閑話の閑話
63話と64話の間。アンディーンの治療
◇
痛い、痛い、痛い。胸が痛い。
婚約者の白い目が、友人の白い目が、痛い。
胸が苦しい、熱い。
苦しんでいる私を全ての人間が嘲笑っているみたいだ。
「熱い、アンディーン」
体を冷やしたいと思ったからか、アンディーンを無意識によんでいた。
体は鉛のように重く、手首や足首などの一部しか動かせない。意識もぼやけて物事を認識できない。
「どうした?」
「はぁ、はぁ」
逃げ場を無くし、布団の中にこもった熱が、私の体力を奪い息を上げる。
「これは、、サラマンディアの熱にやられているのか。今、冷やす」
アンディーンは、布団をめくり水球を出すが、隣にいるサラマンディアの熱で、すぐに水がぬるくなってしまう。
「水場の無いところでは、水魔法を使い続けるのは難しいな。熱を逃がすためにどうしたものか」
布団がめくられただけで、熱が逃げ少しだけ体が楽になる。しかし体を動かし、起こすことは出来ず、重たいままだ。
「フィナリーヌ、失礼するぞ」
アンディーンは左腕を右脇の下から通し、首の後ろに手を回す。上に覆いかぶさり、太腿の間に右膝を入れようとする。アンディーンの膝は内腿を右に左にと動かし、食い込んでいき、太腿の付け根がアンディーンの太腿を咥えこむ。そして右手で左脇を冷やす。
ドクドク
体温を下げるため、動脈が通っているところを冷やそうとしているようだ。首、両脇と太腿の付け根が冷え心地よい。
「胸も低温火傷をしているのか」
アンディーンは右脇に手を置いたまま、親指を胸に伸ばす。
「んっ」
火傷した胸部がしみて、少し痛い。
手では、火傷全体を覆うことができないため、アンディーンは私の体の右側に少し体重をかけながら、胸同士を密着させ、服や胸がアンディーンの水分で湿っていく。
「はっあっ」
アンディーンの冷たい温度に、体が反応し、顔を右側に向け、首の後ろにある手から少し離れてしまう。
「首も冷やすぞ」
アンディーンの唇が、首に触れる。唇が温まると一度、首から離し、再び首に触れる。
首筋にアンディーンの水がつたう。
「んっ、んっ」
冷たい温度に、体を動かしたくなるが、手首や足首しか動かせず、足の指がぴんと張っている。
「アッ、アンディーン、水」
体が冷やされ、喉が渇いてきた。
「いきなり沢山飲んではだめだ。少しずつだぞ」
アンディーンは体の一部を水に変え、フィーナリーヌの唇を湿らせる。
「んっ、んっ、んっ」
少量の水が喉を潤す。生き返った気持ちになる。
「おいしぃ」
アンディーンは自身の右足が、ぬるくなると水を循環させるために、少し波を打つ。
ドクドクドク
アンディーンの波が太腿の付け根に伝わり、局部がじらされているようだ。
「他にしてほしいところは無いか?」
アンディーンが耳元で囁く。
「もっと、、、」
アンディーンの声に反応して、心臓が鼓動が早くなり、危うく言葉にしてしまいそうになる。
「もっと、水が欲しいか?一度体を起こすぞ。座って沢山飲むと言い」
上半身をゆっくり起こし、アンディーンの水を飲む。
「背中も熱いじゃないか」
アンディーンもベッドに座り、後ろから抱きしめ、胸と背中を密着させる。
アンディーンの足の間に私が座っている状態だ。
「つめっ、いたっ」
背中の冷たさに体がびくつく。
「付け根と脇も冷やすぞ」
アンディーンは、右手を脇の下を通して、スカートの中に手を入れ、太腿の付け根に触れる。
「んっ、やっ」
何で濡れているのか分からない。アンディーンが水で冷やして濡れたのか、汗で濡れたのか。ただ濡れているショーツをアンディーンに気づかれたくなった。
「大丈夫。痛くないから」
アンディーンは少し抵抗した私を宥め、太腿の付け根を冷やす。
そして、左手も左脇の下を通して、火傷している右胸に手を伸ばす。服の上から冷やされ、体がいやでも反応してしまい、胸が突起してしまう。
「はっ、あっ」
頭をアンディーンの右肩に置き、全身の力が抜けもたれ掛かった状態になる。
「まだ水はいるか?必要な分だけ飲むんだ」
アンディーンの顔が唇に触れる。何もしなければ飲めないが、吸うことで水を飲むことが出来た。
アンディーンの水をゴクッ、ゴクッ、と吸いあげる。
アンディーンの全身がビクビクと波を打ったような気がした。
「そ、そう慌てるな、ゆっくり飲め」
乾いた喉を潤していく。ぼやけている思考も、ぼやけている目も、落ち着いていき、トロンとした顔になる。
飲む動きが止まった頃、再度、仰向けに寝かせられた。
「このまま冷やし続けるから、ゆっくり寝るとよい」
意識は水の中に溶け込んだ。
短編・公爵令嬢は転生したい 中兎 伊都紗 @natto-natto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編・公爵令嬢は転生したいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます