第7話 【病院船アカシⅡ】
よく見ると、部屋の中央にあったテーブルの空中にガラスから何かが映し出されていた。
女性の姿が浮かび上がっていて、透き通っているからか後ろの壁が見えていた。
動きに違和感もなくスムーズに動いていた。
何処かで見た様な綺麗な敬礼をしていた。
「おはようございます、イナト二等宙尉」
「お、おはようございます」
そうだ、彼女。
何処かで見た覚えがあったと思ったら、あのナースだ。
今まで忘れてしまっていたが、ヒノモトステーションで自分が傭兵登録するまで見張っていた彼女のはずである。 傭兵登録をした頃にはいつの間にか居なくなっていたのですっかり忘れていた。
色白で、輝いて見える銀髪。
流れる様に長い髪は、フワリと浮いている。
銀色の瞳には自分の事が反射して映っていて、全てを見透かすかの様に見下ろしていた。
目が大きく、垂れ目だからか怖い印象は無くどちらかと言えば優しく見守るような印象の方が高い。
背は自分やミリアよりは低く、パッと見てさらに小動物の様な印象を受ける。
あと、大きい。 うん、何がとは言わないが大きい。 そんなの二つも下げて大変では無かろうか。
視線に気付いたのか、スッと両手でその部分を隠すのだが全く隠れてません。
「また見てます」
「すみません、男の
「ありがとうございます。 んんっ、気を取り直しまして。 私の名前は【アカシⅡ】」
【病院船アカシⅡ】を統括するAIであり、自分が戻り、システムに触れた事で一部の機能を復活させているのだそうだ。
ブラックバーン達の様子を確認する様にお願いすると、艦内の案内を頼りにシルバースターへと戻っている途中らしく、無事に戻れる様に艦内表示で無事なルートを提示しているのだそうだ。
それを聞いて安心した。
デブリが衝突し、通路が完全に分断されてしまったあの状況では自分の事を置いて行ってもおかしく無いのにも関わらず、体制を立て直して救出プランも考えているとの事でありがたい。
現状、デブリ帯で大きくデブリが動き出した事でより危険な状態になっている。
一旦、シルバースターも退避した方が良いのではと説明すると、すぐ戻れる様にすると言ってブラックバーン達はシルバースターを発進させ安全圏へと離脱しているのだそうだ。
アカシⅡは、大丈夫なのかと確認すると艦の防衛シールドが展開出来たそうでデブリが多少ぶつかる程度なら問題無いそうだ。
「イナト二等宙尉は記憶を無くされてる……、そうですね?」
「ヒノモトステーションで起きる前の事が思い出せないんです」
「体内のナノマシンを掌握しましたが、身体には異常がありませんでした」
身体には異常がない、脳に損傷があるわけでもない為要因として心の方に問題が起きているのかもしれないのだそうだ。
ただ今は自分はそれでも良いと思っている事をアカシⅡに伝える。
寂しげに笑う彼女だった。
「イナト二等宙尉、改めて自己紹介を。 私はこの船の統合AIですが帝国軍所属のAIです」
帝国軍?
ヒノモトステーションで駐留している軍は人類連合軍と
人類史上では……、だいぶ昔の記録で帝国軍が検索に引っ掛かるのだが、これの事だろうか?
ほぼ、記録が残っていない様だが彼女に聞けば分かることだろうか。
彼女が言うには、自分をサポートする役目もあるらしくこのまま着いていきたいのだそうだ。
彼女は自分の中にあるナノマシンも掌握し心身のサポートからAIである為に多種に渡り役に立てる。
だから、一緒に居させて欲しい。
そう言って、まっすぐ自分を見つめてくる。
「もちろん、断る必要も無いですし自分の事を知っているんですよね?」
「概ねは」
「教えてくれる事は可能ですか?」
「貴方の記憶に負担が掛からない程度に少しずつですが、それでもよろしいでしょうか」
【アカシⅡ】の話してくれたのは、まず自分がここに居た経緯だった。
そう言えば、彼女がさっきから自分を呼ぶ時に傭兵の階級を付けて呼んでいるのだが、【宙尉】と呼んでいた。
確か、五つほど上の階級だったはずなのだが。
「イナト
彼女の説明だと勘違いをしていると言うが、何か隠しているのだろうか。
そもそも病院船である事から、病気や怪我でもしていたのだろうと思っていると概ねは当たっていたが想像を超えてる。
この【アカシⅡ】は帝国軍所属の船であり、傷病兵を収容し前線を離れた。
ところが、大規模宇宙怪獣の群が突如現れ護衛艦が瞬く間に沈む。
エーテルジャンプによる離脱は、宇宙怪獣の干渉によって失敗しブリッジを含む主要設備が破壊もしくは損傷してしまった。
動ける人員は、脱出艇を使って船を離れた。
【アカシⅡ】は、統合AIだった為にブリッジ消失と共に一度ダウンしていたが再起動すると残っていた艦船火器で宇宙怪獣への攻撃を始める。
そこで、艦内に負傷し取り残されている自分を見つけたのだそうだ。
即死に近い状況だったらしく置いて行かれたかと判断して【アカシⅡ】は戦闘行動を停止し自分を設備の生きている医療ポッドへ収容し治療に全力で当たったのだそうだ。
医療ポッド以外の設備は全ての電源が落とし艦の動力でさえも落とした状態にした事で宇宙怪獣の船に対しての破壊行為を終えてエーテルジャンプでいなくなっていた。
それからの長い時間漂っているうちに、今いるデブリ帯へと流れ着いてシルバースターに医療ポッドが回収されたのだそう。
【アカシⅡ】としてもこのままイナトの動向がわからなくなるの事も困ると考え、現在の人類の状況の確認をする必要として自分の身体に埋め込んだインプラントを利用し、彼女の意識の一部を移し蘇生する為に新たに身体へと投与されたナノマシンと
そして、本体であるこの【病院船アカシⅡ】へ戻ってきた際に、自分が機器へ触れた事でナノマシンを介して艦の補助電源を起動させた。
そのおかげで今、完全では無いが艦を機能を復活させたのだという。
ほとんどの機能は長い年月でメンテナンスや補給が行われていない為、船としての機能は無いが搭載されている火器や弾薬が残っているので自分に使って欲しいという。
願ったり叶ったりだが、シルバースターのブラックバーン達にも救ってもらった礼として一部は渡せないかと相談する。
「アカシⅡは、現時点ではイナト二士の指揮下となっていますので」
必要以上、イナト二士が困らない程度にご自由にとなった。
あとは、デブリが落ち着いてくれたならシルバースターを接舷させて必要な物を運搬出来る様にしなければ。
「艦尾下部で格納庫へシルバースターを向かわせましょう」
彼女が何か機器を操作すると、離れていったシルバースターのミリアがすぐ無線に出てくれた。
事情を説明し、いくつか物資を手に入れる事が出来そうだと伝えるととても喜んでくれた。
ブラックバーンはと言うと、すぐ救助に出れるように搭載している機動人型兵器【シルバーブレッド】で待機してくれているらしい。
出会ってすぐの自分の為にこうやって動いてくれる事がとても嬉しい。
デブリが艦体にぶつかる音が減ってきている。
そろそろ、もう大丈夫かと安心しているとアカシⅡが険しい顔をしていた。
「イナト二士、緊急です」
小さい画面だったが、空間に幾つかのモニターが現れた。
外の空間を映し出しているのらしいのだが、赤い光点が一つ浮かんでいる。
距離はまだ離れているが、最初シルバースターの光か何かだと思ったのだが。
「宇宙怪獣です」
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