第5話 生じる異変

 砦から出て村に戻る途中で、私は異変に気がついた。

 正確に言うと、それはマントをはおろうとした時に始まった。

 急に、肩が強烈な痛みに襲われたのだ。


「あ、いたっ!」

 それは思わず、声を上げてしまうほどの強い痛みだった。

 鋭く刺されたように感じ、私はマントを地面に取り落してしまう。


「どうしたんだ?」

 ロランが心配そうに言ってくる。


「いや、マントを着ようとしたら、急に痛くなって…」


「マントが痛みを? どういうことだ?」


「わからない。なんだろう…」

 私はもう一度マントを手にとって肩にかけてみる。

 するとまた、同じように痛みがある。


「うっ、やっぱり痛い!」

 私はマントを放り出した。


「私にみせてください」

 と言ってクレアが私の側に近づき、体のあちこちに手をあてて魔法を使う。

 触られたところが温かくなり、そこから体の内部に熱が浸透してくる。


 落ち着かない感じがするけど、私はクレアの診断が終わるのをじっと待った。


「これは、呪いですね」

 私の体から手を離してから、クレアが言った。


「呪い? さっきのやつ?」

 魔物が死に際に放った赤い光。あれが私の体に呪いをかけたということなのか。


「はい。それもかなり強力な呪いです。私にかかっているのと同じようなものでしょう」

 クレアは魔王から呪いを受けていて、それで力を半分くらいに封じられている。


 それでも優秀な僧侶なのだけど、本来の力を発揮されると脅威になるためか、呪いをかけられて、力を弱められているのだ。


「呪いの種類はわかる?」

 私はものすごく不安になりながら、クレアにたずねた。


「痛いかもしれませんが、ちょっと我慢してくださいね」

 そう言ってクレアは、カバンから包帯を取り出して私の腕に巻いた。


「どうですか?」

 とクレアにきかれ、

「なんともないよ」

 と私は答える。


「では、こちらの指輪をつけてみてください」

 と言ってクレアは銀色の指輪を渡してきた。


 言われるままに、私はそれを左手の人差し指につけてみる。

 するとそこから、またも鋭い痛みが走ったので、私はすぐに外した。


「うっ! いたっ! …今度は痛みが出たよ」


「ごめんなさい。試す必要があったので…」

 クレアは申し訳なさそうに言った。


「うん、わかってる」


「ですがこれでわかりました。アリシアさんにかかっているのは、装備を変えられない呪いだと思います」


「え?」

 私はクレアの言葉に衝撃を受ける。


「それって…。ずっとこの…ビキニアーマーしか装備できないってこと!?」


「呪いを解かない限りは、そうなってしまいます」

 クレアが私にそう告げる。


「解呪を試みてみます。少々お待ち下さい」

 クレアが私とロラン、バートンたちに向かって言う。


「ああ、もちろんだ。待ってるぜ」

「まあ仕方ないな」

 と言って2人は、近くにあった倒木の上に腰を下ろした。


「頼むね、クレア」

 私はすがるようにしてクレアに言う。いやほんと、冗談じゃないから。


「できるだけのことはやってみます」

 クレアはしっかりとうなずいた。


 お願いです、神様。私から呪いを取り去ってください。


 普段はぜんぜん信仰心なんてないんだけど、ついつい私は神様にお願いしてしまうのだった。


 いやほんと、冗談じゃないから。

 ビキニアーマーだけしか装備できないとか、人生終わっちゃうんで!

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