【此処ではない何処か】

 【軽巡 キソ ヨリ入電】

 【被害甚大、修復不可能ニヨリ艦隊ヨリ離脱】

 【了解。 航空支援開始】


 ここでは無い何処か。

 今の人類には忘れられた宙域。

 遠く離れた所からその宙域に視線を凝らすと、新たな星が生まれては消えているように見える。

 それは自然の摂理とは違う人工的、作為的に生み出された光だった。

 戦列を維持していた一隻の艦船の蓄積されたダメージが許容値を超えてしまい、離脱する。

 その空いた穴を抜けようとする敵対生命体【宇宙怪獣】の一体を止めるべく、【空母 アカギ】から発艦した戦闘機部隊が攻撃している。


 【第七戦闘機部隊損耗率18パーセント】

 【了解。 軽巡 キタカミ 着。 支援砲撃開始】

 【弾着、今】


 キタカミ から放たれたエーテル砲、エーテル魚雷が キソ の離脱した穴へと殺到していたが集中砲火を浴びて宇宙怪獣は塵芥となった。

 兵士級と呼ばれる個体が船体へと殺到するが、白兵戦に特化した戦闘人形が撃破していく。

 何千体と取り付かれた訳では無いのだ。 今はこの戦列を維持しなければならない。

 キタカミ の統合AIが強引に戦列へと入りこむ。

 この襲撃を乗り超えれば、艦の修復や補給も可能だろう。

 最後の大型宇宙怪獣が沈む。 またしばらくは落ち着いた時間を過ごす事が出来るだろう。

 戦列を維持していた駆逐艦戦隊を指揮下へ配備し、対空警戒網を敷き直す。

 これで、戦隊リンクを開いてより効率よく


 【キタカミ 救援助カッタ】

 【サザナミ ハ無事カ?】


 統合AI同士で軽口を言い合える仲になったのはいつ頃だっただろうか。

 もう、長い事になる。

 


 【エーテルリンク構築開始】

 【アカシⅡヨリ入電】

 【アカシⅡハ沈ンダハズデハ?】

 【艦長帰艦、繰リ返ス。 艦長帰艦】


 数ある艦を修復、戦線を支え続けた移動要塞【イオージマ】のAIに衝撃が走った。

 それだけに限らず、この宙域を守護する任務を受け持った帝国軍第三艦隊全てに衝撃が走ったのだ。

 【アカシⅡ】からの長距離通信は、エーテルゲートを使って何度かジャンプした先にある宙域からである。

 しかし、大戦末期に傷病兵を乗せ後方へ退避する最中に攻撃を受けて沈んだ艦が【アカシⅡ】からの超長距離通信が突如回復したのだ。

 何が起きているのか。

 現在、同宙域に展開する一三個艦隊から長距離通信を用いて会議室へと各艦の統制AIが集まった。


 【アカシⅡハ、コレヨリ帝国軍海兵隊第1710所属ニ】

 【海兵隊!?】

 【帝国軍最後ノ生存者。 コチラカラハ返答ハ出来ナイ】


 暗号化され、ゲートも多数使った長距離通信である。

 万が一、宇宙怪獣側が傍受しそこへジャンプされた場合を考えるとリスクが大きい。

 キソ が戦列を離れた際に中型宇宙怪獣がエーテルジャンプで消えた事が確認された。

 もうすでにそこに行った可能性も考えられる。

 このまま通信を行う事に危険も伴う為、こちらから宇宙怪獣に傍受されない様にシステムを構築し、もっと情報を送ってもらわねばならない。

 今現時点では、動けるのは艦体を失った キソ である。

 彼女を派遣し、アカシⅡとの情報交換と可能であれば彼を守護し我々を導くお方になってもらわねば。


 【一度、戦線ヲ押シ上ゲル】


 第一機動艦隊旗艦統合AI ヤマト が言う。

 誰も反論することはなかった。 任務はこの宙域を守護する事である。

 しかし、この生存者の情報は放っておく事は出来ない。


 この日、今は何処か分からない遠い宙域で、長い間起きていなかった大規模攻勢が行われる。

 この任務について初めての大規模攻勢だったが、大破した艦は出たものの損失した艦は無く、宇宙怪獣を押し込む事に成功したのだった。

 キソ は必要な物資や機材を イ九 へ搭載するとこの宙域から出発したのだった。

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