第32話 一件落着
〈雷天寮〉から歩いて5分。
大自然の中に木造のサウナルームがある。
サウナルームの前には巨大な滝があり、滝の音が部屋の中ま響いている。
オレはジークに誘われ、そのサウナルームで蒸気を浴びていた。
「一件落着! いやぁ、この一か月つっかれた~」
「まったく羨ましい。私のチームは何の問題もなく試験をクリアしてしまった。刺激に欠けるな……」
「何事もなく終わったならいいじゃねぇか」
「『逆境なき物語に教訓はない』。私のこの一か月は小説にしたとて5ページで終わるほどの駄作だ。いつか自伝を出したい身としては、もっと波乱万丈なストーリーを期待したい」
「自伝って、冗談――じゃなさそうだな」
大体この一か月でコイツの性格はわかってきた。
冷静かつ聡明だが、天然で自信家。そんで重度のコーヒー中毒。
「そんなに派手なモンがお好みなら……」
オレはジークの方を見る。
「もっとオレのストーリーに絡んでこいよ。一気に一冊分埋めてやる」
「ほう……面白い誘いだな。考えておこう」
オレとジークは笑い合う。
---
「教師の仕事はどうですか? ラメール、ミズキ」
〈アース城〉、中央搭最上階。校長室。
部屋を仕切るカーテンを間に挟み、ラメールとミズキは校長と話していた。
「楽しくやらせてもらってます」
「ボチボチ、ってところです」
さすがのラメールも校長の前ではタバコを吸っていない。
「2人共、うまくやっているようですね。
しかし驚きましたよ。ラメール、まさかあなたがあそこまで生徒に尽くすとは」
「はて? 一体なにを勘違いしているのですか」
「フレン=ミーティアですよ」
ミズキは口元を笑わせる。
「夜通し試行錯誤を重ねて、彼の訓練器具を仕上げたのは知っています」
例のロデオマシンのことだ。
「訓練器具?
ああ、アレのことですか。別にアイツのために作ったわけじゃないですよ、アレは俺用の訓練器具です」
「ふふっ、そういうことにしておきましょうか」
「そうそう、あのロデオマシンの失敗作2つ! 倉庫に置きっぱなしにしないでくれるかしら?」
“グレートダンサー君三号”の前身、“グレートダンサー君一号”と“グレートダンサー君二号”のことだ。ちなみに、フレンとノラヒメが倉庫に行った際、乗っていたロデオマシンはこの2つである。
「いつかどこかで役に立つかもしれんだろ」
「捨てるのがめんどくさいだけでしょうが!」
ミズキはため息をつき、ズレた眼鏡をくいっと上げる。
「……でも私も驚いたわ。ソラの弟子とも言える彼を、よりにもよってあなたが面倒見るなんて。あんなに目の敵していたのに」
「嫌がらせだよ」
「はぁ?」
「アイツの弟子を、俺が好き勝手にいじってやったら……あのアホ眼鏡に対するさいっこうの嫌がらせになると思わねぇか?」
「あなたって人は……」
ミズキは肩を落とす。
ラメールとミズキの話を聞き、校長はくすっと笑う。
「ラメール、あなたはあれですね」
校長は一呼吸置き、
「ツンデレ、というやつですね」
その単語を聞き、ラメールとミズキはギョッとした。
ラメールは眉をひそめながら、
「……校長。そんな言葉、どこで覚えたんですか?」
竜騎士専門学校へようこそ! 空松蓮司 @karakarakara
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