夢の国を、引いて巡る

改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 )

引いていきます、あなたのことを

 それは白馬に乗ってやってきた。最悪だ。


 今日は小三の娘と遊園地にやってきた。案の定、来園客は少ない。どの乗り物にも並ばずに乗れる。その後、乗り物が戻ってくると、子供たちはすぐに降りてきて、次のお目当ての乗り物の所に向かう。親はそれを追いかけなければならず、難儀だ。


 どの親も走る子供に手を引かれて疲れ顔だ。当然、私も。


 私の腕を引っ張りながら進む娘が急停止して先を指差す。


「ウチ、今度はアレに乗りたい」


「まだ乗るんかいな。ハイペース過ぎるで。ちょっと休もか。オトン疲れたわ」


「保護者が先にギブアップして、どないすんねん。オトンはウチの保護者やろ。ちゃんと最後まで保護してもらわな」


「そやけどな、自分、走り過ぎやで。大人の体力には『限界』っちゅうもんがあんのや。ウルトラマンもそやろ。ここんとこでカラータイマーがピコンピコン鳴っとるやんけ」


「知らんがな。なんで宇宙人と比べんねん。オトンは地球人やろ!」


「そやがな。だから疲れとんねん」


「ほな、ウチはなんやねん。ウチも地球人やで。同じ地球人同士やのに、なんでオトンだけ疲れんねん!」


「そら、おまえが宇宙人の子やからやがな」


「はあ? ウチはオトンとオカンの子やないの?」


「そや。驚いたか。衝撃の事実やろ」


「小劇場の秘密? ウチ、芸人さんの隠し子なん?」


「なんでやねん。オトンは芸能記者か。もうええわ。で、次は何に乗んねん」


 娘は頬を膨らませて、まっすぐに正面を指差した。


「メリーゴーランドかいな。堪忍してや……」


「なんで。はよ、行こ」


「わかった、わかった」


 私の袖を引く娘と共に、私はメリーゴーランドの方に向かった。これが大失敗だった。


 この乗り物も客は並んでおらず、すんなりと中に入れた。娘はキラキラ全開のかぼちゃの馬車に乗り込んだ。金縁の小さな籠の中から娘は言う。


「オトン、オトン。何しとん」


「は?」


「は?やないがな。馬車に乗ってんねんで、ウチ。薬草エステの箱ちゃうでコレ。馬車や、馬車!」


「分かっとるがな」


「手綱は誰が握るん。娘が野生馬に引かれて行ってええのんか?」


「そら、アカンな」


 私が馬車の運転台に近づくと、係員が手を振りながら「それは白馬に乗ってや」って来た。運転台に大人は座れないらしい。私は仕方なく前の白馬に跨った。すごく恥ずかしい。目の見えない娘にもバレているようで、笑っていた。


 開始のブザーが鳴る。今度は私が娘を引いて夢の国を回っていった。



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夢の国を、引いて巡る 改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 ) @Hiroshi-Yodokawa

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