第9話 新しい出発

 「うーーーん、よく寝た」


 自分が医療ポッドから救助されて意識が戻って、ずっと忙しかった。

 ふかふかのベッドとは言わないけれど、こうやって身体を伸ばして横になれるのは疲れが取れるかのようだ。

 いつ死んでもおかしくない状況になっていたのも遠い過去のように感じている。

 まぁ、こうしてゆっくり出来るのは万が一、先日の様な宇宙怪獣が出た場合は、監視しているアカシとシルバースターのミリアがすぐ報告してくれる手筈になっているからではあるのだが。

 最初は、アカシのレーダーもあるからとミリアにも休んで欲しいと伝えるとシルバースターの面々で交代しながら休めると言うので無理に止めたりはしなかった。

 そのシルバースターも外よりは安全だと考えて格納庫へと係留している。

 今はブラックバーン達は、各々見張りもしているがシルバースターの船室でゆっくりと休んでいるそうだ。

 そう出来るのもアカシⅡの艦尾には格納庫や倉庫が丸々と残っていて、休んでいても問題無いと判断出来たからである。

 その物資も多く残っていて目録で管理は出来るものの全ての物資を運び出す事が難しい。

 だからといって置いていくのもどうかと悩んでいたのだがアカシと相談していた。

 今のこの艦の所有者は、自分になっている。

 多目的結晶エーテルドライブを通して、所有者変更も通っているそうだから、自分以外の誰かがこの艦の積荷に手を出すのは犯罪になる。

 しかし、船が自走する事が出来ないのだ。

 デブリ帯からは動く事もままならないので、いっそのことこのままデブリ帯に隠しておいて必要な時に回収に来る事も考えている。

  今回、新たに手に入ったスーツは【帝国軍海兵隊正式採用強化装甲服】というのが正式名称らしい。

 ブラックバーンからお下がりで譲ってもらったスーツの性能なんて目じゃなかった。

 パワーもスピードも、耐久力、稼働時間もかなりのものだ。

 ただ、かなり良い物ではあるそうだし相談するとブラックバーンからは、必要な時だけ装着した方が良いかもしれないと言われた。

 要は、目立たない様にした方がいいのだと。

 ブラックバーンの船も実際にはあのデザインはだいぶ目立ってきた様子で、搭載された機動兵器も含めてアカシによると、帝国軍の後期生産型の兵器群のリストの中に似ているものがあったそうであの性能も頷けるらしい。 

 

 「イナト二士」

 

 アカシⅡに呼ばれて格納庫へと向かう。

 今では、アカシの案内が無くても格納庫へと辿り着ける。


 「アカシ、これから俺はどうしたらいいと思う?」

 「アカシは、あなたが進む道を支えていくつもりですよ」


 そうか。

 今のままでは、ブラックバーンの船に乗ったままというわけにもいかない。

 それはわかっている。 やはり、自分の船が欲しい。

 スーツは手に入れたおかげで、色んな仕事の幅は増えていても何かあった時に自分の船が無いと逃げる事も出来ない。

 あんな宇宙怪獣が大量に出てきたらと思うとゾッとする。


 「船、欲しいな」

 「アカシも賛成です。 イナト二士はあの船で来たのですよね?」


 そう、ブラックバーンが自分をここまで乗せてくれたのだ。

 おかげで、消えた記憶の事を知っている彼女とも出会えたのだ。

 ありがたい話である。

 この船を使える様に出来ないかとアカシにも確認するが損傷が激しい為、一から造った方が良いと言われた。

 ただ、ゆくゆくはこの船の物資もう移したほうが良いのは間違いない。

 艦の修理をするにしても一から作るにしても帝国軍の保有するドッグ艦でも無い限りは難しい。


 「そう言えば、この船には脱出用の船はないのかい?」

 

 ハッとした顔をすると、アカシは何かを操作し始めた。

 格納庫内に配置されている重機や整備用のロボットが動き出している。

 まだ一部の荷物が崩れてしまっており、その先へと進もうと片付けを始めていた。


 「あまり、質の良いものではありませんが少々お時間を頂きたく」


 彼女に任せておけば、きっとなんとかなるに違いない。

 任せると言って、ブラックバーンのいるシルバースターへと向かおう。


 「よう、イナト」


 ちょうど彼も同じことを考えていたのだろう。

 シルバースターからブラックバーンが来るのが見えた。


 「お疲れ様です、疲れは少しでも取れましたか?」

 「ありがとうな、イナト。 シルバースターも損傷したところまで修理してもらって」

 「お世話になったのはこちらの方です。 少しでもお役に立てたなら」


 アカシに積まれた医療物資も、今主流のナノマシン治療では無いがナノマシンを投与出来ない層やそういう主義の人々にも安心して使うことのできる技術らしく今回だけで大金になるだろうと言っていた。

 ブラックバーンには話していないが、この船自体がそう言った医療に関する設備がまだ生きているおかげでさらに必要な材料や物資を手に入れる事が出来れば大量生産とまではいかないが確保出来るそうだ。

 それがあればお金には困る事はないかとも考えたがそんな薬を大量に捌けば、どこに目を付けられるかもわかったものでは無いと考え直した。

 アカシもその方が良いだろうと言う。

 どうも、大きな利権が絡む問題は大きすぎて怖い。

 他にも、今回修理で使った資材もシルバースターをさらに強化する事も出来たようで。

 エンジンの出力もさらに上がって報酬としては、もらいすぎたと笑っている。


 「今、こうして自分がここに居るのも助けてもらったからですから」

 「わかった、ありがとう」


 その他にも必要な物はあるかと一緒に目録を確認してみたが、全ての機能をロックし自分が必要な時に戻って来れる様にしていこうと話し合った。

 それから数日は、ここで時間を潰す事にしたのだった。


 「イナト二士、完成しました」


 多目的結晶エーテルドライブでアカシから呼び出される。

 何が完成したのだろうか。

 

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