俺との子作りで5,000兆円!?そんな俺を逆NTRれたくない幼馴染VS婚約者VS美少女達の話

サドガワイツキ

第1話

流星群が降り注ぐ満点の夜空の下、少年は少女を優しく抱きしめている。命の灯火が消えつつあるその少女の最期のぬくもりを逃さぬように、ぎゅっと、ぎゅtっと…

『ずっと一緒にいられなくてごめんね…大好きだったよ…』

そう言ってゆっくりと瞳を閉じる少女の頬に自分の頬をそっと摺り寄せ、触れた頬からすべての熱が失われるまで、少年は少女を抱きしめ続けていた――――


「ブラボー!おぉ、ブラボー!!…良い泣きゲーだったッ!!」

PC画面に映し出されたエンディングのスチールを見ながら、俺は両手でパンパンと拍手を送った。いやぁ、このゲームの開発陣は泣かせどころってのが上手巧みにキャラに感情移入させてあげて落としてでプレイヤーの涙腺のダムを崩壊させてきやがる…チクショウやってくれたなぁ!俺はハンカチで涙をぬぐいながら、この素敵な時間を与えてくれたゲームメーカーに賛辞を贈るのであった。

コンコン、とドアを叩く音がする。

「入るよ~、シロウちゃん」

ドアがノックされたので、返事をするといつもの見知った顔が部屋に入ってきた。…そうか、もう朝か。

「また徹夜でギャルゲーしてたんだ?今度はどんなのやってたの?」

切りそろえて整えられた前髪と、栗色の髪は肩まで伸ばしたセミロングで、ワンカールしている。ぱっちりした大きな瞳と綺麗な顔立ちの美少女は俺の幼馴染の、穂岐山美花(ほきやまみか)だ。

「今日は泣きゲーをしてた…いやぁ、美しい物語っていいものですね」

「ゲームもいいけどきちんと寝なきゃだめだよ?目の下クマできてるし」

そう言いながら俺の顔をのぞきこんでくるミカ。

「顔が近ぇ。着替えるから外でてろ」

ミカのお尻をスパァンと叩くと、「はぁい♪」となぜか嬉しそうな声で、部屋をてこてこ出ていった。全く、いつまでたっても俺の面倒を見ようとする困った幼馴染ちゃんなんだぜ。

着替え始めて服を脱いだら視線を感じたのでドアを中止すると、じぃっ…とドアの隙間からミカが俺を視ていたのでしっかりドアを閉めて着替える等のトラブルもあったが、着替えてミカと2人学校へ登校した。

俺とミカは幼馴染で、昔色々あってミカに懐かれて以降こうして甲斐甲斐しく俺の世話を焼いたり甘やかそうとしてくる。俺が現実の女に失望してなければ今頃はミカとカップルになっていたのは想像に難くない。…そう、現実の女なんてロクでもないのだ。好きとか愛してるとか言ってもその裏ではあっさり他の男に寝取られてるのだ。だから俺は現実の女なんて信じない。信じられるのは2次元だけ、リアルなどクソくらえだ。俺自身の複雑な家庭環境―――父親がおらず、祖父母と母親に育てられ、物心つくころには母を事故で失い実質祖父母に育てられるという環境も、現実の恋愛を唾棄するのに一役買っていた。子供を産ませておいてとんずらする顔も見たことないクソ親父…そんな男に俺はなりたくない。

こんな俺にも飽きもせずにべったりひっついているミカもよく飽きないな…と思うが、感情で言えばミカは幼馴染だし嫌いなわけじゃない。むしろ可愛い女の子だと思う。ただ、俺が現実の女と恋愛をするつもりがなく俺の遺伝子は俺の代で終止符をうつと決めているだけで。ご先祖様には申し訳ないとは思うが、子孫を残せない俺をどうか許してほしい。俺、清住四郎は恋愛の敗北者じゃけェ…。

高校生活がスタートして一週間たつが、勉強の内容が高校になった以外は生活サイクルも変わらない。朝起きて、学校に行って、帰る。その毎日の繰り返しだ。俺?当然帰宅部だよ!俺みたいな平凡陰キャに部活なんて華々しいのは似合ってないんだ。中学の頃は部活を頑張ったりしてみたけどもう俺にそんな情熱は無い。萎びて口往く枯れ尾花なのだ。アオハルとかそういうのは陽の者とかクラスのカースト上位の奴らがやる事で、オタクな陰のものには無縁。…そう言う意味では超絶美少女の幼馴染がいるのが俺にとってはイレギュラーなのだが、これは…仕方がないのだ。

「ふんふんふ~ん、今日もシロウちゃんと一緒だよ~」

隣を歩きながら、上機嫌に謎のリズムで鼻歌を歌うミカ。

「お前はいつも楽しそうだな」

「え~、当然だよぉ。今日もシロウたそが隣にいるって、幸せ~!えへへ、ラブラブ?」

誰がたそや、誰が…。そういいながらぴとっと身体を寄せてくるミカ。かなり発育のいい胸の感触を二の腕に感じる…だが俺は惑わされない。

「それはようござんした」

「もぅ、つれないなぁ。…でもいっぱいちゅき♡」

そう言いながらごく自然に腕を組んでくるミカ。逆らっても俺にはどうしようもできないのでなすがまま好きなようにさせておく―――のだが。

「おはようございます、シロウ様」

学校の通学路の真ん中に、執事の恰好をしたお爺さんが立っていた。しかもなんか俺の名前呼んでる。恭しく礼をされたのでこちらもペコリ、と頭を下げる。

「…おはようございます?シロウちゃんの知り合い?」

ミカは挨拶をしながら不思議そうな顔をしているが、俺にこんな執事のおじいさんの知り合いはいない。

「お会いするのは初めてでございます。わたくし、執事の魚留田と申します。各務―――いいえ、阿久根四朗様」

阿久根、というのはうちの父方の苗字だ。クソ親父の知り合いかな?

「突然の訪問で恐縮でございますが―――御当主様の命により連行させていただきます」

そう言われた次の瞬間、ミカにつかまれていた筈の俺の身体が宙を舞っていた。

「おわぁぁぁぁ?!」

魚留田と名乗った爺さんに担がれていた。ミカが驚く声を上げているが、俺の身体を担いだまま疾走する爺さん、速い。魚留田さんにおいつき、並走するようにしながらドアを開けたリムジンに押し込まれた。俺を押し込んだ後に爺さんもリムジンに乗り込んできた

「うおっ…?!ちょ、何するんだよ、この日本で人さらいかよ!俺みたいな陰キャを誘拐しても何も出ないぞ!」

「いえ、手荒な真似になり申し訳ございません。本当はもっと穏便にお連れするつもりでしたが…お連れ様に騒がれると厄介だと判断しましたので」

連れ、と聞いてハッとミカの事が思い浮かぶ。

リムジンのリアウインドウを振り返ると、鞄を捨てたミカがリムジンを追いかけてきている姿が小さく見えた。

こちらに手を伸ばしながら何かを叫んでいる。

「ミカァー!!」

「振り切れ、安全運転でな」

爺さんがリムジンの運転手に指示を飛ばし、リムジンが加速していく。えー、俺どうなっちゃうのこれ。暴れて脱出しようかと思ったけど完全に鍵かけられてるし、あとこの爺さん多分すっごく強い人間離れしたアイプの人だ。うちの爺ちゃんみたいな鍛えまくってるタイプの人だから俺みたいな陰キャには手も足も出ない。

さっきまでギャルゲーやってただけなのに何で俺リムジンに拉致されてるんだよ…教えてくれごひ…。


リムジンに連れらていったのは校外の豪邸だった。そう言え阿久根財団の党首が住んでる豪邸があるってのは聞いているが、こうして来るのは初めて―――というか普通に生きていたらまずかかわりは持たないだろう。西洋建築の豪奢な造りの洋館、なにこれゾンビゲームの初代の舞台かな?って感じ。

「こちらへ、四朗様。ご当主がお待ちです」

なんなんだ一体…と警戒しながら車を降りると、執事服や侍女服の男女が整列していた。恭しく礼をされ、そしてドアが開かれて中へと通される。

「手荒な真似をしたようだがすまなかったな、四朗。―――ほぅ、零時(れいじ)によく似た美男子じゃな」

そういうのはヒゲを蓄えた禿頭の爺さん。羽織袴の姿が似合っていて、相当な年寄りのはずなのに生気と威厳に満ちている。この人がこの阿久根の家の当主かな。隣には小柄な女の子と、金髪の美少女…外国人かな?が立っていた。2人がこちらに会釈をしてきたので、金髪の子に頭を下げて挨拶をしてから、小さい子には手を振る。子供には優しくしないといけないよねー。

…そして、零時というのは名前だけ知っている俺の親父で、俺の母さん―――清住二三香――との間に俺という子供を作っておきながら責任も取らなかったクズ野郎だ。


「儂はこの阿久根の当主、阿久根孝雄じゃ。…その様子だと零時をよく思っておらぬようだが、それも仕方ない事か。少し話をしよう、ついて参れ」

そう言って促す阿久根翁。とりあえず俺に出来る事はついていくことだけなのでそのまま歩いていくと、バカみたいにデカくて広いダイニングルームに通された。

テーブル一つとっても10人は余裕をもって座れそうなお高いアンティーク調の長テーブルで、生活の違いを感じさせるものだった。テーブルの上座に阿久根翁が座ったので、俺は下座に座る。そんな俺の様子を見ていた阿久根翁がふむ…と顎鬚を触りながら、「どこから説明をしたものかの…」と言っている。侍女服の給仕さんがいい匂いのする紅茶を出してくれたのでお礼をいいつつ、その話に耳を傾けた。

「まず結論から言おうか。お前はこの阿久根の家、阿久根財団の唯一の直系の男子なのじゃ。お前の父である阿久根零時は儂の息子。もう一人の息子であり零時の弟である静男にも娘がおるがの、それがこの子、翔じゃ。お前とは従兄妹という関係になるな」

そこで、阿久根翁の隣に座っていた女の子が紹介された。

「へぇ翔ちゃんっていうんだ、宜しくね」

「宜しく、四朗お兄ちゃん」

おっかなびっくりという様子で挨拶をしてくれる翔ちゃん。わー、お兄ちゃんって呼ばれるのは新鮮だなぁ。恋愛ゲームのヒロインからしか言われたことないわー。この状況でのちょっとした癒しなので、和むのだ。

しかし一周回って冷静になった頭で阿久根翁から告げられた言葉に驚く…というかなんだよそれ。

「わしの息子、お前の父…零時はいつまでたっても結婚もしようとせずずっと1人身じゃった。いずれは世継ぎをと思っていたが頑なに伴侶を得ようとしないまま―――つい先日事故で亡くなったのじゃ」

…はぁ、何?顔も見たことのない親父、死んだんだ。はぁ~、父親らしいことしてもらったこともないし、そう言う情報以上の感情がわかないな…薄情かもしれないけどさ。

「そうなんですか…としか俺には言う事がないんですけど、それを伝えるためにこうして大騒ぎまでして俺を誘拐したんですか?」

誘拐というのは悪意ある言い方だが実際そんなもんだと思う。…正直、この爺さんなら多少の不祥事とかは権力でもみ消されちゃいそうだよなぁ。

「いや…お前の身を護る為に一刻の猶予もならんと判断したのじゃ」

身を護る?物騒な話だな。何それ。あっけにとられていると、阿久根翁が話を続けた。

「お前の祖父―――武神と名高い源一郎殿が動いていたのもあるじゃろう。じゃが、16年もの間、お前の存在を見つけ出せなかったことは儂の不明のいたすところ。…お前にも、お前の母二三香さんにも本当に悪い事をしたと思っておる。儂が土下座をして気が済むのであれば何度でも詫びよう、お前の気がすむまでな。だが、それでもお前を放っておくわけにはもいかぬのじゃ。…お前の存在が明るみに出てしまった。お前は―――正確には、お前と、そしてお前の子供は5,000兆円以上の資産を持つこの阿久根財団の後継者になるのじゃ」

5,000兆円?!日本の国家予算よりも多いじゃないか、というか世界のGDPの半分ぐらいないそれ。

「阿久根財団は国内外に様々な事業を展開しておるからの…そんな阿久根財団の全権がいずれお前にゆく。そうなればお前の意志に関わら図様々な者がお前に近寄るじゃろう。お前を力づくで手に入れようとするものも出るやも知れぬ」

えぇ、何それ怖い。俺別にお金とかいらないからそっとしておいてほしい。オンボロ道場とあの平屋の家でのんびり暮らすよ。…と説明をしたが渋い顔をする阿久根翁。

「お前がそう言うのもわかる…じゃがそうするとこんどはこの子が後継者に祭り上げられてしまう事になる。この子もそう言う事は望んでおらぬし、なによりまだ幼い。この子には心底惚れた少年がおってな、できればその少年と夫婦になって静かに暮らしたいと願っておるのじゃ」

そう言って翔ちゃんの方を見る。まだ小学生くらいなのにすすんでるんだなぁ…。でもそっか、好きな人と一緒になって暮らしたいっていう女の子らしい望みっていいよね。

「…でも、怖かったら、大丈夫だから!」

そう言ってにっこりと笑う翔ちゃん。…嘘が下手だな、怖いんだろ?まだ小さい女の子だしな。そんな顔して無理に虚勢を張らなくていいんだ、というか年下の女の子を盾にして隠れるなんて男じゃないからな!!お兄ちゃんに任せとけ!!

「話は分かった。で、爺さんは…遠慮せずに爺さんって呼ばせてもらうけど、俺に何をさせたいんだ?」

そこで、そういう所は零時そっくりじゃな、と顎鬚を撫でながら懐かしむように目を伏せる阿久根翁。

「出来る事ならお前には阿久根の当主の座を継いでもらいたいが、それは今後話を詰めてゆくとしよう。先に紹介するが…ここにいるのは河澄(かわすみ)エリス。わしの信頼する良家の娘御で―――お前の婚約者、兼護衛じゃ」

この時初めて紹介されたエリスが、少し顔を赤らめながら目を伏せて、軽く頭を下げた。

「河澄エリスと申します。どうぞお気軽に、エリスとお呼びください。問おう…あなたが私の旦那様(マスター)か?」

そんな事を言われたので左手の甲をみたけど特に何も浮き出てはこなかったぜ、残念。

「随分とノリがいいな。まぁそう言う事でこの娘は器量よし、性格良し、家柄良し。剣の腕前も一流じゃ。お前が学生として生活を送るにあたり、護衛としてこの娘を侍らすがよい。」

「あぁ?いや、護衛ってんなら男の方が俺も気楽だしいいんじゃ…いや、婚約者がもういるからって建前が必要なのか」

「その頭の回転の速さは零時譲りじゃな。その通りじゃ。何も実際に婚約者として扱え、とまでは言わん。この子が傍にいることでお前の身は格段に安全になる。無論、お前がその気になったのであればこの子と結ばれてくれたならばわしも安心じゃがな」

はぁ…俺は三次元で恋愛する気なんてないけど、と思いながら「でもこの子の気持ちはどうなんだ?年頃の女の子じゃないか」と聞き返す

「問題ありません。阿久根翁にはお世話になってきましたから」

そう言うエリスは迷いのない真っすぐな目で俺を視てきた。外国人らしい顔立ちの凛とした美少女にみつめられては面はゆいんだぜ。

「成程、つまり俺は実際に阿久根を継ぐか継がないかはさておいて、後継者という立場のポーズをとりつつエリスちゃんという婚約者もいるよ!だから他の奴らが入り込む隙とか悪だくみしても無駄だからね!ってすればいいんだな」

「まぁそんなところじゃ。お前には迷惑をかけることになるがな」

「本当だよ、いきなり拉致ってとんでもねー事させてくれちゃってさぁ。…まぁ事情は把握したからいいよ。その話引き受けてやる。とはいえいつまでもってわけにはいかないから後継者問題とかはどうにかしてもらうぞ。」

…別に爺さんのためじゃないけどちっちゃな従妹を危険に晒すよりはまだ俺の方がいいだろうから引き受けてやるだけだからな、と目線で訴えることは忘れない。

そんな俺の言葉と視線に、ふふ、と笑う阿久根翁。

「…お前の出生や、失礼だがDNAも検査させてもらっていてな。零時の息子であることは間違いなかったのだが、お前は高校生の頃の零時にそっくりじゃ」

「そうですか、そりゃどーも。…生憎俺は親父にあった事もないから何の感傷もないけどね」


それから阿久根翁達に見送られつつ、エリスちゃんも学園に編入する手はずになっているから一緒にいきなさいと送り出された。一応、学校に送ってもらえるようだ。

「いた~~~!シロウちゃあああん!」

門の前からこちらに向かって絶叫しているのがいた。あ、ミカだ。門の格子を掴みながら、こっちに声を上げている。

「おーいミカァ、来てくれたのかぁ~!」

そういってミカに手を振り返す。

「シロウ、あの女性は?」

隣にいるエリスちゃんが怪訝そうな顔をしている。

「俺の幼馴染のミカって言って子供のころからずっと一緒だったん奴なんだ。アイツは大丈夫、俺を狙うとかそういう怪しい奴じゃないよ。…どうやら俺を心配して追いかけてきたみたいだ」

「そうですか、幼馴染の。それでは私もご挨拶させていただきます。清住さんも一緒に車で送ってもらうとしましょう」

そう言っていると、今度はハイヤーが出されたのでエリスちゃんと一緒に乗り込み、ついでにミカも載せていってもらう。


「こ、ここここ、婚約者ぁ?!」

ガーン、とショックを受けた表情で、エリスちゃんを指さし震えるミカ。

「こ、こんにゃく!じゃ!とか、コーン焼く、とかじゃなくって…?!えっ、えっ?!」

パニックになったように青い顔でガクガクブルブルしているミカ。

「落ち着け。そういう建前になってるってことだ。まぁ今話した通りの事で色々あって、俺が変な奴に狙われたりしないように護衛してもらえるそうだ」

「そ、そそそそそ、そんなの婚約者!じゃなくtったっていいじゃない!そ、それにシロウちゃんには、その、私!がいるし?私そんじょそこらの変な奴なんか、やっつけちゃうし?」

そういってシャドーボクシングっぽいことをするミカ。

「いやまぁ、気持ちはありがたいけどお前を俺の実家の事に巻き込んで怪我でもさせたら申し訳ないしなぁ」

「大丈夫です、清住さん。シロウは私が必ず護ります」

車の中でも、膝の上に両手を置き足を流した美しい座り方をしているエリスが、真剣な表情で言うのでミカも怯んでいた。

「う、う~、でも婚約者、うう、うー!う、うらやまじいよお…」

「泣くなよミカ、形式上のものだって」

「―――勿論、シロウに求められればそう言った事にも応じる覚悟はできています。そう言った経験はありませんので初めては優しくして頂けるとありがたいのですが」

えぐえぐと泣きだししたミカの頭を撫でて慰めていると、エリスちゃんがポロッととんでもない事を言う。

「そ、そう言う事?!そう言う事ってなんですか!?そ、そそそそ、そう言う事は、結婚するまでしちゃだめなんですぅー!幼馴染と以外は、そう言う事しちゃだめなんですけどぉー!」

泣き続けるミカが訳の分からない事を言っている。

「何故幼馴染とは良いのでしょうか?であれば婚約者は問題ないと思いますが」

凄く不思議そうに首をかしげているエリスちゃん。君たち車の中でそんなよくわけわからないこと言わないでくれるかなぁ…?!

「シ、シロウのおちんちんはおっきいんですぅ!15㎝以上はありますぅ!ポッと出の河澄さんには、無理だと思いますぅ~」

そういって、こいつら交尾したんだ!とばかりの顔で「うぁーっ」と泣きながら叫ぶミカ。うぉいこら馬鹿何を言い出すミカァ!落ち着けミカァ!あとなんで知ってるんだミカァ!!

「―――鍛錬で鍛えたこの身であれば!!」

そして何故か拳を握り闘志を燃やしながらじっと俺を視るエリスちゃん。

「クソォッ!ボケばっかりでツッコみがいねぇ!!

「うあぁーっ、やっぱりツッコむんだぁ、河澄さんとずっこんばっこんするんだぁ、やっぱり交尾するんだぁ、こいつらうまぴょいしたんだぁ!うあああああん、うあああああん、シロウちゃんが、わだじのシロウぢゃんがぁぁぁっ!」

「やかましい、しねーよ!落ち着けミカァ!何やってんだよミカァ―――!」

朝のハイヤ―の中はそんな突っ込み不在の混沌とした空間になり、俺の絶叫だけが木霊した。


そこから学校に行くと、朝のHRで編入生としてエリスちゃんが紹介されていた。入学したばかりの春のこの時期に?とクラスの皆は驚いていたが、エリスちゃんは美人だったので男子は色めきだっていた。

「河澄エリスと申します、日本には不慣れなところがありますが、ご指導、ご鞭撻お願いします。―――いずれ夫となる婚約者のシロウともども、級友として、学友としてどうぞ宜しくお願いいたします」

「「「婚約者ァ?!」」」

エリスちゃんの発言にざわ…ざわ…と騒めきだすクラスメートたち。シロウ…?あぁ、各務か、とエリスちゃんと交互に皆が俺を視る。やめろ…俺は3次元を解脱した二次元を愛する陰キャなんだ…俺を視るな…!!

「ち、ちちち、違います、違うもん!シロウちゃんと、こ、ここここ、婚約者だなんてそんな!」

エリスちゃんの発言に立ち上がり、ぶるぶる震えながらエリスちゃんを指さすのはミカ。やめろ、事態をややこしくするんじゃぁない。

「?…私とシロウの関係は双方の家の同意を以て結ばれた正式なものですが?」

不思議そうに首をかしげているエリスちゃん。だんだんつかめてきたけどエリスちゃん大分マイペースなんだよこの子…!!

「修羅場?」「修羅場だぁ」「わー、穂岐山幼馴染をNTRれちゃったのかぁ…この場合逆NTR?」「やはり幼馴染は敗北者じゃけェ…」

クラスの皆が俺たちの様子に固唾をのんで…ではなく盛り上がっている。これ完全に面白い見世物扱いされてるだろ…やめろミカ、落ち着けステイ、ステイ!

「そ、そーゆーのって、本人の同意が必要なんだからっ!ねっ、シロウちゃん、ねっ?!」

すがるように俺を視てくるミカ。

「そう言う事であれば阿久根邸でシロウからは私との婚約について了承を得てもらっているので問題はないかと」

「ぎょぼー?!?!?!?!?!」

横からのエリスちゃんの言葉に、奇声を発しながら泡を吹いて気絶するミカ。おいしっかりしろミカァ!お前学年有数の正統派美少女とか言われてたんだぞ!?あっという間に面白幼馴染逆NTRキャラにされちまったんだぞミカァ!!いや、別に俺が逆NTRとかそういうわけではないが!そういう扱いされてるぞお前ー!!


その日は朝の騒ぎが尾を引き、昼になれば男子も女子も俺か、ミカか、エリスちゃんの席のどれかに集まっていた。女子は主にミカかエリスに、男子は俺のところにという按配だ。お陰で昼飯も騒がしすぎて気もそぞろに食べる羽目になっちまったぜ全く。

そんな喧騒からこっそりとトイレに抜け出して用を済ませたところで、女子に声をかけられた。

「ごめーん、そこの君!ちょっと手伝ってくれない?」

両手に抱えきれない上山を持ってよたよたと歩く眼鏡でおさげの女子が俺に声をかけてきた。縛られた書類の山だったが、明らかに女子には過積載な量だったので、8割位をさっと引き受ける。

「ありがとー、これ外の倉庫に運べって言われちゃって…」

いやー、この量を女子一人で運ばせるのはキツいだろ…と思ったのと放っておけないので外の倉庫まで一緒に運ぶのに付き合う。女子には優しくね。

外に出て、女子に先導されるまま校庭のはずれにある倉庫に書類を運ぶ。ガラガラと鉄の引き戸が音を立てて開かれたので、その中に書類を持って入る。長く使われていなかったのか、随分と埃っぽい倉庫だが奥に書類の入ったダンボールやらがつまれているのでそこに書類の山を積む。

「助かったよ、…ありがとう」

ガラガラ、ガチャン、という音がして仲が暗くなったので、何事かと振り返ると同時に倉庫の中の豆電球が付いた。

「うふふ…案外単純ね、各務…いえ、阿久根四朗くん?」

眼鏡でおさげの先輩は、眼鏡を放り捨てておさげを解く。胸元のボタンをぷちぷちと外していく姿は酷く…えっちだ!いや、俺は3次元に興奮なんかしないんだからね!俺の操は次元の向こう側に捧げたのだ…そう、2次元に!!

「爺さんが言っていたのはこういう事か」

「察しが早くて助かるわぁ。君と子作りをしたら5,000兆円だもの。…悪く思わないでね?その代わり最高にイイ事してあげるから。この隙を狙うためにずっと男子トイレを見張っていた甲斐があったわ」

「えっ、一日中男子トイレの入り口みてスタンバってたんですかそれ寂しくないですか?哀しくなりませんか?」

「う、五月蠅いわね!!しょうがないじゃないそうしろって命令されたんだから!いいから黙ってだすものだしなさいよ!」

そう言ってカッターシャツの前をはだけた女子生徒が両手をわきわきしながら構えている。それ男子がやるポーズじゃない?逆じゃない?

「子・作・り・しまっしょ?そぉい!」

テテレンテレンテンテレテン…じゃないんだよなぁ!

そういってどこかの怪盗の3代目のごとくダイブしてくる先輩。うおおおおお!駄目だ、まずい、女の子に手を出せないしどうすりゃいいんだ…ここはコンクリート造りの倉庫、入り口は鍵をかけられた鉄扉のみ。

「たすけてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「天井のシミをかぞえてる間に終わるわよ♪」

女子に馬乗りされながら懸命にガードする。クソ…童貞を護れない奴にいったい何を護れるっていうんだ!俺は童貞だ…童貞で十分だ!!頭の中でロクでもない迷言が飛び交うが必死に女子に反抗する。う、うおおおおおおおやめろズボンを脱がさないで!嫌よ駄目よこんな所じゃーってちがーう!!

「ああもうじれったいわねぇ!」

そういってカチャカチャとベルトを外そうとする女子だったが…

ゴゥン、と振動と土煙が舞う。

そして陽の光が差し込み、2人の人影が見える。

「ミカ…それにエリスちゃん!!」

「もう大丈夫だよ!何故って?私が来た!だよ!!」

バァーンと胸を張るミカと、竹刀を構えるエリスちゃん。

「迂闊でした…次からはトイレの中まで同行する必要がありますね」

いや、それはやめてくれエリスちゃん。年頃の女の子なんだからもっとこう恥じらいとかもとうね。

「だめーっ、シロウちゃんをおちっこちー!させるのは、私がするんだからぁっ!」

やめいミカァ!俺をバブちゃんみたいに扱うんじゃないなんだよおちっこちー!って!!クソッ、この2人だとボケとボケなんだよなぁ…

「な、なぜここが?」

俺に馬乗りになっていた女子が飛び退き、身構えながら2人を睨んでいる。

「それはもちろん…匂いで!!」

そう言ってさも当然のように言い放つミカ。匂いィ?!

「シロウちゃんの匂いなら半径1㎞位なら嗅ぎ分けれるからね…あとえっと、その昨日一人で、えっちなことしてたかとかも…私なら匂いでわかっちゃうんだからぁ!夜シャワー浴びなおしてもばっちり♡」

やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!健全な青少年の心に来るからやめてくれぇrぇぇぇ!聞きたくないッ!うおおおおん!!もうエッチなゲームで賢者タイムできなくなるじゃねーか畜生ーッ!!

「…クッ、私も穂岐山さんのように匂いで追跡が出来るように、もっとシロウの匂いをたくさん嗅がなければいけませんね…」

張り合うなクンカーしようと張り合うな。

「いや…っていうかなんだお前ら、壁が壊れて…?」

女子が冷静になってきたのかそんな事を言っているがそういえばそうだ。入り口の鉄扉は鍵をかけられて出れないけど、壁に大穴空いてないか?

「そこはほら、鍵が開いてなかったから…こう、シュッシュって!」

そういってシャドーボクシングのようなポーズをするミカ。あぁ、うんそうね。お前子供のころから力すごく強かったもんな、やっぱりすげえよミカは。

「馬鹿言え人間がコンクリートの壁を素手で壊せる訳ないだろ!」

「それはね…愛の力だよ!!」

バァーン!と右手を掲げ、左手を腰に沿えてポーズを決めるミカ。

「…ふざけるな、お前らみたいなふざけた奴に、私の計画を邪魔されてたまるか!この男と子作りしなきゃ、うちのグループは…父さんも母さんも困ってるんだ…だから私、は―――」

「―――釈明は阿久根翁に」

女子が怒りの形相で必死に叫ぼうとしていたのを、エリスちゃんが竹刀を一閃してその意識を刈り取った。

「助けが遅くなり申し訳ありませんでした、シロウ。これからはこのような事が無いよう、いついかなる時も傍を離れません」

崩れ落ちた女子を肩に担ぎながらエリスちゃんが言う。良くも悪くもマイペースというか、職務に忠実というか。いやぁ、…プライベートもあるからそこは尊重してほしいなぁ。


その後、エリスちゃんが爺さんに連絡して女子を引き渡して、学校にも何やら説明していたがエリスちゃんが処理は任せてくれと言ったので任せることにした。

「よかったよぉ、シロウちゃんが無事でよかったよぉ」

そう言って俺に抱き着きながら頬刷りをするミカ。正直抱きしめられすぎて苦しいが、疲れているのでなすがままにさせておく。

「…ねぇシロウちゃん、シロウちゃんはやっぱりあの河澄さんと結婚、しちゃうの…?」

静かになったと思ったら、うるんだ瞳で問いかけてくるミカ。

「…いや、どうだろうな。さっきの女子みたいな奴から身を守ってもらうために一緒にいるってだけだから…今のところその予定はない、かな」

そんな俺の言葉に、静かに「そっか。…そっかぁ」と胸をなでおろしているミカ。

「…よし!私に任せて!私がシロウちゃんを護るから!」

そういって自分のおっきな胸を拳で叩きながら、どんと来いばっちこーい!とばいんばいんの胸を弾ませる。そういえばお前幾つになったっけ?Dだっけ?Eだっけ?ばいんばいんの胸を見ていたらなんとなく呟いてしまった

「質量を持った残像だと?!だよ」

成程わかりやすいありがとう。

「…河澄さんもきれいだけど、負けないもん」

そういってまた抱き着いてくるミカ。こういう所は子供っぽいままなんだよなぁ。

「そうだなぁ…現実での恋愛なぁ…」

嫌な思い出を思い出してしまうが、まぁ今はいいか…と思いながら溜息をついた。


結局、俺の逆レ事件は騒ぎになることなく処理された。ここは爺さんの力が絡んでいるのもあるだろうが詳しい事は聞かせてもらえなかった。その日の授業が終わり帰ろうとしたら、いつもの事だがミカが右側にぴっとりとくっついてきたのだが今日はエリスちゃんが俺を挟むように左側に密着してきた。

「それでは帰りましょう、シロウ」

「お、おお?阿久根の家に帰るんじゃないのか?」

「何を言っているのですか。私はシロウの婚約者です。当然、寝食を共にします」

…あぁ?俺の家で一緒に暮らすつもりか?!

「当然です。この身はシロウに捧げました。いついかなる時も離れません」

そんなエリスちゃんの言葉に、ミカがぷるぷると震えている。

「し…しんしょく…しんしょくを、ともに…寝食を共に?!だ、ダメー!だめだめだめだめ!そんなの絶対、だめなんだからー!!」

ビエエエエエエッと泣くミカを宥めるが、私もシロウちゃんと同じ部屋で寝るぅ、背中流したり同じ布団でねてぬくたいぬくたいしてもらうぅぅぅ、と泣くものだからクラスの皆にからかわれてしまった。

…どうするかなぁ、というか源一郎爺さんにどう説明するかなぁ。ああぁ、本当にどうしてこんな事になったんだろう。なんだか大変な事に巻き込まれてしまったなぁ…と頭が痛くなる。阿久根の爺さんが言っていたのは今日みたいなことだろう。あんな風に綺麗な女の子たちが俺の童貞を狙ってくるのだろう…だが、ただひとつ言えることは、俺は童貞を捨てるつもりはない、ということだ。リアルなんてごめんだ。どうかどうか、俺の静かで平穏な二次元ライフが戻ってくることを祈りながら、これからの日々を思い遠い目で空を眺めるしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺との子作りで5,000兆円!?そんな俺を逆NTRれたくない幼馴染VS婚約者VS美少女達の話 サドガワイツキ @sadogawa_ituki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ