雨の日にぶよぶよが見える
かかえ
*
コンビニの自動ドアがひらくと同時に、軽快な電子音が鳴り響いた。
思考が乗っ取られるくらいの大音量だったのに、目の前の友人たちはちっとも気に留めていない。買ったばかりのホットスナックに大口をあけて齧りつきながら、たわいない雑談でぎゃーぎゃー盛り上がっている。
今夜の野球中継は絶対に見逃せないだとか。
来週の中間テストは範囲が広すぎてやばいだとか。
大げさに笑って、嘆いて、ふざけ合う彼らに適切な反応を返しつつ、俺は持っていたペットボトルの蓋を強くひねった。片腕に引っ掛けていたビニール傘が、存在を主張するようにふらふら揺れた。
部活帰りにしょっちゅう立ち寄るこのコンビニは、通っている高校の最寄り駅と同じ建物の中に入っている。店から出ても頭上には屋根が続いているので、まだ傘をひらく必要はない。
強炭酸のひりひりした口当たりを楽しみながら、いつものように友人たちを改札まで送っていく。
電車通学の彼らとは違って、俺だけがここから徒歩だ。
「じゃあな、佐々倉」
「おーう」
軽い挨拶を交わしたあとで、みんなの姿が人混みに紛れていくのを最後までぼんやり見届ける。
ひとつ息をついてから、俺は鞄の横ポケットにペットボトルを押し込んだ。その場できびすを返す。絶え間なく行き交う利用客のあいだをうまいことすり抜けて、駅を出る手前で一旦足を止めた。
今日は朝からずっと雨だ。
このところ晴れの日ばかりだったので、傘を持ち歩くのはずいぶんと久しぶりな気がする。
テレビの予報によると、生まれたばかりの梅雨前線の影響で、しばらくはぐずついた天気が続くそうだ。
視線の先では、雨水が細かく跳ねるレンガの道を、多くの人がうつむき気味にいそいそと歩いている。
ズボンの裾をじんわり濡らしたサラリーマンも、ワイヤレスのイヤホンで音楽の世界に浸っている女子学生も、誰も空なんか気にしていない。
雨と一緒に降ってきているものに、誰も気づかない。
ひらいた傘を頭上にかざす。ビニールを透かして歪んだ空に視線を向けたまま、俺は雑踏の中に足を踏み出した。
裸眼では目に映らないものが、ビニール傘越しにだけ見える。
雨粒よりもずっと大きな、球状の透き通った物体が、重力を無視してゆっくりと落下してきているのである。
スーパーでよく売られている安いわらび餅を、人間の頭くらいにしたような。落ちてくるのだから多少は重さがあるはずだが、傘に当たっても何故か衝撃は感じない。
物心ついた頃にはすでに見えていたこの物体を、俺は「ぶよぶよ」と名づけていた。四つ集めると消えるゲームから取った名前だ。ただし、こちらは集まらなくても、放っておけば勝手に消える。目もないし生きている様子もない。
ぶよぶよは、俺以外の人間には見えないらしい。
もちろん、ちゃんと探せば世界のどこかにひとりくらいはいるのかもしれないが、そんなのは存在しないのと同じである。
どうして俺だけなんだろうとか、何故ビニール傘なんだろうとか、小さい頃はわけがわからず悩んだりもした。けれど歳を重ねるに従って、考えること自体を諦めた。
他人にカミングアウトするのも、早いうちからやめた。黙っているほうが何かと生きやすい。
周りと同じ振りをしていたほうが、妙な目でみられることも、嘘つき呼ばわりされることもなくなる。
誰にも打ち明けなくたって、何が変わるわけでもない。ビニール越しの歪んだ世界は俺にとって当たり前のものだし、俺しか知らない景色を眺めながら歩くのも、どこか特別な感じがして嫌いじゃなかった。
目深に傘を差したまま、俺は雨とぶよぶよが降り続く街を黙々と進む。
高架の線路を境にして、街はがらりと雰囲気を変える。東側には高校や役所などの主要施設が並んでいるが、西側ははっきり言ってすごく地味だ。
ほとんどシャッターの閉まった商店街に、ぎゅうぎゅうにひしめく古くさい民家。道ゆく人々の種類も違う。こっちは買い物帰りのおばさんとか、おじいちゃんおばあちゃんとかが多い。
くたびれた表情をしている人には大体、ぶよぶよがいくつもまとわりついている。今すれ違った女の人なんか、背中に十個もくっつけていた。
疲れていたり落ち込んでいたり、負の感情を抱く人間に吸い寄せられる性質が、ぶよぶよにはあるようだ。
天気が悪いとだるくなるという話をよく耳にするけれど、たぶん気圧のせいだけじゃない。あんなものが大量に乗っていたら動きづらいに決まっている。
お疲れさま、と見ず知らずの彼女を心の中で労いつつ、俺は通い慣れた帰路を歩いていく。
住宅街を抜け、川と平行に伸びるアスファルトの道へ。晴れているときは走り込みをする学生をよく見かけるが、雨なので辺りに人の気配はない。
そのときふと、遠くからか細い猫の鳴き声が聞こえた気がして、俺は何気なく首をめぐらせた。
声がしたのは河川敷のほうからだった。よく目を凝らしてみれば、少し先に架かっている橋の柱部分で、小さな生き物がもぞもぞ動いているのが見える。
サバトラ柄の猫が、地面に転がる棒状の何かを突っついて遊んでいるらしい。野良猫だろうか。近づいていくにつれ、転がっているものの正体も徐々に明らかになる。
力なく投げ出された、人間の両脚だ。
ぎょっとして、俺は思わず立ち止まった。迷ったあげく短い草の茂る土手を慎重にすべり降り、恐る恐る川岸を進んでいく。
柱の影から伸びた人間の脚は、俺と同じ制服のズボンをはいていた。さっきからぴくりとも動かない。
橋脚の手前でひと呼吸置いてから、覚悟を決めて柱の向こうを覗き込む。それとほぼ同時に、横になっていた人物がうっすらと目をあけた。
見知った顔だと気がついたのは、生きていたことにほっとしたあとだ。
「……矢塚?」
反響した俺の声に驚いたのか、猫が一目散に橋の外へと駆け出した。素早い動きを視線で追ったところで、ひどく気怠そうな口調が返ってくる。
「誰おまえ」
相手はブレザーの前ボタンを全開にして、はだけたブラウスの襟もとから真っ赤な服を覗かせていた。
厳しい校則を無視して髪を明るく染めたこの同級生は、学校でもかなり浮いている存在だ。特に目立った問題を起こしたわけではないものの、教師陣から常に目をつけられていると聞く。
そういうわけでこっちは当然のように名前を知っていたのだが、矢塚にとっては違ったらしい。
それもそうか。会話どころか視線を交わすのさえこれが初めてだ。
「佐々倉。一応、同じクラス。ていうか何してんの、こんなところで」
言いながら、俺はにこやかな笑みを浮かべた。
誰の前でも親しみやすい態度でいられるのが、自他ともに認める俺の特技である。
「別に何も。ただ寝たり、本読んだり」
矢塚の返事は短い。それでもちゃんと言葉を返してくれたのには少し驚いた。正直、無視されると思っていたからだ。読書をするというのも、勝手に抱いていたイメージとは違う。
俺は興味本位で、彼の胸もとに伏せられている文庫本のタイトルに目をやった。かなり前に一度映画になったことのある、名の知れた時代小説だった。
「そういうのが好きなんだ?」
「好きとかじゃない。店のおっさんに薦めてもらっただけ」
ぶっきらぼうな答えに、首をかしげる。
「店って?」
「商店街の中にある本屋。雨の日だけちょっと安いんだよ、あそこ」
どこの店のことを言っているのか、すぐにわかった。高校へ向かう途中でいつも横を通る。
漫画やドラマに出てくるような昔ながらの素朴な本屋で、出版不況のご時世にもかかわらず、入り口に『雨の日は五パーセントオフ』と手書きで綴られた紙が張ってあるところだ。
「ふーん。なんか、意外だな」
思ったままを口にすると、矢塚からきつい目つきで睨まれた。しまった、と咄嗟に後悔する。少し馴れ馴れしくしすぎたか。
他人とうまくやっていくコツは、相手との適切な距離感だ。トラブルが起きそうな気配を少しでも感じたら、早いとこ身を引いたほうがいい。俺は曖昧な笑みを矢塚に向けてから、そそくさと橋の下をあとにした。
傘の向こうでは相変わらず、雨と一緒にぶよぶよが落ちてきていた。
*
天気予報の言うとおり、連日雨ばかりだった。
いつもと同じく友人たちを改札まで見送って、駅からひとり家路につく。傘に当たってボールみたいにバウンドするぶよぶよをビニール越しに眺めつつ、寂れた商店街を抜けて静まり返った住宅街を通りすぎ、川沿いのアスファルトを進む。
橋を渡る前に下を気にするようになったのは、矢塚と出会ったあのときからだ。
彼は必ず、雨の日にだけそこにいた。
あるときはサバトラ柄の猫に突っつかれ、あるときは鞄を枕に寝転がり、あるときは柱にもたれて本をひらいていたりする。
そういう矢塚を俺は土手の上から見下ろすだけで、わざわざこちらから話しかけに行ったりはしない。学校でもこれまで同様に、お互い無視を貫いている。
クラスでの彼は常にひとりで、授業中だろうが休憩時間だろうが一切関係なく、机に突っ伏して寝ていることが多かった。自分からがっつり壁をつくっているタイプだ。
あからさまな拒絶の効果なのか、周りのみんなは誰も矢塚に関わろうとしない。もちろん俺も。ただ、少し呆れてはいる。もっと要領よく生きられれば、あいつも色々と楽だろうに。
この日も俺は、矢塚の存在を横目に認識しながらも、川沿いの道を素通りするつもりでいた。
だが、ちらりと橋の下に目をやって、つい空足を踏んでしまった。
ぼんやりと地べたに座り込む彼に、ものすごい数のぶよぶよがまとわりついていたからだ。
今まで何度もぶよぶよをくっつけた人間を見てきたが、その中でもかなりひどい。つやつやした透明な球体に身体中を覆い尽くされて、人としての形がほとんど埋もれてしまっている。
衝撃のあまりその場で動けずにいた俺に気づいて、矢塚がのっそりと顔を向けた。ぶよぶよまみれだけどたぶん、こっちを向いたように見えた。
なんとなく無視してはいけないような気がして、ぬかるんだ土手をひさびさに降りる。橋の手前まで歩いていくと、矢塚が不機嫌丸出しの声を発した。
「何」
「ああいや、そのー」
ビニール傘を目深に差したまま、俺は視線を泳がせた。なんか別の生き物みたいになってたもんで、と正直に告げるわけにもいかない。
話題を探していたときにちょうど目にとまったのは、彼の通学鞄の上。無造作に置かれた文庫本だ。
今日のタイトルは、人気のお笑い芸人が書いたエッセイだった。
読んだことはないけれど、プロの作家も舌を巻くほど感性にあふれた内容らしく、世に出たときにかなり話題になったのを覚えている。
「その本、面白い?」
俺がそう口にした瞬間、どこからともなくぶよぶよが地面を転がってきて、次々と矢塚の身体にくっついた。おや、と疑問に思っているうちに、心底面倒くさそうな答えが返ってくる。
「まだ読んでない。なんか今日、だるい」
だろうな、と頷きかけた首を、すんでのところでどうにか止めた。それだけ取り憑かれてたらな。
ぶよぶよにまみれた矢塚を半ば感心しながら見つめていると、彼がもう一度、つぶやくように口をひらいた。
「……あの店」
「ん?」
聞き返した俺を見上げることもなく、矢塚はさらに続ける。
「商店街の本屋。月末に潰れるらしい」
地面に向かって告げられた重い言葉が、橋の下で渦巻くすべての雑音を押しのけて、俺の耳まで届く。
「万引きがひどいんだと」
吐き捨てるような口調に息を飲んだ。その身に激しい怒りを抱え込んでいるのだと、声を聞いただけでわかった。
店員から毎回おすすめを教えてもらっていたくらいだ。矢塚にとっては気安い店だったに違いない。
そんな場所を犯罪によってめちゃくちゃにされたことが悔しくて、許せないでいるのだろう。
こうしているあいだにも、またひとつ、ふたつと、ぶよぶよが彼を覆っていく。ますます見えづらくなった矢塚の姿を眺めながら、俺は眉を寄せた。
悲しい現実だが万引きなんてどこでも起きていることだし、原因がわかったところで、俺たちみたいなただの高校生にはどうすることもできない。早く警察が犯人を捕まえてくれるよう、祈りながら待つしかない。
けれど矢塚は、そういう言い訳でうまく自分を慰められるほど、器用なタイプではないらしい。
持て余した感情を適当なところに置いて楽になるよりも、正面から向き合って、苦しみながらどうにか鎮める方法を探っていく人間なのだ。
咄嗟にかけてやる言葉を思いつくことができず、俺は結局、当たり障りのない相づちを選んだ。
「へえ、そりゃあ……残念だな」
矢塚は何も答えなかった。負の感情でぶよぶよを次々と引き寄せ続けたまま、その場でじっと下を向いている。
しばらく気まずい沈黙が続いた。
立っているだけの状況から逃れたくて、俺は後ずさるように彼のもとを去った。
*
次の日から、矢塚はぴたりと学校に来なくなった。
教師たちはいつにも増してぴりぴりしていたが、クラスの中では大した話題にもならなかった。
不良を絵に描いたような見た目の生徒だったから、さもありなんという妙な納得感があったのかもしれない。むしろ、これまでよくサボらなかったな、なんて感心する空気すら流れている。
本屋のことがあったからだ、となんとなく想像はできた。
だからといって、それを誰かに言ったりはしなかった。言う必要もないと思った。矢塚とはたった二回、ほんの少し話しただけの関係に過ぎない。擁護してやるような間柄でもない。
数日経った頃には、彼の存在はクラスからすっかり忘れられた。
俺もこれまでと同じように、友人たちと笑ったりふざけたりして、変わらない毎日に溶け込んだ。
ところが突然、矢塚は学校どころか世間の注目を浴びることになった。警察沙汰を起こしたのである。
本物の不良と派手に喧嘩をして、相手を病院送りにしたのだという。その日のうちに地元のテレビで取り上げられ、沈痛な面持ちをした担任からは保護者説明会の案内が配られた。
おそらく、万引き犯だったのだろう。矢塚はどうにかして犯人を捜し当てて、店主の代わりに自分で制裁を加えたのだ。
「とうとうやっちまったかーって感じ。危ない雰囲気出てたもんな、あいつ」
友人が呆れたようにそう言ったのを、俺は反射的に笑いを浮かべながら聞いた。会話はそれで終わったものの、胸のうちでは矢塚に対するどろどろした感情が、いつまでも残ったままだった。
やっぱり馬鹿だ。他人のために面倒なことに首を突っ込んで、これからどれだけあるかわからない人生に、自ら傷をつけるだなんて。
周りに合わせてさえいれば、大概のことはうまくいく。傘を透かしてありえないものが見えたって、変に主張したりせず、黙っているほうが断然楽だと、俺は子どものときに嫌というほど学んだ。
本音は自分だけのものにして、笑顔の裏に隠す。そうやって余計な波を起こさないように、必死に生きてきたのだ。
部活を終えて、いつものメンバーと校舎を出る。
この日の天気はとりわけ悪かった。叩きつけるような大粒の雨が、視界を白く濁らせていた。
俺はビニール傘をひらきながら、小さく息をつく。身体が妙にだるい。まるで空気が質量をもって立ちはだかっているようだ。
とある可能性にはっと気がついて、俺は校門まで転がるように走った。
一度唾を飲み込んで呼吸を整えてから、道路脇に設置されているカーブミラーを勢いよく見上げる。
傘越しに映った歪んだ自分には、たくさんのぶよぶよがまとわりついていた。
「うわあああっ!」
無意識に口から叫び声が上がる。うしろから何か声をかけられたが、それどころではない。
ひらいた傘をでたらめに振り回し、どうにか身体からぶよぶよを引き剥がすべく、その場で動きまくった。
無駄だ。そんなことで簡単に離れるものではないと、俺が誰よりも知っているじゃないか。
取り乱したまま学校を飛び出して、家までの道を全力で駆け抜けた。
途中ですれ違った人々が、みんな驚いてこっちを振り返る。やめろ。やめろ。指を差すな。向けられた視線から身を守るように、さらに激しく両手をぶん回した。
気づいたときには、河川敷にたどり着いていた。
息を荒らしてへとへとになりながら、ぬかるんだ土手を滑り降りる。引きずるように川岸を進み、橋の下で立ち止まった。矢塚の姿はない。今頃は警察にいるはずだから当然だ。
ひらきっぱなしの傘を放り出し、その場に寝転がる。ずぶ濡れになった身体に乾いた砂がまとわりついた。
激しい雨の音も、すぐそばで唸る濁流の音も、耳の奥で脈打つ鼓動のほうがうるさくてほとんど聞こえなかった。喉がひりつき、脇腹がきりきり痛んだ。
どれくらいそうしていたのだろう。
ようやくまともな呼吸ができるようになった頃、ふいに誰かの足音が近づいてくるのを聞いた。俺は仰向けになったまま、首を動かしてそちらを見る。
「あれ、なんで」
矢塚だった。見慣れぬパーカー姿の彼が、ちょっとだけ顔をしかめてから、大股で橋の下に入ってきた。
「事情話したら、一旦帰っていいって」
持っていた傘をたたみつつ、ぶっきらぼうに答える。
まだうまく働かない頭で納得しようとしているあいだに、矢塚が少し距離をあけてどっかりと座り込んだ。
「学校はまだ駄目っぽい。まあいいけど」
本当にどうでも良さそうな口調であっさりと言ってから、彼は乱暴に置いた鞄の中をごそごそと探っている。取り出したのは、有名な海外の古典だった。
警察から出てきたばかりにもかかわらず、彼はいつもと同じように本屋へ足を運んできたらしい。
なんだか無性におかしくなってきて、俺は喉の奥から乾いた笑いを漏らした。全速力で走ったせいなのか、息が通るたびに気管が鈍く痛んだ。
「なんだ」
「ごめん。悪い意味じゃない」
いぶかしがる矢塚に軽く手を振ってから、ため息とともに身体を起こす。
うらやましい、と思ってしまった。絶対に真似はできないけれど、あえて周りに流されず、自分の心に従って行動する彼の生き方が、やるせないほどまぶしかった。
理解できなくても、否定してはいけない気がした。
ゆっくりと立ち上がり、落ちていたビニール傘を拾う。俺が急に動き出しても、矢塚は面白いくらい無関心だった。買ってきた文庫本から顔を上げようとしない。
「それ、難しくないの?」
特に意味もなく尋ねてみたが、彼の視線は文章に向けられたままだ。
「まあまあ」
「まあまあって」
適当な返答に思わず吹き出してしまってから、俺は橋の向こうに目をやった。
雨の勢いはそんなに変わっていなかった。砂まみれだしちょうどいいかと考えて、傘は差さずに外へ出てみる。
身体のだるさはいつの間にか消えていた。降りしきる雨粒に片手をかざしながら、のしかかるような重い曇り空を、俺は久しぶりに自分の目だけで見上げた。
終
雨の日にぶよぶよが見える かかえ @kakukakae
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