第8話 【宇宙怪獣】襲来

 人型機動兵器。 

 元々は、宇宙空間での作業を補助するスーツが始まりだと言われている。

 人がこの宇宙で生きるには、脆弱であり恐ろしい敵も居た為に進化してきたとも言われている。

 ブラックバーンの船である【シルバースター】にも人型機動兵器は搭載されていた。 機体の色は【シルバースター】と同じ銀色で塗装され、ユニコーンを彷彿とさせるツノをもち、ツインアイでデブリ帯を睨むかの様にみている。

 ブラックバーンの操縦する【シルバーバレット】は、彼の多目的結晶エーテルドライブを通して機体とリンクしており、機体のカメラを通して見える視界が彼の網膜へとセンサーを通して共有。

 また、彼の思考を読み取り機体の姿勢調整を行うと言った高度なテクノロジーを持っていた。

 また、この機体だけが現在使う事の出来る切り札があり、多用する事が出来なくても、ピンチを乗り越えてきたのだ。

 どこで手に入れてきたのかは、彼が語る事が少ないが現在の各種機体の中でもオーバーテクノロジーである。

 【シルバーバレット】のコクピットでソワソワとしながら、危険なデブリ帯から一度離れて落ち着くのを待つ。

 病院船の中に一人残してしまったイナトの事を考えると、自分だけでも一度戻るという選択肢もあるかと考えた。

 一時はデブリ帯からも小さな破片も避難した宙域までも飛来する事もあった為、船に当たる可能性のものは片っ端から破壊していたところなので今は無理が出来ずにいたのだ。

 ここはまだマシだ。 向こうではかなりのデブリの移動が考えられる。

 嵐の様だと言われているのが納得できる。


 「キャプテン!!」


 アマンダの悲痛な声で厄介な敵がこの場に来た事を嫌でも気付かされる。

 【シルバーバレット】のレーダーと共有されている為、エーテル波の大きな揺らぎが発生した事が分かった。


 【宇宙怪獣】


 宇宙に進出した人類は、当初爆発的に人口増加と生存圏を広げていった。

 いくつもの移民船団や開拓船団が星々を旅していた。

 第17移民船団の悲劇と呼ばれる宇宙怪獣とのファーストコンタクトがある。

 当時は、人類史同士での戦争や海賊行為による船団の脅威もあり護衛の艦も多数随伴していた。

 謎の存在と遭遇し、これらと戦闘状態に陥った事を通信で送ってきたのちに第17移民船団は跡形も無くなった。

 以降、この人類敵性体の存在を【宇宙怪獣】とし全人類の生存を賭けた戦いが始まったのである。



【シルバースター】


 「宇宙怪獣がこんな辺鄙なところに出てくるなんて」


 ミリアは、レーダーを見ながら爪を噛んでいた。

 この船の武装と、ブラックバーンの機体である【シルバーバレット】ならば倒すまでは叶わなくてもここから撤退する事は出来る。

 軍の増援でもあれば、共闘すればと考える。

 ただし、エーテル通信が現在デブリ帯が大きく動いた事で干渉され長距離通信が出来なくなっていたのだ。

 レーダーに表示されている宇宙怪獣の数値は見た事の無いパターンを表示されていて、軍が開示しているどの宇宙怪獣とも一致していなかった。

 近いのが、中型怪獣のパターンだ。

 これだけのエーテル波の揺らぎである。 巡回中の軍が傍受して対策に動いていて欲しいのだが。

 

 「ブラックバーン、怪獣なんだけど」

 「そっちのレーダーで確認出来たんだな? どれだ?」

 「中型と思われるの。 でも、軍のデーターベースでは一致しないわ」


 新種の可能性も否定出来ないと言う事か。 ブラックバーンの操縦桿を握る手に自然と力が入る。

 「あっ」というミリアが声を上げる。 何事かと問う前に、その答えが分かった。

 一体だった宇宙怪獣からさらに幾つかの物体が剥がれ落ちるかのようにして何かが飛び出しているのが、カメラに写っていたのだ。


 「兵士級かっ」


 あの一体でも厄介だと言うのに、どうも随伴する小型の宇宙怪獣も腹につけていた様子だ。

 これは、まずいかもしれない。 小型な分、耐久力は弱いが小回りのきく人型の兵士級はまずい。 振り切る事は出来ても撃破するには時間も掛かる。 万が一船に取り付かれててしまえば、みんなが危ない。

 みんなを危険に晒しているのは分かっているが、あの船の中にはイナトがまだ残っている。

 このまま置いていくわけには行けない気持ちと、みんなを守る必要がある艦長としての責任がある。


 「ブラックバーン」


 みんなが、自分の決断を待っている。

 これ以上止まると、こちらの方にも気付く可能性が有る。


 「お、おいっ、見ろよ!!」


 アマンダの驚く声がしてあの船へと視線を移すと、驚いた事に宇宙怪獣に対して攻撃を始めたのだ。

 あの光は、なんだ? この【シルバーバレット】の持つライフルと同じ……。

 もしかすると、勝てるかもしれない。 みんなも決心したようだ。


 「よし、みんな!! 行こう!!」


【アカシⅡ内部】


 「アカシⅡさん」

 「敬称も敬語もいりません、アカシとお呼び下さい」

 「わかった。 現状はわかるのか?」


 アカシが手をかざすと、外の景色が目の前に浮かんで表示された。

 ブリッジを失ってしまっているので、外壁に取り付けられている幾つかのカメラを使って現在の状況を表示させているのだそうだ。


 「イナト二士、攻撃許可を」

 「やれるのか?」


 今の【アカシⅡ】は、船首からブリッジ付近を失ってはいるが現存する火器が艦尾にもまだ残っているのだそうだ。

 対空エーテル砲が六門、艦尾連装エーテル砲が残っているという。

 全力射撃は不可能だが、多少の時間は稼げると言ってた。

 ただし、確実に当てれる状況では無い。


 「何か方法はある?」

 「有るにはあるのですが」


 エーテル誘導をすればエーテル砲の照準を正確にする事が出来るというのだが、肝心の誘導する人員がいないという。


 「それなら、自分がいく!」

 「それはいけません! あなたを失ってしまっては!!」


 今まで声を荒げる事の無かったアカシが取り乱すかのように叫ぶ。

 それでも、ここで何もするわけには行かないと説得する。

 どうしても首を縦に振らなかったので、「俺の言う事を聞いてくれれば

、俺もなんでも言う事を聞くよ」と言うと約束させられた。

 約束を破れば、身体の中のナノマシンをハリセンボンにすると言われた。

 なんだその拷問は。

 艦の外へ出ていかなければならない。

 ブラックバーンからもらったスーツのおかげでなんとかなりそうだと誘導装置を借りようとするとアカシから艦尾の格納庫へと向かって欲しいと言われた。

 アカシはここから射撃管制を執ると言う。

 地図を多目的結晶エーテルドライブへインプットしてもらい船の中を走った。

 そんなに遠くないらしいが、しばらくしないうちに牽制射撃が始まった。

 宇宙怪獣は、デブリを蹴散らしながらこちらへと向かってきているらしい。 しかも小型の兵士級と呼ばれる宇宙怪獣が分離し、かなりの数がこちらへと向かっているのだそうだ。

 多目的結晶エーテルドライブを通して自分にも外の景色が共有された。

 上半身が人型で腕が二本生えている。 下半身はヘビのようにうねらせながらこちらへと進んでくるのだ。 しかも、顔に当たる部位には大きな瞳の様なものが一つ見えている。 かなり醜悪な形をしていた。


 「アカシ!! 格納庫に着いた! どうしたらいい?!」

 「そのスーツでは危険ですので、格納庫で準備したものに着替えてください」


 広い格納庫には、多数のコンテナが搭載されており武器の様な物もあった。

 スーツは探そうとすると、コンテナの一つが自分の前へと運び込まれ蓋が空くと都市型迷彩で染められた重装甲のスーツが入っていた。

 スーツを装着すると、多目的結晶エーテルドライブに登録するか聞かれる。

 もちろん、承認だ。 スーツを着ると、何処か懐かしい様な感覚が蘇ってきた。


 「アカシ!! いつでも出れる!! 照射機はどれだ??」

 「そちらのスーツに備わっております。 思い出せそうですか?」


 「いや、何も」と答えてハッチへと急ぐ。

 船体から離れない様にして突起物に捕まりながら、宇宙怪獣が来る方へと進んでいく。

 確か、こうやれば……。

 背中に付いたジェットパックが起動し、一気に甲板へと上がる。

 甲板側には四門の対空エーテル砲が上方へと絶え間なく砲火を加えていた。

 数の多かった兵士級は少しずつ減ってきているようだが、その後ろにいる中型宇宙怪獣には効果が無いようだ。

 鯨と呼ばれる生物に似ている姿を持っていて、悠々と近づくそれはモニター越しで見るものより大きい。


 「アカシ!」


 右腕に装着された照射機を起動し、宇宙怪獣へと合わせる。

 艦尾で動かなかった対空エーテル砲よりも大きな二門の砲塔が旋回し、自分のエーテル照射を追尾しているようだ。


 「イナト二士!!」


 まずい!! 兵士級が対空砲を掻い潜って甲板に辿り着いてしまった。

 左手に持ってきたライフルを構えて撃つが、止まらない。

 小型とはいえ、体長は二、三メートルくらいはあるだろうか。

 あの一つ目に光が集まっている。


 「イナトーーーーー!!!」


 横合いから、光線が走った。 まるでアカシの対空砲が間に合ったのかと思ったがあの声はブラックバーンの声だ。

 多目的結晶エーテルドライブが相互通信出来る距離へ来ていたのに気付かなかった。

 対空砲を潜り抜けて甲板へ取り付いた兵士級を薙ぎ払ってくれる。


 「イナト、そのスーツは一体??」

 「アカシにあったものを借りてます。 ブラックバーン、助かりました」

 「間に合ってよかった、こっちはこっちで兵士級の方は引き付ける。 あのデカいのは任せていいのかい?」


 アカシⅡの砲を当てれればと言うと、分かったといってスラスターで飛び出していく。

 シルバースターも駆けつけてくれたようで、その速度を活かして掻き回してくれているようだ。


 「射線だけは気をつけて下さい」


 「了解」と返事が返ってくる。

 アカシから、「エーテル照射追尾完了。 撃て」と通信が入る。

 対空砲とは比べ物にならないエネルギーを放つ二つの砲身。

 宇宙怪獣に当たると、当たった部分から熱で飽和し小さな爆発が起きていく。

 それが連鎖する様にして大きな爆発を生み出す。


 「状況終了。 中型宇宙怪獣ホエール型の撃破を完了」


 アカシが戦いが終わった事を告げる。

 なんとか、生き残れたらしい。 シルバースターやシルバーバレットも無事のようだ。

 格納庫のハッチを開きブラックバーン達を誘導する。

 自分がいた船に戻ってきただけだったのに、なんて一日になってしまったのだろう。

 安全が確認されたら、ゆっくり眠りたい。

 みんな怪我もなく無事だった事、健闘を讃えあう。

 デブリ帯も戦闘でだいぶ掃除されてしまったようだ。

 それから数時間は、ここに残っている物資の目録を確認したり持ち出す事の出来る物やブラックバーン達への報酬になりそうなものを分けたりして少しだけでもと眠りにつくのだった。


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