最終話 魔王

 尾関は自殺という形で復讐を行った。

 いじめが発覚し、校内は大騒ぎになり、テレビや新聞にもこの件は取り上げられた。

 しかし、今のところ、中途半端な結果になってしまっている。

 学校側はいじめをなかなか認めないし、

 いじめた奴はネットでこそ叩かれているものの、学校側からなにも処分は受けていない。

 彼らはいまだ普通に学校に通って、普通に学校生活を送っている。


 このままだといじめたやつらは、大した制裁を受けず、生きていくことになる。

 そんなことが許されていいのか?

 彼女の復讐がこの程度の結果に終わっていいのか?

 いいはずがない!

 だから……俺は動くことにした。



 俺はその日、台所から包丁を持ち出し、通学カバンの中に入れた。

 学校には少し遅刻していった。

 今はたぶん、ホームルームが行われている頃だろう。

 教室の中に入ると、ちょうどホームルームを始めたところだったらしい。

 教壇にいる先生に「大竹、遅刻だぞ、早く席につけ」と言われ、自分の席へ向かう――

 と、見せかけて、窓際最後尾にいる中山の方へ行った。


「な、なによ」


 と動揺しながらも強気な目を俺に向けてくる中山。

 俺はカバンの中に手をスッと入れた。

 そして包丁を手に取ると、カバンから包丁を持った手を出し、すぐさま彼女の首を一閃した。


「え?」


 と中山は何が起きたのかわからないといった感じの表情。

 彼女の首筋から血が噴き出し、椅子と一緒に彼女はその場にガタンっと転げ落ちた。

 たぶん、死んだ。

 ……これが人を殺す感触、か。

 案外、あっけないんだな、と思った。特に快感も罪悪感も湧き上がらなかった。

 教室はシーンと静まり返っている。

 やがて、女子たちの甲高い悲鳴が教室にとどろいた。


「きゃぁぁぁああああああー---!」


 うるさい、と思いながら、俺はほかのターゲットを補足する。

 尾関をいじめたやつを、全員殺さないと。

 彼女の殺したいやつリストに載っていた人間は、まだまだたくさんいる。


 俺は一番近くにいた、リストにあった奴のところへ行き、その場で固まって動けないそいつの首を包丁で引き裂いた。

 血しぶきが舞い、俺の顔や制服に返り血が付いた。

 さっきと同じように、何の感情も抱かなかった。

 さぁ、次だ次。


「ひぃぃぃぃ!」


 先生が一目散に教室を出ていく。

 それに追随する形で、生徒たちも教室を出ていこうとする。

 あ、まずい、逃げられる。

 俺はその場でガタガタと震えて、動けなくなっている奴らをいったん放置して、逃げている奴らから切りかかった。

 背後からリストにあったやつらを次々とぶっ刺していく。

 ぶすり、ぶすっ、ぶしゃぁぁっ!

 尾関をいじめていたやつらがどんどん血を撒き散らしながら、倒れていく。

逃げていたターゲットを全員殺した後、席でブルブルと震えて、肉食獣を前にした小動物のようになっている奴らの方に歩み寄った。


「た、助けて……」


 涙を流しながらそう懇願する男。

 その姿を見ても、まったく憐憫の情が湧かない。殺さなきゃ、としか思わない。

 自分が殺戮をするために作られたロボットのように感じた。

 その男の首を、包丁で突き刺した。


「あ……あっ……」


 息苦しそうにする男。

 包丁を抜くと、ぼたぼたと血を床に落としながら、倒れていった。

 まだ全員殺してない。次だ。

 脆弱な人間たちを次々と殺していく。

 なんだ、威張っていたやつらもやられる側になると、こんなに弱弱しくなるんだな。

 あまりにあっけなく死んでいくので、人を殺しているというより、淡々と流れ作業をこなしている感じだ。

 このクラスでリストに載っていたやつは、これで全員殺した。

 あともう一人、殺さないといけない奴がいる。


 俺は赤く染まった包丁を持ちながら、返り血でべとべとになった体を動かした。

 走って、走って、最後の一人がいる二年一組の教室のドアを開ける。

 教室中の視線が俺の方を向く。

 みんな、あっけにとられていた。

 俺はダッシュして、一番後ろの席にいた、城石の方へ行く。

 ぽかんとあほ面を浮かべているあいつの顔に、包丁を突き刺した。

 ぶしゃぁぁっと血が流れ、椅子から転げ落ち、城石は血で赤く染まった顔を床に叩きつけた。

 あんなにきれいだった城石の顔が、見るも無残な姿になっていた。

 高音の絶叫がたくさん聞こえてきた。生徒たちがバタバタと慌ただしく、教室から出ていく。

 すぐに、この教室には俺だけしかいなくなった。


 やった……

 やってしまった。

 ああ……俺はやり遂げてしまった。

 これで、全員、殺した。

 達成感は……訪れなかった。

 やってきたのは、解放感と虚脱感だけだった。


 彼女の殺したいやつリストにあった人間は一人残らず死んだ。

 あいつは、喜んでくれるだろうか?

 それとも悲しむだろうか?

 でも、これで彼女の復讐は完遂した。


 返り血で全身赤く染まった俺はその場を動けなかった。

 なんだか、自分の体が自分のものじゃないみたいだ。

 ああ、疲れた……すごく、疲れたよ……。

 

 サイレンの音が外から聞こえてくる。

 やがて、複数人の足音がこちらに近づいてきているのを感じた。


「包丁を捨てろ!」


 警察が来た。

 銃を構えながら、教室に入ってくる。

 俺は素直に従い、包丁をそこら辺に放り捨てて、その場に倒れ込むように座り込んだ。

 そして、俺はあっけなく捕まった。




 その後の話。

 この事件は長い間世間を騒がせた。

 警察の事情聴取や精神鑑定でなんで殺したか聞かれて、

「俺は魔王だから。人間を殺す、それが悪役である魔王の役割でしょう?」

 と答えたら、その発言が話題になり、俺の部屋に漫画やゲームがあったからそのこともあって、漫画やゲームが悪影響を及ぼして起こった事件だとテレビのコメンテーターや評論家が言っていた。

 俺はネット上では「魔王」と嘲笑と侮蔑を込めて呼ばれているらしい。

 この事件は海外でもニュースになったようで、俺の悪名は世界中に知れ渡った。

 俺は魔王として、それからも生き続けた。

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魔王とゴブリンの恋 桜森よなが @yoshinosomei

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