#46980
藤倉(NORA介)
最終章 怪漢と紅鎌とヴァンパイア
怪漢と紅鎌とヴァンパイア《黒節》
人が
「はぁ、何がいきなり来て出て行けだ…ふざけやがって……」
文句を言いながら歩く
『=《Equal》、貴方を廃都から追放する事が決定しました。直ちに退去して下さい』
それもこれもあの
急に押し掛けて来たと思えば、第一声が一方的に俺様を追放するときやがった。お
「──という訳でØ《ZERO》くん、しばらく泊めてくんない?」
「昼飯を奢らせておいて、更に要求とは図々しいな…」
「頼むぜ、長い付き合いだろ?一晩くらいさぁ…」
「今日から仕事で一週間、ビッグノーズの方へ行く。その間に部屋をお前みたいな奴に荒らされたくない」
=が目元より下のジッパーを開けると、顔を
「失礼だな、荒らさねぇよ。俺は空き巣じゃねぇんだぜ?」
そう言ってホットドッグにかぶりついた俺の隣に、Øが神妙な目を向ける……俺も気になって横を見ると知らない少女がフライドポテトを見つめていた。
「…ぁあ?もしかしてこれが食いたいのか?」
俺は餌付けする様にフライドポテトを一本摘み、少女の口元持って行く。少女はそれにパクついていて、野菜スティックの様に噛じっている。兎かな?…
「おい便利屋、一応聞いておくが…その子は誘拐した訳じゃないよな?」
「…っんな訳あるか、こんなガキ知らねぇよ。依頼じゃなきゃ誘拐なんて面倒はやらねぇよ」
「依頼があるなら人攫いもやるのか、相変わらずのロクデナシだな」
「金次第で何でもやるのはお互い様だろ、同じ穴のムジナだ」
少女は暫く見て、こっちをチラッと見たØの言いたい事を察して俺は首を横に振る。ただ働きはゴメンだ…
「便利屋、僕はそろそろ駅に向かわなきゃいけない」
「俺は嫌だぞ、
眼鏡をクイッと上に上げた後に睨み付けてくるØ、嫌だと言っているのに何故こうも執拗いんだ。まず、俺の様な怪男に正義とか道徳を説くのも間違っている。
まず真面な親は幼い子供を一人でウロウロさせねぇし、それ以上に厄介事に巻き込まれる。
「…何故嫌がる?人探しは良くやっているだろう?」
「それは仕事だからだ。それに俺のこの格好…見るからに怪しいだろ?」
「…分かっているならその格好やめろ。子供と居たら間違えなく
「分かってんなら俺に言うなよ…というかガキ、一人で交番まで……──あれ?さっきのガキ何処に行きやがった?」
気付くと先程までフライドポテトを食べていた少女が居なくなっていた。周囲を見渡すが何処にも見渡らず、机の上のポテトも行方不明だ。
「 あのガキ、俺のポテト持って行きやがった…Ø、何でちゃんと見張ってねぇんだよ!お前の担当だろう?」
「ちょっと待って、いつそんなの決まった?」
「さっきに決まってんだろ、俺ほらガキ大っ嫌いだし…というか、そういうのはお前の方が向いてるだろ」
「僕も好きでは無い…というか、さっきまで居た筈だ。これじゃ、まるで本当に消えたみたいだな…」
「ん?消えたねぇ…そんな事って有り得んのか?」
いや実際、この国には数多の種族が
しかし、まぁ消える種族?ってのは聞かねぇな…いや、でも魔術か魔法でありゃ可能か……
「便利屋、俺はそろそろ行く…さっきの少女には関わるなよ」
「言われなくても関わるかよ…何かきな臭いしな」
お互いに席を立とうして気付くと、周りをいつの間にやら黒服の集団が取り囲んで居た。それぞれ能面の様な物を着けてフードを被っている。
「…おい便利屋、お前の連れか?友達の分は奢らないぞ」
「知らねぇし、それに怪しい奴はだいたい友達なんて自己紹介した覚えはねぇよ…てか、コイツら何処から湧いて来やがったんだ?」
そんな冗談を言い合っていると、その中の一人がこちらに近付いて来る。そして能面はポケットから小切手と一枚の紙を取り出し机に置く…なるほどな。
「ほう、お前に依頼する物好きがいるとはな…」
「だが、そいつがその物好きって訳じゃなさそうだな。まぁ良いや、金と内容次第だ…」
久々の依頼だ、小遣い稼ぎにはちょうどいい。何でもやるって
「さて、依頼内容は…──とある人物を指定の場所まで届けると…」
「何だ、人攫いか…噂すれば何とやらだな、便利屋家業も大変だな…」
そして『ターゲット』の矢印の誘導により依頼内容の書いた紙をひっくり返した。裏側に貼り付けられた写真…そこに写っていたのはさっきまでそこに居たガキだった。
「おい、これは…お前、悪い事は言わないが…」
「金欠だからちょうど良かったぜ、お前等のその依頼受けてやるよ」
そう言うと男達は、そのまま写真と小切手を置いて離れて行った。しかも、人混みの中に全員消えて行きやがった…ありゃ何かの魔術か?それより…──
「うひょー、大金だぜ!すげぇぞ1000万E(エリシア)っ!」
「…お前、分かっているのか?あの少女には何かあるぞ」
「…うっせぇな、俺も今から仕事があるからテメェもさっさと汽車に向かえや」
そう言いながら口に残りのホットドッグを詰め込み、ペーパーナプキンを使って拭き取った口元を着脱したマスクで覆った。
「便利屋、どうなっても知らないからな…」
急に退去じゃなくて追放を迫る大天使に明らかに怪しい謎の能面集団の依頼に、そのターゲットに消える少女ねぇ…こりゃ、厄介事も良いところだな。
「ん?…これは、フライドポテトか?…あのガキ、勿体ねぇ事しやがって……」
◇◆◆
何処かの馬鹿が入らない様に封鎖した『廃都』のフェンスが破けて、廃都市と大都市を行き来する大きな入口になっている場所がある。そこにはポテトフライが大量に散らばっている。
「ご丁寧に道に一本づつ落としやがって、ヘンゼルとグレーテルかよ」
あのガキをとっ捕まえる依頼を引け受けて少女を探そうと立ち上がったらポテトが地面に落ちていた。
「何でわざわざ俺に真っ先に分かる様な目印を残したかは知らんが…」
まぁ、それは置いといて…俺達が居たレストランの野外席の場所から廃都のフェンスまでは一本道の通りになっている。だから目印のフライドポテトでガキが『廃都』に行ったんじゃないかと馬鹿でも分かる。
「…とはいえ廃都市に逃げたとしたら面倒だな、あそこはガキが行くに危険過ぎるからな…」
そんな事を言った矢先、爆裂音が響いた…──そして、目に見える範囲にある建造物が崩れ落ちていくのが分かる。明らかにただ事じゃない…
「…っていうか、あれ俺のマンションだろ!?ふざけんな、何処のどいつだ人の住居を爆発した奴ッ!」
向こうに沸き立つ砂埃の中に少女の姿が、その近くに黒く大きな影が迫っている。緊急事態は目に見えて分かる。
「あぁ〜クソ、あのガキは面倒事を持って来てんじゃねぇ!」
全力で少女に追い付く為に、走り出した俺の前に黒い影の正体が現れる。それは巨大な土を這う魔獣だった。
「…てか、どんな大物を呼び寄せてんだよっ!」
俺は銃で魔獣を怯ませて、隙を着いて少女を抱き抱えた。少女の身体は軽く済んなりと持ち上がるが、魔獣はまだまだ追って来る。
「くそっ、何でこんなに執拗いんだよ!?ガキ、お前何か持ってんだろっ!」
魔獣ってのは魔力を餌にする…人を食う理由は分かってねぇが、少なくとも個人の魔力が高い程度で群がってくる様なモンじゃねぇ…もしくは特殊な魔力じゃない限りはだ。
「チッ、やるしかねぇか!…ガキ、俺にしがみついてろよッ!」
両手に持った銀の双銃を構えて撃ち放つが、命中した直後に止まり地面に転がってしまう。どうやら魔獣の外皮が硬すぎて銃弾が皮膚に刺さるのがやっとだ。
「くっそ、やっぱり無理だわ!…おいガキ、持ってるモンに心当たりは…──ってなんだ?何か空が暗くなって……」
周囲が少しだけ肌寒く薄暗くなっていく、霧まで現れ始め魔獣の動きが止まる…いや、というか止められてしまったと言う方が正しいんだろう。
「おいおい、大天使様が出張って気やがった…こりゃ只事じゃねぇな……」
既に底には氷漬けになった魔獣が転がっていた。空中で羽を広げる
「まずいぞガキ、早く逃げるぞ!賞金が無くなっちまう!」
多干渉を避けてる大天使が直接に出てくるってのは間違えなく悪い状況だ…とは言っても彼奴は特別だけど、それでも公の干渉は明確な
「ここまで逃げれば大丈夫だろ、とっと中に入ろうぜ…」
あの能面集団が置いてった紙に書いてあった少女の引渡し場所は、この『廃都』にあるかつては教会だった場所だ。
「それより手前、さっき魔獣が執拗かったが…──ん?お前、手に何握り締めてるんだ?…ちょっと、それ見せやがれ」
大人しく手の平を見せたガキが握っていたのは只の紙切れだった。それを手に取ってるが…見た感じは何の変哲もない紙の切れ端だ。しかし、裏に何か書かれて……
「おいガキ、他には何か持って…──お、おおいっ!脱がなくて良い、てかこんな所でや脱ぐなっ!」
急にガキが脱ぎ始めたのでそれを慌てて静止した。全く何も喋らないから考えてる事が全く分からない…少女が服を脱ぐのを辞めたのを見て安心してから、裏替えした紙切れに目を通した。
「おいマジかよ…こんな形で……」
その紙切れに書かれていたのは♯46980という数字だった。それは自分の頬に刻まれたそれと一致していた。
「おいガキ、コイツを何処で…って、聞いても喋らねぇよな…」
さっき脱ごうとしたし、それを止めて聞いたなら言葉は理解できてんだろうが…まぁ、それより早く依頼者に引渡しちまうか……
俺は教会の扉を開けて、ガキと一緒に中に入る。すると教会には複数人の黒いローブの集団とその先頭に首に巻い十字架を下げた神父様がいた。
「何やら騒がしかった様ですが、何かありましたか?
「おいおい、こりゃ何の冗談だ?廃教会に神父様、まだ此処には神様が居るのか?」
「そちらも面白い冗談ですね、このエリック・ウォーノルドに神など
「俺に依頼した連中には能面野郎しか居なかった気がしたがねぇ…」
「彼等には私達が頼んだだけです、依頼の代行というものですね」
まぁだろうな、分かってて聞いたしな。このガキを真に欲しがってたのはこの宗教野郎共って訳だ。
「では、約束通りその不可視の吸血鬼…いえ、彼女の持っている物を戴きたい」
「不可視の吸血鬼?…持ってる物?何か新しい単語が出てくるな…──もしかしてだが、この紙切れの事か?」
俺は手にした紙切れの端を持ってゆらゆらと揺らして見せる。神父の視線はこちらに向き、先程までとは違う冷たい表情をして口を開いた。
「便利屋さん、貴方の様な無法者の良いところは、依頼をしたら理由を話さずとも仕事を熟す事ですよね?」
「そう怒んなって、依頼は真面目に熟して、ブツを回収する手間も省いてやっただけじゃねぇか、寧ろ報酬をもっと弾んで欲しいくらいだ」
「チッ…これだから脳の足りない無法者は…良いでしょう、報酬を上乗せします」
「何か余計な一言が聞こえたけど、俺は優しいから金の為に目を瞑る…いや、耳を塞ごう」
しかし、まぁ…コイツらが欲しがるこの紙切れは普通じゃねぇ…それに、それは俺が一番分かってる。恐らく魔獣が執拗い理由もこれ、でもたかが魔力を込めて紙切れに集る訳ねぇってなると……
「一つ質問だ、お前らって
「あんなテロ組織と一緒にしないでもらいたい、ですがそれの正体には勘付いているのですね?」
「分かんねぇよ、でも魔女絡みって事は分かる…そしてこのエリック・ウォーノルドに過去、偉大なる魔女は一人だけ…──」
「便利屋さん、長生きしたいなら気付いた事をペラペラと口にしない方が良い…」
「分かってるって、詮索するつもりは無いからな…金さえ貰えればそれで良い」
しかし、服装と十字架で分かっていたが
「分かったけどさ、こっちの紙切れが本命ならこのガキは要らないのか?」
「それは好きにして下さい、報酬の1つとして…要らないなら、どっかの研究機関に売り飛ばして下さい、大金に変わります」
「あ〜はい、分かったぜ…じゃあ、紙切れを先に渡す」
「助かります、貴方は金で動く人間の中でも優秀だ。是非、また機会さえあれば依頼したいです」
「そりゃどうも、依頼してくれると助かるぜ…」
俺は紙切れを片手に神父の方に歩いて向かって行く…──そんな時、急にステンドグラスの窓が割れ日光が暗い教会に流れ込む。そして天井から……
「くたばりやがれッ!クソ野郎ぉぉぉぉぉ!」
「うわっ、危ねぇっ!?……」
俺は慌てて避けるが、目の前には真紅の大鎌に持った白コートのブロンド少女、同じく白いコートを着た茶髪の野郎がいた。
「悪いけど邪魔するよ、その少女と紙切れに用が合ってね?」
俺のコートと正反対の白いコートに金バッチ、そこに書かれたA/51という数字、女の方はC/21の数字…心当たりがある。
「LUSH、此処にいる奴らはあの吸血鬼以外はブッ殺して良いんだっけ?」
「VOlTAGE、集団は生け捕りで良い、あっちの混ざりものは…うん、殺して良いよ」
バッチにその強さをランクとその順位を明記する七天使の直轄の治安維持部隊…──
フライドポテトと最終話 《黒節》[完]
#46980 藤倉(NORA介) @norasuke0302
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