第5話
少女は楼閣の上で無数に重なった一面の灰色い屋根を見下ろしながら夕暮れを待った。
そして、ゆっくりと太陽は遠くに見える城壁の縁に沈んで行く。しかしその間際。少女が桶から掬い上げた手のひらの上の小さな砂の山が。それが夕日に照らされてみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
少女はそれが何故か嬉しくなって、その小さな赤い山を目の前いっぱいに突き出して、透かして灰色い屋根が重なるだけの世界を見てみれば、いつの間にかその世界もまた同じように真っ赤に染まっていた。
でもそれは、ほんのひと時の間。日が城壁の下に沈んでしまえば、いつものように騒がしい客達がこの街に流れ込んで来る。
聞き飽きたつまらない音曲に、甲高くなる女達の声。そして目を細めたくなるほどに明るく照らされた建物。楼閣の上からそれを見下ろせば、暗闇の中で何故か自分達の街だけが明るくて……。そんな飽き飽きした小さな世界の中に、ほんの一瞬だけ見ることが出来たあの砂漠は、彼女にとっては奇跡以外の何者でもなかった。
手に取るもの目に見るもの、それは全部知っているもの。
でも、世界はそれだけでは無いことが、まさに奇跡だった。
日が暮れて、無駄に明るく照らされた楼閣の上から、少女は桶の中の砂を下に向かって全部ぶちまけた。不運にも砂を被ってしまった男達が下で何やら喚いているが、少女は何食わぬ顔で階段を駆け下りる。
「だって、ここは砂漠なのよ。砂ぐらいでごちゃごちゃうるさい。」
少女は笑いながら駆け続ける。目指すはいつもの黒い門。目のギョロリとした
ナンバークの小さな蛇〜異端のポージー外伝〜 鳥羽フシミ @Kin90
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