第4話
年頃の少女の好奇心は、本人も気づかないまま成長と共にいつしか小さな囲いの中へと閉じ込められていた。
自らの足でこの街を逃げ出すことは恐ろしくて結局出来なかった。自らが商品となって男達から金を巻き上げることも殴られ腫らした顔のせいでままならない。だから夜になれば居場所もなく狭い街を彷徨い歩く。そんな行き止まりばかりの生活の鬱憤が、ただ単純に逃げ場を求めていたのかも知れない。
だから少女にとって、今はそんなやり場のない好奇心のはけ口がたまたま彼ら砂漠の民に向けられただけ。そして時が経てばいつしか少女はそのはけ口にすら蓋をしてしまって、もしかしたら歌を口ずさむことすら忘れてしまうかも知れない。
しかし、そんな砂漠からやって来た男達になぜ少女は興味を惹かれたのだろうか。もちろん歌の続きを彼らなら知っているかも知れないと思ったから。それもある。でも、少女は歌の続きだけが理由じゃないことに近頃やっと気づき始めた。だが、それが実際に何なのかは彼女にもまだ分からない。ただ、今は若さ故の行動力が少女のことを突き動かしているだけだ。
それはある日の事。少女はふと思い立った。
はたして彼らがやって来るという砂漠とはどの様な場所なのだろうか。でもこの街に閉じ込められた少女にとってはそんなことすら思い描く術がなくて、少女はまず試しに街の隅っこにある空き地の砂をかき集めてみた。
例えば、水がたくさんあるのが海で、砂がたくさんあるのが砂漠だ。たったそれだけの知識を元手に、少女は根気よく半時ほど素手で一心不乱に地面の砂をかき集めた。しかし残念ながら集まった砂は小さな桶一杯ほどにしかならない。
――たったこれだけじゃ、街の堀すら埋まらないわね……
少女は一つため息をついた。いつも見下ろしている街の堀から海を想像することさえ出来ない自分が、たった桶一杯の砂から何を知れば良いのだろうか。
一面の水。一面の砂。
一面の……。それなら一つだけ知っている。
狭い囲いの中で少女が知っているものと言えば、この堀に囲まれた街の中心にある楼閣から見下ろしたナンバークの都一面に広がる家々の瓦屋根だけだ。
少女は思い立つと慌てて楼閣の階段を駆け上がった。もう少しで日が暮れる。一面の瓦屋根が赤と黒に染まるその瞬間、ひょっとすればその景色に何かの答えがあるかも知れない。
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