怪漢と紅鎌とヴァンパイア《白節》

魔女の箱庭『エリック・ウォーノルド』…かつて魔女狩りなど排他主義から多くの種族を守る為、大魔女とその弟子達が大魔法を使用し作り上げた国である。


外界とは結界により隔離され、魔法によって隠された国は神との干渉さえも拒んだ。しかし、魔女の行動を事前に見抜いた創世神は名も無い七人の天使に隔離される前のエリック・ウォーノルドに残る事と、その国を治める事を命じた。


結果、エリック・ウォーノルドは七人の大天使の恩恵と外界の神々から間接的に伝えられた文化により発展を遂げていった。


そんな世界だったし結局は、同じ過ちを繰り返し排他主義の人間を産み出す。その象徴たる機関が…──熾天使協会セラフィムだ。


「本当にクソったれな国だよ…」


魔女が作った種族の隔たりを無した世界は、結局は外界と同じ道を辿った訳だ。この国の連中を見てると吐き気がする…


「よっVOlTAGE、朝から機嫌が悪いね?」


「こんな朝からクソみたいな場所に呼び出されたら、そりゃ機嫌悪くなるだろ」


「今回の任務は何処ぞの研究機関から頼まれたものらしいよ、とっても大事なお願いだよ?君の目的の為にもね!」


「あぁ、分かってるよ…じゃなきゃこんな頭の硬い排他組織入らねぇよ」


エリック・ウォーノルドが魔女の箱庭として完成してから3605年…現在、良かった事があるとすれば言い伝えられた様な争いは無く、表向きは平和な事だろう。

まぁ差別は結局無くならなかったがな…だが、人間や他種族に知性がある限りそれは永遠に無くならないものだろうがな…


「…──って事で、今回の任務は研究機関から抜け出したを確保する事だね」


「あぁ、不可視?透明にでもなるのか、このミント・バレンタインってガキ」


「…だねぇ、特殊なヴァンパイアってやつだ。処分したいけど我慢かなぁ?…」


「…たくっ、何で此処の連中はこうも化物を殺したがるんだ」


「理解が及ばない物は怖い…この国の連中もそうなのさ、だから僕達が怪物狩りをしないとね」


「LUSH、てめぇは殺したいだけだろ…」


「ははっ、やめてくれよ…人を殺人鬼みたいに言うのはさ?相手は化物だよ」


この国を治める七人の大天使、かつては名も無かった天使も永き支配者として力を持った。その七天使が直轄、熾天使協会セラフィム…──情報収集に優れ、純粋な人間だけで構成された対異種族最強の治安維持部隊だ。


組織の連中の殆んどは排他主義で、人間以外を酷く嫌う。勿論、正義なんか下らないモンを振りかざす阿呆もいるが本の一部だ。その実、一人一人が人間より優れた異種族に対抗できる人材が集められ、二人一組で編成されている。


「何でアンタとあたしがチームなんだろうな?」


「それは天聞者クロード達が決めた事だからね〜」


熾天使協会セラフィムには治安維持以外の役割もある。メンバーにはランクと順位があり最高ランクのSの上位6名は天聞者クロードと呼ばれ、大天使様の声を聞き、それをそれぞれ民衆やあたし達に伝える役割を持つ。


「まぁ所詮、やってる事は伝書鳩でんしょばとだな…」


「ん?VOlTAGE、さっき何か言ったかい?」


「あぁ?どうやって透明になるヴァンパイアを探すんだよ…って話だよ」


「ああ、それなら魔力を辿れば良い。大魔女様の魔力をねぇ…」


「あ?意味が分かんねぇ、ガキと大魔女に何の関係がある?」


「実は今回の研究機関の依頼の話なんだけど、ヴァンパイアを連れ戻したいんじゃ無いみたいなんだよね〜…」


「あぁ?LUSH、詳しく教えろ、意味が分かんねぇよ」


「連中のが欲しいのは女の子が持ってる紙切れだよ」


「それが大魔女となんの関係がある?LUSH、勿体ぶってるならブッた斬るぞ!」


「せっかちかよ…簡単に言うと魔女が遺した紙切れなんだよ。しかも、大魔女の特別な魔力を込めたね」


「それを持ってるから、お前なら魔力の流れで探せるって訳か?…なら最初からそう言えよ」


「まぁ、魔力が込められてるのは紙切れの方じゃなくてインクの方だけどね…」


「あぁ?何か文字が書いてあんのか?…」


「何で魔女が魔力だけ込めて紙切れ遺すんだよ…とは言え、『#46980』の意味は分かんないけどね」


「…まぁどうでも良いか、取り敢えずガキをと紙切れ捕まえて渡せば良いんだろ」


「いや、紙切れをこちらで預かる…渡すのはヴァンパイアだけだ」


「はっ?LUSH、それって大丈夫なのかよ」


天聞者クロードが依頼受けた時の、大天使様からの指示らしい…それに研究機関は不可視の吸血鬼の回収としか言ってないからね」


「へぇ、こっちが一つ上手だったってか。まぁ研究機関みたいな天使を信じなそうな奴等が熾天使協会セラフィムに頼るとか皮肉だよな」


「そもそも情報機関に隠し事なんて無謀だよね。黙って仕事させたいなら裏組織、便利屋とかが良いんじゃないの?」


「で?LUSH、魔力の流れはどっちなんだよ」


「このまま真っ直ぐに続いてるよ…これは『廃都』の方角だね。あんな無法地帯に逃げらたら厄介だ、急ごうか」


「LUSH、あたしに指図するな、殺されてぇか?」


「お、怖いな…じゃあ先に行くよ。でもあまり問題起こすと熾天使協会セラフィムにいられなくなるよ?」


「チッ…くそ、面倒臭ぇな……」


あたしには目的がある、その為にはこの熾天使協会セラフィムを辞める訳にはいかねぇ…本当に嫌になるぜ。



『廃都』付近に近付いて来ると、一通りが減って来る。いくらこの国の三大都市と言っても『廃都』みたいな危険な場所には近付きたくない訳だ。


「おいLUSH、あれ魔女教ウィズダムの魔術テロか何かか?…」


「いや、連中は町中とか高い場所とか傍迷惑はためいわくな場所でしかやらないから…あれは魔獣、しかも大物だね」


あたし達が『廃都』の付近に近付いた瞬間、向こうに見える建物が崩れた。走り出したLUSHの後をあたしも追いかける。


「…大方、魔女の魔力に誘われた魔獣だろうね。あれはマズいかもね…」


「じゃあ、あそこにガキがいるんだろ?あたしが行ってくる…」


「待て、もう一人いるな…例の女の子を抱えてるな。お人好しの馬鹿か、依頼されたかだね…」


「あっ?あの紙切れってそんなに狙ってる奴が居るの?」


「…ある意味は書記やメモだよ?この国を作った魔女の遺したに物に意味が無い訳がない、無かったとしても魔女の…ってだけで意味を持つんだ。少なくとも魔女教ウィズダムの連中は喉から手が出るほど欲しがるだろうね…何にせよ、公になる前に回収するよ」


「そういうもんか…ただのクソったれババアの遺品だろ…で、どうするんだ?」


「依頼された奴なら、少女を誰かの元に運ぶ筈だよ。その気を待つ…それにあの怪しい男には混じってるならね」


その瞬間、空気が冷たくなる空には何か分からないが…うっすらと遠くに見える。その瞬間、魔獣が氷漬けになった。


「なんだあれ…でかい鳥?じゃなくて人か?…」


「大天使クリセティール様だよ、七天使の中で最も新しい天使様だ」


「あっ?あれが天使なら何でアタシらが陽の光を見れてんだ?」


「彼女は特別なのさ…元人間だからね…さて、僕達も向かうとしようか?」


「あぁ、早く任務を終わらせて帰ってやるよ…」


「VOlTAGE、今日は問題とか起こさないでよ?」


「うるせぇLUSH、分かってんだよ…」


火の海を見た…──それはかつて過ごした綺麗な花畑すら焼きながら、舞い上がった花びらにすら燃え移り弔いの灯の様だ。


その中に突き立てられていたのは真紅の大鎌、それを残した人物を探す為にあたしは此処にいるんだ。それを手に取った日からあたしの復讐は始まったんだ。


あの火事で死んだ両親と兄の仇をこの手に取る為には情報がいる…犯人の証拠はこの鎌だけ、恨みを忘れぬ様にそれを背負ってあたし熾天使協会セラフィムに入ったんだ。


「VOlTAGE、二人は教会に入った様だよ…VOlTAGE、聞いてる?」


「…あぁ、少しだけぼーっとしてた。中には何人だ?」


「さっきの二人と聖職者ぽいのが一人で後ろに十人くらいいるな…」


「じゃあ、先ずはあのガスマスクからブッた斬ってやるか…」


「女の子は殺さないでね、始末書じゃ済まないから」


「分かってるぜ…じゃあLUSH、行くぜ!」


あたし紅鎌ぐれんに手を掛け、全力で助走を付けて教会の天窓まで高く飛び上がった。


怪漢と紅鎌とヴァンパイア 《白節》[完]

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