第6話 【病院船】
シルバースターは、ヒノモトステーションを離れ通常航路へと出ると周囲の警戒を行う。
ブラックバーン達は周囲に艦船がいない事を確認するとエーテルジャンプの準備を始めたようだ。
「あの大きいゲートを使うんじゃないですか?」
「いや、あれは違う宙域へと向かうもので、今から行くデブリ帯は行き先が違うんだよ」
この宙域のさらに奥、この一帯からデブリが流れ込む宇宙の墓場が目的地になる。
彼らがなぜそんな場所へ居たのかと聞くと、元々は海賊の討伐に向かっておりその海賊が放棄した荷を探しており、偶然辿り着いたのが古い時代の船の残骸だった。
この探していた荷物が発見出来たのも捜索ピンが立てられており、それを辿っていくとそのデブリ帯を発見。
荷を回収した際に、病院船から微弱な電力が残っていた為に探索目的で内部へと侵入し、そこで見つけたのが自分の収容された救命ポッドだった。
その宙域の座表は控えているから、デブリから離れたところへとジャンプすればすぐにデブリ帯へと向かう事が出来る。
シルバースターはエーテルエンジンを二基搭載しており、その出力を持ってして短距離での【エーテルジャンプ】を行うらしいのだが、そんなに凄い事なのだろうか。
【エーテルジャンプ】は、遠く離れたある点を今いる点と距離と時間を超えて繋けて移動する手段の事。
そう言うものだと考えていればいいよとブラックバーンは言った。
「あとは、そうだなぁ。 大型の旅客船や、トライデント実行部隊が持ってる船くらいはないと単艦で【エーテルジャンプ】を行うことは出来ないんだ。 このシルバースターは可能としていてね」
傭兵個人が所有する船の中でもトップクラスだと思うらしい。
このシルバースタークラスの船でエーテルエンジンは一基で十二分の性能を発揮する。
それを二基搭載されている事で、その出力は想像を超える。
その過剰なほどのエネルギーが【エーテルジャンプ】を可能としているのだそうだ。
もちろん、エーテルゲートを利用した超長距離の移動までは出来ないそうだが、ヒノモトステーションをを中心とした宙域であれば何処へでもいけるとブラックバーンは熱く語っていた。
この技術のおかげで人類は宇宙へ進出し、今もなお栄華を誇っているのだと。
「よく、こんな凄い船を手に入れましたね」
「あぁ、まぁ、色々と幸運が重なったなと思って」
エーテルエンジンが臨界点に達したとアラートが鳴り響く。
「座標のセット確認。 キャプテン」
「ありがとう、ミリア。 よし! エーテルジャンプ!!」
目の前の空間に淡く赤い光が溢れ出した。
船が一気に加速するかのように、その光の中へと吸い込まれていく。
それを二度ほど繰り返すと目的地のデブリ帯に到着した。
病院船を見失わない様に、索敵ピンを船体に取り付けているそうだがデブリの衝突や磁気嵐などがあるとあまり当てには出来ないという。
「イナトは大丈夫か?」
「はい?」
「前は、救命ポッドだったからな。 エーテルジャンプは慣れてないと目眩や気分が悪くなったりするんだ」
「大丈夫みたいです。 心配かけます」
「キャプテン、レーダー感有り」
「でかした! いいな、ピンは生きてるらしい。 ミリア、マーカーをディスプレイに出せるか?」
レーダーをチェックしていたミリアの声でみんながディスプレイに注目した。
ブリッジ正面に設置された大型のディスプレイ上に、デブリ帯が遠く映し出されているがその中にマークが付いている。 どうも、そこに病院船があるらしい。
「アマンダも、邪魔なデブリの選定と排除は任せた! ハンナもエンジンの出力は任せる。 万が一の時は頼むな」
二人の返事を聞くやいなや、船が加速してデブリ帯へと近付いていく。
このスピードで大丈夫なのだろうか。
デブリは大きな物もあれば、小さな物まで様々な物が浮いているのだがシルバースターは、ブラックバーンの巧みな操縦でスルリと抜けるようにして進んでいく。
稀にだが、進行方向へと向きを変えた大きなデブリは特に指示が出るまでもなくアマンダの射撃で粉砕されていた。
設定したマーカーへの距離が段々と近付いていく。
「見えてきたぞ」
今まで漂っていたデブリが突然少ない場所に確実に近付いていていて、そこが目的地だと表示されている。
かなり大きな空間一帯が暗く大きな口を開けているように見えて少し身体が震えた。
「センサーの感度あげよう」
モニターに巨大な船体が映し出された。 全体像は想像するしかないが、大きな船が半分から折れて残された一部、それが目の前に巨体を漂わせている様だ。
「今回も何が起きるか分からない。 アマンダ、イナトを頼む」
「了解、キャプテン」
「ミリアとハンナは、船を頼む。 よほどの事が無いとは思うが連絡は密にしよう」
二人了解と返事がある。
ブラックバーン、アマンダと自分を合わせた三人が病院船へ侵入することになった。
シルバースターを船体が裂けた場所へと寄せて、アンカーを打ち込んだ。
港で使っていた物とは違う、先が銛の様になっている。
病院船へと刺さると、船同士が離れてしまわない様にしたのだそうだ。
その作業が完了して三人でシルバースターのエアロックへと向かう。
お互いにスーツに不備は無いかしっかり確認し、問題が無い事を報告し合ってエアロック内の減圧を済ませる。
借り物ではあるが、スーツの状態は悪く感じなかった。
被っているヘルメットも大きく、視界も広い為【いつも使っていた】ヘルメットよりは余裕がある。
ただ、これだとぶつけたりして割れそうな感じもして怖い。
ん? 違和感がある。 いつも使っていた?
「どうした、イナト?」
ブラックバーンが自分に声を掛けるまで、ぼーっとしていたようだ。
アマンダも不思議そうにしてこちらを見つめている。 大丈夫だと伝えると、二人も納得してくれたようだ。
扉が完全に開くと、アマンダが自分をロープで結び直してくれた。
しばらくはこれで動くらしい。
ブラックバーンが先に船外へと出る。
地面をトンと蹴る様にして外へと飛び出すと、病院船へと取り着いた。
アマンダと一緒に自分も外へと飛び出す。
「緊張しないで大丈夫さ、うちらが付いてるからね」
ありがとうと返して、アマンダに続いて無事に病院船へと渡る事が出来た。
浮いて移動する感覚が、うまく掴めなくて少し恐怖心もあったがまだ大丈夫。
この先もまだ何が起きるか分からない、気を引き締めなければ。
「もっと緊張してすぐにこっちへ来れないと思ったよ」
「キャプテンは最初そうでしたっけ?」
アマンダがブラックバーンを茶化す。
ほっとけ、と言ってブラックバーンが病院船内部へと歩き出した。
一度、シルバースターを振り返る。 銀色の船体がそこにはあって、安心出来る。
病院船を進んで行くと、機能は完全に停止している様子で真っ暗で無重力状態になっていた。
明かりは、三人でそれぞれ装備しているライトだけで、照らしている場所以外は見えなくて心許ない。
スーツのアシスト機能で床に足がちゃんと着いて歩けるのが助かる。
壁も歩けると言ってブラックバーンが実践してくれた。
自分の記憶が無い為、色々と教えてくれてとても助かっている。
「どうだ? イナトは何か思い出せそうか?」
今まで進んできたが、扉はあってもロックされており開く事は出来ない様子で空いていても部屋の中は既に何も残っていない。
「キャプテン! イナト! ここはどう?」
しばらく進むと、カウンターや電子機器がある場所に出た。
この先にあるドアの開いていた部屋に電源の残っていた救命ポッドがあり、自分が収容されていたそうだ。
他にも部屋があるので、ここで各部屋の様子を見ていたのだろうか。
勝手に離れない条件で、アマンダが自分を繋いでいたロープを解いてくれて、また移動する事になったら念の為に着けようとなった。
「旧世代の文字のように見えるんだが」
「うーん、もしそうなら見つかったイナトは一体幾つなんだろうね」
「ミリアなら、もしかすると解読出来るかもしれないな」
「それもそうだが、うーん」
ブラックバーンの言う旧世代とは何のことだろう。
自分には、特に問題無く読めているのだ。
【病院船アカシⅡ】と描かれたファイルは、内容の確認は出来ない。
多分、船の電源が落ちている為に見れなくなっているのだと思う。
紙媒体もあるが、どれもこれも患者の記録が散乱している様でこれと言って重大な事とは感じないのだが。
専門知識が無いので、細かく何が書かれているかまでは分からない。
中央のテーブルの上には、謎のドームがあった。
大きなガラスの様な物が中央に埋め込まれている。
よく分からない機器だったが触ってみると、勝手に
自分のエーテルドライブから通信が行われている様にも見えるのだが。
すると、今まで真っ暗だった船内に光が灯る。
ブラックバーンもアマンダも驚いて、周りを見渡している。
通路の壁に船内を映すマップが大きく映し出されたのに気付き2人がそこへ向かおうとするので慌てて声をかけようとすると、船が大きく揺れた。
「あの、ブラックバーン?
言い終わる前に、また船が大きく揺れた。 ミリアから通信が入り、病院船の死角からレーダーに映らないデブリが接近し衝突したらしい。
船が大きく揺れて船体が大きく裂けていく。
特に自分が居た側が大きく裂けてしまい、取り残される形になってしまった。
すぐに戻ろうとしたが、瓦礫はさらに押し寄せてきて残されていた僅かな通路も塞がってしまう。
やっと揺れが収まってきた。 衝突した衝撃は凄まじく、完全に分断されてしまった様だ。
いつのまにか、機器との接続は解除されたのか?
「イナト! イナトは無事か!?」
「ブラックバーン! 今は危ない! 道が無くなってしまっては」
「無事です、道が無くなってしまったので迂回して戻れないか試してみます」
船にはミリアとハンナが残っているが船は無事だろうか。
シルバースターと通信が途切れているらしい。
衝突の影響でエーテル場が乱れているのでは無いかとの事だった。
ブラックバーンとアマンダは一度船を見に行くと言ってここから離れようとしている。
お互いに気を付けようと言って2人が遠ざかっていく。
さて、自分はどうしようか。
マップか何かは無いだろうかと探していると、中央のテーブルが光を放つ。
眩しくて目を細めると、光の中に誰か人影が見えてきた。
女性の様だが、アマンダ?と声を掛けるが返事は無い。
「アカシⅡ、掌握しました。 おはようございます、イナト二等宙尉」
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