第6話 ビキニアーマーよ永遠に…

 結論から言うと、呪いはとけなかった。

 正確に言うと、完全には、だ。

 クレアががんばってくれたので、呪いは軽くはなった。


 いま、私はマントを身につけて、体を細かくふるわせながら、街の中を歩いていた。

 そして一刻も早く、という思いで宿に向かっていた。かなりの早足で。


 装備を身につけても、痛みこそ出なくなったものの、すごくむずがゆくなるのだ。ぼりぼりかきたくなるくらいに。


 それをこらえてなんとか宿までたどり着き、部屋に入るとマントを外した。

 そして肩のあたりをかいて、かゆみをおさめていく。


「ほんとうにごめんなさい、アリシアさん。私の力が足りないばかりに」

 クレアが涙ぐみながら謝ってくる。


「あなたが謝ることないよ。あなたはがんばってくれたんだから」

 実際のところ、我慢すればなんとかマントくらいは身につけられるようになったことで、私は社会的に死なないですんでいる。


「そうだ、クレア。悪いのは俺なんだ。君が謝ることはない」

 とロランが言った。


 まったくその通りなので、こちらは否定しない。


「本当に悪かった、アリシア」

 ロランが頭を下げて謝罪してくる。


「それで、どうしてくれるのよ」

 この先もビキニアーマーを装備し続けなければならないことになって、私はけっこう本気で怒っていた。


「俺が責任を取る!」

 ロランは私の目をまっすぐに見て、そんなことを言ってくる。思わずどきっとしてしまった。


「せ、責任て、どうやって…?」

 私は動揺しながらたずねた。


「顔が赤いぞ」

 バートンが余計なことを言ってくる。


「俺が魔王を倒し、お前にかかった呪いを必ず解いてやる!」

 ロランはそう、力強く宣言した。


 このときの様子は、勇者が改めて魔王討伐を決意した瞬間だとして、後の世に語られることになるらしい。


 いわく、仲間の女戦士がビキニアーマーを外せない呪いにかかってしまい、勇者はそれを解くために、魔王を必ず倒すと誓ったと。


 そんなことを知らない今の私は、がっくりとうなだれていた。


「それってつまり、魔王を討伐するまで、ずっとこのままってことよね」


「本当にすまないが、それは俺にはどうすることもできない…」

 ロランは心から申し訳なさそうに言った。


「つまり、状況は前から変わっていないわけだ。元から俺たちは、魔王討伐を最終目標にしたパーティなんだからな」

 とバートンが言った。

「アリシアがずっとビキニアーマーを装備しなくてはならなくなった、という以外には」


 それが大問題だっつーの!


「あのさ、もしも本当に魔王を討伐できたとしてもよ、私はビキニアーマーを装備して魔王を倒した女戦士として、歴史に名を刻むことになっちゃうんじゃないの?」

 私はぐったりと床に座り込みながら言った。


「そう…なっちゃいますね」

 クレアがうなずく。


「もともと、実際にそういう女戦士がいたから、俺が本でその存在を知ったんだ。だからこれで…新しいビキニアーマーの女戦士の伝説が生まれるのかもしれない」

 とロランが言った。


「ビキニアーマーの伝説は永遠に…ということだな」

 とバートンが言って、ちょっと笑った。


「笑い事じゃないから! いや、いやだああああ!」

 私はそう叫んだが、でももはや、誰にもどうしようもなかった。


 魔王を倒さないと呪いはとけない。だから倒すしかない。

 放っておいても誰かが勝手に魔王を倒してくれる確率はものすごく低いから、自分でも魔王討伐を目指したほうがいい。


 このパーティはかなり強いから、このままここで戦い続けた方がいい。

 だからビキニアーマーを装備したまま、戦い続けるしかない。


 そういう結論になってしまうのだった。


 戦いから逃げてもビキニアーマーしか装備できないことに変わりはなく、そうなるとまともに生活はできない。

 となると、事情を知っているこのメンバーと一緒にいた方がいい。


 思考を巡らせるごとに、私の理性は『このままここでがんばりなさい』と言ってくるのだった。


「…わかったわよ。わかったわ」

 私は顔を上げて言う。


「…何がわかったんだ?」

 ロランがおそるおそるたずねてきた。


「こうなったらもう、体をマントで隠すこともしない。堂々とこの姿で過ごし、戦い、ふざけた呪いをかけた魔王のやつを倒してやる!」

 私はそう宣言した。


「開き直ったな」

「開き直りましたね」

 バートンとクレアが口々に言う。


「よし、じゃあ改めて、俺たちで魔王を倒すぞ!」

 そう言ってロランが拳を前に突き出した。


 クレアとバートンもそれに合わせて、拳を突き出して互いに触れ合わせる。

 私も一歩前に踏み出し、みんなの拳に自分の拳をあてた。


 こうして新たな勇者の伝説とともに、ビキニアーマーを着た女戦士の伝説もまた、始まったのだった。


 始まらなくてもよかったけどね!

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ビキニアーマーとかありえないから! 見城(けんじょう) @ykenjou

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