第45話:戴冠式
ロマンシア王国暦215年12月4日:ロマンシア・ポンポニウス連合王国王城
「ロマンシア王国女王、ポンポニウス王国女王、ガッロ女公爵、マリア・ポンポニウス・ロマンシア、フラヴィオ・ガッロ陛下、御入場」
緊張を必死で隠した式部官が大声でマリア女王を戴冠式の場に呼ぶ。
近隣諸国だけでなく、南北両大陸の各地から王族が集まっている。
ほとんどが国王か次期国王だった。
国王や次期国王がどうしても国内を離れられない、重大な問題がある国でも、有力な王族に全権を与え、国王代理として送り込んでいた。
それくらいマリア女王が行った魔王退治は大きな出来事だった。
特に世界中に広がった聖光が無視できなかった。
彼らは偵察もかねて王都を訪れたが、敵対するだけ無駄だと思いしらされていた。
王都の四方八方に、魔王1,上級魔族9の頭蓋骨が放置されているのだ。
明らかな威圧だったが、誰も何も言えなかった。
この世界を救った証拠であるうえに、再び誰かが頭蓋骨を利用して魔王を蘇生しようとするかもしれないので監視している、と言われたら抗議もできない。
特に、魔王との戦いの時に、隙があったらロマンシア王国かポンポニウス王国に侵攻しようと考えていた近隣諸国は何も言えなかった。
いや、何も言えないどころか、背中に嫌な汗をかいていた。
あの力が魔王や高位魔族だけに効果があるのか、それとも、邪心を抱いている人間にも効果があるのか判断できなかったからだ。
更に問題なのは、これほど恐ろしい力を持ったマリア女王が、1番強いのではないという現実だった。
何処の国もそれなりの王侯貴族が治めている。
ロマンシア王国のように馬鹿が治めている国の方が少ない。
普通の知識を持った者なら、マリア女王よりもロレンツォの方が強いと分かる。
マリア女王の聖光が魔族専用だったとしても、伝説の転移魔術を再現してしまい、高位魔族8魔を単独で殲滅できるロレンツォは敵に回せない。
「マリア女王陛下、貴女はキリバス教の教義を守り、家臣や民を幸せに導く事を誓いますか?」
キリバス教の教皇が上から目線で、戴冠の場でキリバス教に従う言葉を誓わせようとする。
王侯貴族よりも権威を持っているからこそできる不遜な態度だ。
だが、マリア女王陛下が何より1番大切なロレンツォが、教皇ごときに、マリア女王陛下を見下させる訳がなかった。
「キリバス教が民の生命と財産、誇りと名誉を尊重する限り、教義に敬意を払って国を治めましょう」
マリア女王は、教皇に頭を下げることなく胸を張り毅然とした態度で言い切った。
「「「「「グッワッシャーン」」」」」
同時に、教皇には知らせていなかった、近衛騎士団による抜剣して高く掲げる、マリア女王陛下に忠誠を誓う儀式が行われた。
「なっ、う、けっ、けっこう」
近衛騎士団の態度に、ここで戴冠式を中止したら、間違いなく殺されると判断した教皇は、しかたなく、つっかえながら、最低限の言葉で認めた。
だがこの程度の言葉で許すロレンツォではなかった。
あらかじめ教皇の態度によってどうするのかを近衛騎士団に命じてあった。
「「「「「グッワッシャーン」」」」」
近衛騎士団は剣を構えて何時で突撃できる態勢を取った。
「「「「「魔王降臨に何もしなかった教皇猊下」」」」」
魔王を降臨させるような教えを説いていた教皇など殺すぞ!
直接言葉にはしなかったが、暗に責任を取らせるぞと剣を向けた。
「じょ、じょ、じょうおう、陛下の申される通りです。
キリバス教の教義は民の生命と財産、誇りと名誉を守るもの。
その通りに国を治められてください」
マリア女王とロレンツォ宰相は言質を取った。
民の生命と財産、誇りと名誉を守らなかったら、それはキリバス教徒ではないと。
言葉にはしなかったが、明らかな態度で、民の生命と財産、誇りと名誉を守らなかったら、教皇であろうと背教徒として殺すぞと!
更に、普段は王にすら不遜な態度を取っている教皇が、マリア女王陛下の武力に怯えて言い成りになったのを、南北両大陸中の王や王に匹敵する者達に見せつけた。
「これよりマリア女王陛下の結婚式を行います。
ポンポニウス公爵、ロレンツォ・ポンポニウス・ロマンシア・フラヴィオ・ガッロ閣下の御入場」
式部官に呼び出されて、能面のような表所をしたロレンツォが入って来た。
未だに割り切れない心境だった。
だが、本気でロレンツォとの結婚を望むマリア女王の命令には逆らえなかった。
『これだけの力を得たのに、体裁を整える為だけに、好きでもない男性を王配に迎えたり、男公妾に迎えたりするのは絶対に嫌です』と言われてしまったら、何も言えなくなってしまった。
近隣諸国との戦争を回避するために、水面下でマリア女王とロレンツォの政略結婚を推し進めていた。
書面では契約してはいなくても、完全になかった事にしてしまったら、国家や王族間の信義を失ってしまう。
ロレンツォは損得利害を考えたが、どう考えての得と利の方が大きかった。
マリア女王が嫌がる事を強制する事の方が、近隣職国に嫌われ恨まれ憎まれる事よりも重要だった。
それに、魔王を滅した直後の近隣諸国の態度は、明らかに怯えていた。
どれほどの無理難題を言われても、マリア女王とロレンツォを怒らせないように受け入れますという態度だった。
自重を捨て去ったとはいえ、ロレンツォが表に出した魔術はほんの僅かだ。
ロレンツォの基準では、その程度では大した脅しにはならないのだが、現実には南北両大陸のほとんどの王族が集まるほど恐れられている。
こんな状態ならば、各国の優秀な密偵が王配や男公妾の護衛や側使えとして王城にやってくる状況で、普通の結婚生活あ営まれているのを偽装するよりも、ロレンツォが偽装結婚の相手になった方が良いと判断したのだ。
マリア女王が何時何処で誰を好きになり、その男の子供を生んだとしても、ロレンツォの子供としてしまえば何の問題もない。
王子であろうと王女であろうと、ロレンツォ自身が全身全霊を込めて育てれば、マルティクスやヤコブのような育ち方はしない。
ロレンツォは、そう思ってマリア女王との結婚を承諾したのだった。
『陛下、閣下、どうかお幸せになってください!』
七面倒臭いマリア女王が陛下とロレンツォ宰相に仕えなければいけない、ロレンツォの戦友や配下は心から2人の幸せを願っていた。
愛する義妹が王太子の浮気相手に自殺に追い込まれたので、王太子も浮気相手も地獄に送ってやる 克全 @dokatu
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