、ジン様!?」

「落ち着けメア。俺は大丈夫だし、向こうにもやむを得ない状況なんだろう」

「む……ですが私はジン様の嫁である前にメイドです。主の安全が第1なのです」

「それは分かってる。いつもありがとうメア。だけど、今から少し聞きたいことがあるから静かにしていてくれると助かる」

「むぅぅ……仁が言うなら黙ってる」


 最後は頬を膨らませながら不承不承といった感じで引き下がってくれた。

 突然イチャイチャを見せつけられたエルフの戦士達はポカンとしていたが、ユミエルだけは、ふぅぅ……と安堵のため息を吐いている。


 そんなユミエルに俺は聞いてみた。



「———それで、どうして女王が居ないんだ?」



 その言葉に場の空気が完全に凍り付く。

 誰しもが痛ましい顔をしており、ユミエルも沈痛な趣きで口を摘んだ。


 その雰囲気だけで大まかな状況を理解する。


 ———もう動けないほどに呪いが進行しているのか……?


 確かこのサブストーリーが起きるのは後2年ほど後の筈だが……まぁこれまでも色々と早まったりしているので、ストーリーはあまり原作知識に頼りきりにならない方がいいのかもしれない。

 と言うか多分俺のせいで色々なモノが狂ってしまったんだろうからな。


 前も言ったと思うが、エルフの女王は世界樹に封印されている奴によって呪いを掛けられている状態。

 そして本来その呪いは世界樹を蝕むモノだったが、半分を彼女が肩代わりしているのだ。

 そのためエルフの長寿で膨大な生命エネルギーを持ってしても数十年と生きられない。

 

 俺が女王について思い出していると、ユミエルが膝をついて頭を下げる。

 それと同時に周りにいた戦士までもが頭を下げた。



「……頼む……どうか……どうか———女王陛下を救ってくれ…………ッッ!!」

「「「「「「「「「———よろしくお願いします婿様ッッ!!」」」」」」」」

 


「———任せろ。俺が必ず救って見せる」

 

 

 さて、まずは女王の様子を見てみるかね。

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