#46980

NORA介(珠扇キリン)

最終章 怪漢と紅鎌とヴァンパイア

怪漢と紅鎌とヴァンパイア《黒節》

人がむしの様にひしめき合い、喧騒けんそう時々百済くだら無い噂話うわさばなし戯言ざれごとが飛び交う町。『廃都はいと』の静かさとは対象的に、このOUTCIRCUSは相変わらずさわがしくて苦手だ。


「はぁ、何がいきなり来て出て行けだ…ふざけやがって……」


白髪はくはつのガスマスク野郎、全身黒服で厚底ブーツにシュトロヒコートと背中には鎖ぐるぐると巻いた長刃ちょうばサムライソード、腰には銀ピカ二丁拳銃イーグルツイン…──明らかに町中で浮いている男は路頭ろとうまよっていた。それもこれもあの大天使クリセティールのせいだ。


『=《Equal》、貴方を廃都から追放する事が決定しました。直ちに退去して下さい』


急に押し掛けて来たと思えば、第一声が一方的に俺様を追放するときやがった。おかげで住居を失い困り果てている……


「──という訳でミヤド、泊めてくんない?」


「悪いけどそれは無理ですよ、こうやって飯代くらいなら良いでけど…」


「は?どうしてだよ?良いだろ一晩くらいさぁ…」


「仕事で今日から一週間、BICNOSEの方に行くって言ったじゃないですか。なので家には妻と娘の二人しか居ないんですよ」


「げっ…じゃあ良いや。俺、アンタの奥さんとガキ苦手なんだよね」


目元より下のジッパーを開けると、顔をおおったガスマスクの口元だけが外れる。右の頬には小さくが刻まれている。


「まぁ肝心の妻と娘は喜んでOK出すでしょうけど…──ところで、=さん、その子は誰なんですか?」


そう言ってハンバーガーにかぶりついた俺に唐突にそう尋ねてくるミヤド…彼の指差す方を見ると、俺の横で知らない少女がフライドポテトを見つめていた。


「…ぁあ?もしかしてこれが食いたいのか?」


俺は餌付けする様にフライドポテトを一本摘み、少女の口元持って行くと少女はそれにパクついてまるで野菜スティック噛じる兎の様だ。


「あの、=さん一応聞いておきますけど、その子は知り合いなんですよね?」


「知り合いな訳あるか、こんなガキ知らねぇよ」


「ですよね…いやぁ、親御さんどうしたんでしょうね?…迷子ですかね?」


「一応言っとくが、俺は嫌だぞ?親探しなんて面倒臭ぇし…」


「いや、まだ何も言ってないんですけど…それで君、お母さんはどうしたんだい?」


ミヤドが少女にそう尋ねるが、少女は一向に答える様子は無い…というかそもそも言ってる意味は分かってんのか?


「困ったなぁ…僕は今から汽車に乗る為に駅に向かわなきゃなんだけど…」


「だから俺は絶対に嫌だぞ、そんな面倒事なんてごめんだ」


こっちをチラッと見たミヤドに対してもう一度断っておく。この魔女がつくりし神無き箱庭って呼ばれる隠国エリック・ウォーノルドで人探しなんてロクな事がねぇ…


しかも治安の良くないOUTCIRCUSで人探しなんて、そんな厄介事は御免だ。まず真面な親は幼い子供を一人でウロウロさせねぇし、そもそもPDの連中と関わり合いになりたくねぇ。


「まだ何も言ってないですよね?…というか何で人探しそんなに嫌がるんですか!?よくやってるじゃないですか…」


「あのな、仕事ならまだしもタダ働きなんてやってられるかよ。それに俺のこの格好…見るからに怪しいだろ?」


「=さんも分かってんならそんな格好やめれば良いのに…」


「何か言ったか?…つーかガキ、一人でPDまで…──あれ?さっきのガキ何処行きやがった?」


気付くと先程までフライドポテトを食べていた少女が居なくなっていた。周囲を見渡すが何処にも見渡らず、机の上のポテトも行方不明だ。


「あれ?…さっきまで居たんですけど…少し目を話したら、もう居なくかってて…」


「何でちゃんと見張ってねぇんだよ、お前の担当だろうがよっ…」


「ちょっと待って下さい、いつそんなの決まったんですか!?」


「さっきに決まってんだろ、俺ほらガキ大っ嫌いだし…というか、そういうのはお前の方が向いてるだろ」


「いや、でもいつの間に…まるで一瞬で消えたみたいだ…」


「ん?消えたねぇ…そんな事って有り得んのか?そんな奴って…てかあのガキ、俺のポテト持って行きやがった…」


いや実際、この国には数多の種族が跋扈ばっこしてる。だから、まぁ出来ねぇ事が出来る奴なら山程いる…しかし、まぁ消える種族?ってのは聞かねぇな…いや、でも魔術か魔法でありゃ可能か……


「=さん、そんな事より探さなきゃ…って言っても、僕は今から汽車に乗らきゃなので失礼するんですが…」


「おいマジかよ!俺かよ!?俺があのガキ探すのかよ!?」


そんな大声を上げていたら、気付くと周りをいつの間にやら黒服の集団が取り囲んで居た。それぞれ能面の様な物を着けてフードを被っているし、明らかに怪しい連中だった。


「…あの、同じ事を何回も質問して悪いんですけど、この人達は=さんのお知り合いの方々ですかね?」


「知らねぇよ、こんな怪しい連中なんて…てか何処から湧いて来やがったんだ?」


「…ですよね、何となく分かってたんですけど、怪しい格好なんでお仲間かなぁ〜、なんて…」


そんな事をこそこそと話していると、その中の一人がこちらに近付いて来る。明らかに俺の方に向かって来ている。


「お前が便利屋ロスト・バレッタだな?…」


「はいはい、そうだが…何だお前、俺様に依頼しに来たのか?」


便利屋、LOSTVALLETTA…──所謂、依頼されたら何でもやるって汚仕事おしごとってヤツで、俺は『廃都』のインフラの残ったマンションを拝借、基は許可無く使って生計を立てていた。


「その通りだ。依頼の内容は、この人物を探して欲しい、望む額を報酬にしよう」


そう言いながら男は、その人物の写真を見せてきた。しかし、そこに写っていたのはさっきのフライドポテトのガキだった。


「金欠だからちょうど良かったぜ、下手したら血迷って銀行から無理矢理にでも拝借するところだったぜぇ…だからお前等のその依頼受けてやるよ」


「では、これは前払いの報酬だ。任意額報酬は、この紙に書かれた場所で少女を引渡してからだ」


そう言って男達は写真と封筒を置いてそのまま離れて行った。しかも、人混みの中に全員消えて行きやがったが、ありゃ魔術か何かか?それより…──


「うひょー、金だぜ金!ミヤド、すげぇぞ100万edhiaも入ってやがるぞ!」


「…そんな事より便利屋さん、依頼受けちゃって良かったんですか!?てかこれさっきの子ですよね!?」


「…うっせぇな、俺も今から仕事があるからテメェもさっさと汽車に向かえや」


「いや絶対ヤバい事に巻き込まれますって、たかが人探しで報酬いくらでも払うなんて普通じゃないですよ!?」


そう言いながら口に残りのハンバーガーを詰め込み、ペーパーナプキンを使って拭き取った口元を着脱したマスクで覆った。


「ちょっと、=さん人の話聞いて下さいよ!」


急に退去じゃなくて追放を迫る大天使に明らかに怪しい謎の能面集団の依頼に、そのターゲットに消える少女ねぇ…こりゃ、厄介事も良いところだな。


「ん?…これは、ポテトか?」



何処かの馬鹿が入らない様に封鎖した『廃都』のフェンスが破けて、廃都市と大都市を行き来する大きな入口になっている場所がある。そこにはポテトフライが大量に散らばっている。


「ご丁寧に道に一本づつ落としやがって、ヘンゼルとグレーテルかよ」


あのガキを探す依頼を引け受け少女を探そうと立ち上がったらポテトが地面に落ちていた。それに俺達が居たレストランの野外席の場所から廃都のフェンスまでは一本道の通りになっている、だから目印のポテトでガキが『廃都』に行ったんじゃないかと馬鹿でも分かる。


「…とはいえ廃都市に逃げたとしたら面倒だな、あそこはガキが行くに危険過ぎるからな…」


そんな事を言った矢先、爆裂音が響いた…──そして、目に見える範囲にある建造物が崩れ落ちていくのが分かる。明らかにただ事じゃない…


「…っていうか、あれ俺のマンションだろ!?ふざけんな、何処のどいつだ人の住居を爆発した奴ッ!」


向こうに沸き立つ砂埃の中に少女の姿が、その近くに黒く大きな影が迫っている。緊急事態は目で見て分かる。


「あぁ〜クソ、あのガキは面倒事を持って来てんじゃねぇ!」


全力で少女を追い、走り出した俺の前に黒い影の正体が現れる。それは巨大な土を這う魔獣だった。


「…てか、どんな大物を呼び寄せてんだよっ!」


俺は銃で魔獣を怯ませて、隙を着いて少女を抱き抱えた。少女の身体は軽く済んなりと持ち上がるが、魔獣はまだまだ追って来る。


「くそっ、何でこんなに執拗いんだよ!?ガキ、お前何か持ってんだろっ!」


魔獣ってのは魔力を餌にする…人を食う理由は分かってねぇが、少なくとも個人の魔力が高い程度で群がってくる様なモンじゃねぇ…もしくは特殊な魔力じゃない限りはだ。


「チッ、やるしかねぇか!…ガキ、俺にしがみついてろよッ!」


両手に持った銀の双銃を構えて撃ち放つが、命中した直後に止まり地面に転がってしまう。どうやら魔獣の外皮が硬すぎて通らない様だ。


「くっそ、やっぱり無理だわ!…おいガキ、持ってモンに心当たりは…──ってなんだ?何か空が暗くなって……」


周囲が少しだけ肌寒く薄暗くなっていく、霧まで現れ始め魔獣の動きが止まる…いや、というか止められてしまったと言う方が正しいんだろう。


「おいおい、大天使様が出張って気やがった…こりゃ只事じゃねぇな……」


既に底には氷漬けになった魔獣が転がっていた。空中で羽を広げる蒼白そうはくつばさ、水と氷結、命さえもを司る、この国の治める我等が七人の大天使様の一人…──クリセティール…


「まずいぞガキ、早く逃げるぞ!賞金が無くなっちまう!」


多干渉を避けてる大天使が直接に出てくるってのは間違えなく悪い状況だ…とは言ってもだけど、それでも公の干渉は明確な厄介事もんだい役目しめいがあるからだ。間違えなく、その厄介事はこのガキだ……


「ここまで逃げれば大丈夫だろ、とっと中に入ろうぜ…」


あの能面集団が前払いと置いてった紙に書いてあった少女の引渡し場所は、この『廃都』にあるかつては教会だった場所だ。


「それより手前、さっき魔獣が執拗かったが…──ん?お前、手に何握り締めてるんだ?…ちょっと、それ見せやがれ」


大人しく手の平を見せたガキが握っていたのは只の紙切れだった。それを手に取ってるが…見た感じは何の変哲もない紙の切れ端だ。しかし、裏に何か書かれて……


「おいガキ、他には何か持って…──お、おおいっ!脱がなくて良い、てかこんな所でや脱ぐなっ!」


急にガキが脱ぎ始めたのでそれを慌てて静止した。全く何も喋らないから考えてる事が全く分からない…少女が服を脱ぐのを辞めたのを見て安心してから、裏替えした紙切れに目を通した。


「おいおい、嘘だろ…これって……」


その紙切れに書かれていたのは46980という数字だった。それは自分の頬に刻まれたと一致していた。


「おいガキ、コイツを何処で……って、聞いても喋らねぇよな…」


さっき脱ごうとしたし、それを止めて聞いたなら言葉は理解できてんだろうが…まぁ、それより早く連中に引渡しちまうか……


俺は教会の扉を開けて、ガキと一緒に中に入る。すると教会には複数人の黒いローブの集団とその先頭に首に巻い十字架を下げた神父様がいた。


「何やら騒がしかった様ですが、何かありましたか?便利屋ロスト・バレッタさん」


「おいおい、こりゃ何の冗談だ?廃教会に神父様、まだ此処には神様が居るのか?」


「そちらも面白い冗談ですね、このエリック・ウォーノルドに神などはなからいませんよ」


「俺に依頼した連中には能面野郎しか居なかった気がしたがねぇ…」


「彼等には私達が頼んだだけです、依頼の代行というものですね」


コイツら、あの能面集団とは違うとは思ってたが、仲間でもなくて只の依頼代行か…このガキを真に欲しがってたのはこの宗教野郎共か……


「では、約束通りその不可視の吸血鬼…いえ、彼女の持っているを戴きたい」


「不可視の吸血鬼?コイツの持ってる物?…何か新しい単語が出てくるな…──もしかしてだが、この紙切れの事か?」


俺は手にした紙切れの端を持ってゆらゆらと揺らして見せる。神父の視線はこちらに向き、先程までとは違う冷たい表情をして口を開いた。


「便利屋さん、貴方の様な無法者の良いところは、依頼をしたら理由を話さずとも仕事を熟す事ですよね?」


「そう怒んなって、依頼は真面目に熟して、ブツを回収する手間も省いてやっただけじゃねぇか、寧ろ報酬をもっと弾んで欲しいくらいだ」


「チッ…これだから脳の足りない無法者は……良いでしょう、報酬を上乗せします」


「何か余計な一言が聞こえたけど、俺は優しいから金の為に目を瞑る…いや、耳を塞ごう」


しかし、まぁ…コイツらが欲しがるこの紙切れは普通じゃねぇって事だよな?…恐らく魔獣が執拗い理由もこれ、でもたかが魔力を込めて紙切れに集る訳ねぇってなると……


「一つ質問だ、お前らって魔女教ウィズダムの連中か?」


「あんなテロ組織と一緒にしないでもらいたい、ですがそれの正体には勘付いているのですね?」


「分かんねぇよ、でも魔女絡みって事は分かる…そしてこのエリック・ウォーノルドに過去、偉大なる魔女は一人だけ…──」


「便利屋さん、長生きしたいなら気付いた事をペラペラと口にしない方が良い…」


「分かってるって、詮索するつもりは無いからな…金さえ貰えればそれで良い」


しかし、服装と十字架で分かっていたが魔女教ウィズダムじゃねぇ…エリック・ウォーノルドには連中含めて三つしか宗教が無い…だったら代行を雇わなきゃいけない様な表向きは真面な二宗教の連中か…いや、目の前のがどっちだろうと大問題だが…俺には関係ねぇか…


「分かったけどさ、こっちの紙切れが本命ならこのガキは要らないのか?」


「それは好きにして下さい、報酬の1つして…要らないなら、どっかの研究機関に売り飛ばして下さい、大金に変わります」


「あ〜はい、分かったぜ…じゃあ、紙切れを先に渡す」


「助かります、貴方は金で動く人間の中でも優秀だ。是非、また機会さえあれば依頼したいです」


「そりゃどうも、依頼してくれると助かるぜ…」


俺は紙切れを片手に神父の方に歩いて向かって行く…──そんな時、急にステンドグラスの窓が割れ日光が暗い教会に流れ込む。そして天井から……


「くたばりやがれッ!クソ野郎ぉぉぉぉぉ!」


「なっ!?何だコイツっ……」


俺は慌てて避けるが、目の前には真紅の大鎌に持った白コートのブロンド少女、同じく白いコートを着た茶髪の野郎がいた。


「悪いけど邪魔するよ、その少女と紙切れに用が合ってね?」


俺と正反対の白いコートに金のバッチ、そこに書かれたA/51という数字、女の方はC/21の数字…心当たりがある。


「LUSH、此処にいる奴らはあの吸血鬼以外はブッ殺して良いんだっけ?」


「VOlTAGE、集団は生け捕りで良い、あっちのは…うん、殺して良いよ」


バッチにその強さをランクとその順位を明記する七天使の直轄の治安維持部隊…──熾天使協会セラフィムだ。



フライドポテトと最終話 《黒節》[完]

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