第18話

 四月中旬、僕は家でタバコを吸っていた。塔子とおばさんは都心に住まいを移し、僕とは無縁の状態になっていた。突然おばさんから手紙が送られてきた。


『こんにちは。小川良次くん。あなたの事はいつだって大事にしてきました。家族同様に思ってきました。だから辛い状況の私に答えを教えてほしいのです。塔子が死んだことについてです。塔子は自殺しました。塔子は首を吊ったのです。私はいつもあなたと京子と塔子をできるだけ正しい方向に連れて行こうとしました。でも今度はあなたが私を正しい方向に連れ戻してほしいのです。私は今苦しみの真っ只中にいます。いつも塔子の死について答えを出そうとしています。塔子がなぜ自殺したのか。塔子はなにを考えていたのか。塔子は一体どんな生き方をしていたのか。そういった答えを求めてばかりいます。だからあなたにすぐにでも来てほしいのです。私のそばに居て幾つかの質問に何度も答えてほしいのです。私は今、心がからっぽになった傷みに必死に耐えています。親しい誰かがすぐ側にいればいいと思います。だからあなたに来てほしいのです。待っています。 峰子』

 僕はこの手紙を読み終わった後、何度も必死に考えた。特定の何かについてではなく、あらゆる事柄について散漫に考えだした。だがついには京子の死んだ日について僕は思い出していた。そしてそれが空白を埋めようとする作業だったと気づくのにだいぶ時間がかかった。僕は最近、いつも悩んでいる。答えを出して解決できる問題に対し、なぜ答えを伝えるという、傷みを生むようなことをしなくてはいけないのかと。

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異常に愛してくる彼女がメンヘラなんだが 日端記一 @goldmonolist

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