エレベーターの重圧
高黄森哉
エレベーター
奇妙な匂いがする。カーペット、それも使い古された。そこに、雨や泥の匂いがしみ込んでいる。鏡があって、自分が移っているが、その姿は意識に昇っていない。自分なんていないかのようだ。
深く息を吸い込むと、肺の辺りがキリキリと痛んだ。また、胃が締め付けられるような痛みがずっとしている。胃の底のあたりだ。そこが、沈み込むように、じんじんと鈍い疼痛がする。
また、頭は鈍く淀み、引きずるような思考は、茫漠としていた。表面がぼんやりと痛い。脳細胞が死滅していくように感じる。考えがまとまらず、問題の絡まりをほどくことができない。
エレベーターの数字がどんどん昇っていく。自分の身体も、天に近くなっていく。なのに、身体は鉛のような質量で地面に押さえつけられた。分かった。僕が昇ってるからだ。重力に抵抗しているからだ。
目的の階についても、そこで降りなかった。降りることも出来た。それは、精神的な意味でもそうだった。当然、肉体的にも。それでも、そうしなかった。人が沢山のって来ても、真ん中にいて、人々はそんな僕にかまうことなく、目的地を指定した。
フワリと浮く感覚がする。精神がすっと軽くなるようだ。目的地にたどり着くことは叶わなかったけど、どうにでもなる気がする。肩の荷が下りる。だけど、脳みそだけは、まだぼんやりと曇っていて、絡まった問題は、まとまりそうになかった。
エレベーターの重圧 高黄森哉 @kamikawa2001
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