Epilogue
炎上が発覚したのが一昨日の話。
早急に手荷物をまとめて空港にやってきた。
空港でチェックインを済ませて保安検査場前の
フロントで時間を潰す。
しばらく待っているとそこに予想外の人物が現れた。
「松本…」
「店長…」
「こんなところで会うとはな。
なんでここにいるんだ?」
「店長こそ。なぜ空港に」
「あ?高跳びに決まってるじゃねぇか。
ここまで炎上してると国内じゃ
落ち着かなかいからな。
少し早い夏休みみたいもんだ。」
「……というか炎上の件、あれおまえだろ?」
「なんでそう思うんですか?」
「質問に質問で返すなよ。
それなりに用心してたし、
タレコミ内容が不自然に詳しすぎる。
内部の人間だと思った。
まぁ後は悪いが俺の勘だな。
おまえ、ミンとなにかあったろ?」
「いいえ、なにもありませんよ。
彼女は自分と別れて帰国する。
それだけです。
今日は彼女の見送りに来たんです。」
「…はぁ?話が見えてこねぇな。」
「彼女、独身だけど子供いたんですよ。
信じられないですよね。
あの若さで一回結婚して子供2人作って、
旦那に子供の親権渡して離婚した
らしいんですよ。」
「…まぁあっちは10代で出産するのも
珍しくねぇしな。」
「そんなのお母さんが許すわけない
じゃないですか。」
「…はぁ?」
「いやだからそんな相手でお母さんが
結婚許すわけないじゃないですか。」
「待て待て待て。
いやそれでなんであんな炎上騒ぎに
なるんだ?」
「いや、SNSで特定されないように
ちょっと話してただけなんですけど、
炎上系のインフルエンサーに目をつけられて
根掘り葉掘り聞かれて…」
「いつもならこんな人に絡まれて
あんなこと言わなかったんですけど。
彼女のこともあって色々あって
つい話してしまって…」
信じられん。俺のビジネスがこんなマザコン
野郎にぶち壊されたのか?
頭が良い奴だと思ってたが、
女が関わるだけでこんなアホことやらかすとは。
「おまえ、そんな理由で
しっちゃかめっちゃかにしてくれたのか?」
「いやいや。
不法滞在の外国人に就労させて搾取してた
人にとやかく言われたくはないですよ。
まぁこんな状態にさせてしまったことは
あやまりますけど。」
「…確かに俺は不法滞在の外国人を
雇用して儲けてた。
それなりにリスクは覚悟してたし、
このことでおまえを恨むつもりはねぇよ。」
「だけどあんな啖呵を切っといて
俺のビジネスをぶっ潰したやつが
「ママが許してくれないから結婚
できません。」なんて言ってきたら
流石に腹がたつわ。」
「あとさ、おまえ一歩間違えば他の店員の
人生も台無しにするとこだったぞ。」
「はい?」
「技能実習生は日本にくるときに
大なり小なり借金してくるもんだ。
ブローカーに金払わねぇと来日できねぇ
からな。」
「あいつらにも借金がある。
いろんな事情で失踪者になって。
それでも金を貯めずに母国に
帰るわけには行かないと金をためてんだ。」
「お前のせいで数年かけて借金だけこさえて
帰国するはめになる可能性もあったんだぞ。」
「…」
「法的にはおまえが全面的に正しい。
彼女たちは不法滞在者として、
母国に送り返されることに
なったかもしれないな。」
「だがもしそうなったときに
゛自分が法的には正しかった゛
と自分を納得させられるか?」
「…」
「…まぁいいさ。
俺はしばらくベトナムに行く。
ほとぼりが冷めてからまた店を開くか、
別のビジネスに乗り換えるかは
わからんが向こうでしばらく考えるよ。」
「じゃあな。」
無言で俯く松本を見流しながら
保安検査場に向かった。
コイツは今、何を考えてるんだろうかと
頭の片隅で考えながら足を進めた。
頬を撫でる風はもう冷気の欠片も感じない。
夏を予感させる熱を含んだ風に変わっていた。
Epilogue
ハノイのとある喫茶店。
コーヒーを飲みながら休憩していると見知った顔を見つけたので話しかけた。
「よぉ、奇遇だな。ミン。」
「…オヒサシブリデス。」
「まぁな。
色々あったしちょいとした長期休暇さ。
そろそろほとぼりも冷めただろうし、
日本に帰ろうと思ってる。
おまえはこれからどうするんだ?」
ミンはスマートフォンを操作し、
翻訳アプリを起動させる。
「久しぶりに子供たちとも会えましたし、
次は韓国にでも行って働こうと思います。」
「そうか。もう日本には来ないのか?」
「日本にはもう二度と行くことは
ないと思います。」
「…松本の件は残念だったな。
もう再婚するつもりはないのか?」
「結婚はもうこりごりです。
博打で全財産すった元旦那も、
自分で意思決定することも
できない日本人もうんざりです。」
「…」
日本人もあんなのばっかりではないと
主張したいが…
今のミンの心には響かないだろうな。
「…そろそろ帰ります。
では、さようなら。
お元気で。」
「あぁ、達者でな。」
こいつにはもう二度と会うことはないだろう。
なんとなくそう感じた。
海の外から来たる者 @zyou
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