金色の肌をもつ選ばれし人間

ちびまるフォイ

ゴールド・エクスペリエンス(金色体験)

肌が金色に輝いている人がはじめてテレビで報道された。


『どうして金色になったんですか?』


『家の庭にあった石に触ったらこうなったんですよ。

 医者がいうにはウイルスらしいんですけどね。

 外に出ても目立つから困ったもんですよ。はっはっは』


金色に輝く人間の最初の印象は気持ち悪い、だった。


金色の肌にふれると触れた人にも感染し

同じように金色の肌になるため金色人種は爆発的に増えていった。


そして自分にも。


「その肌いったいどうしたんだよ……」


友達は別人を見るような目で自分を見ていた。

その瞳の奥に金色に光る自分が映っている。


「わからない……なんかこうなってた」


「"ゴールド"に触ったのか?」


「いや……」


あとになって調べてわかったが、

金色の肌の人間である"ゴールド"たちの触ったものに触れると、

表面に付着していたウイルスの一部がまれに感染することがあるらしい。


学校につくと金色でギラつく自分はみんなの注目の的。


「その肌どうしたの!?」

「すげーー! 金色じゃん!」


まだうちの学校には金色の肌の人はいなかった。

自分が第一人者ということで教室は他クラスからの人も押し寄せるほど。


まるで自分が芸能人にでもなったみたいだ。


「なあ、触らせてよ」

「私もゴールドにさせて!」

「いいだろ。減るもんじゃないし」


「や、やめろ! さわるな! しっしっ!」


「ええーー……ケチ」


自分の肌に触れようとする人間はとくに遠ざけた。


せっかく金色の肌を手に入れたのに、

それが広まってしまえば自分の希少価値がさがってしまう。


それからというもの、諦め切れずに触ろうとしてくる人や

自分の触れたものを回収してはおこぼれ感染をたくらむ人が後を絶たなかった。


ひどいときには、集団でまちぶせして押し倒して

強引に肌に触れようとする人もいた。


「まったく……。いやしい"ノンゴールド"どもはこれだから……!」


最初こそちやほやされることに嬉しかったものの、

目をらんらんとさせて迫ってくるさまにうんざりしはじめた。


圧が強めの物乞いに迫られてるような気持ちになった。



誰にも肌を触らせないまま数日がすぎると、

見知らぬ人から自分に通知が届いた。


『ゴールド集会のお知らせ


 あなたが選ばれたゴールドの肌を持つ人と聞きました。

 

 つきましては我々ゴールドだけの集会を開き

 お互いの結束を深めていきましょう』



選ばれた、という言葉に弱い自分はすぐに集会への参加を決めた。

会場につくと金色に肌を光らせた人しかいなかった。


「やあ、よく来てくれたね。今日は楽しんでいくといい」


「自分以外にもこんなに"ゴールド"がいると思わなかったです」


「みんな苦労しているのさ。礼儀もしらない"ノンゴールド"に

 肌を触らせろと迫られ続けて、いつも気が休まらない」


「めっちゃわかります……!」


「君も今日くらいは人目を気にせず、選ばれた人間たちの高貴な時間を過ごしてくれ」


「ありがとうございます!」


集会では"ノンゴールド"への愚痴が大半だった。


自分以外の人もみんな同じ苦労をしてるんだなと思うと、

なんだか他人事には感じず、まるで戦友のような結束がうまれた。


最後には"ゴールド"同士で手をつないでウイルスをわけあった。


「「「 選ばれた"ゴールド"に永久の繁栄を!! 」」」


集会はそうして締めくくられた。



それから数日後のこと。

顔を洗って鏡をみたときの自分に驚いた。


「き……金色が……落ちてる……!?」


昨日までビカビカに光っていたはずの肌が、

もとの肌の色に近づき始めていた。


「どうしよう、このままじゃ"ゴールド"を維持できない。

 学校のやつらと同等までに堕ちるなんて……!」


向かった先は病院だった。

まずは原因をたしかめようと思った。


「せ、先生! 俺の"ゴールド"が! "ゴールド"が剥がれてるんです!」


「まあまあ落ち着いて。自然なことですよ」


「自然……?」


「金色に肌が輝いて見えるのはウイルスによる発光現象です。

 でも人間には免疫システムがあるから、じきに自然治癒するんです」


「はあ!?」


「つまり、あなたの体はウイルスを克服しはじめてるんです」


「そんなのいりません! もとの色にしてください!!」


「それはできませんよ」


「じゃあせめて進行を送らせてください!」


「あなたが生命活動を続けているかぎり、金色は自動的に落ちていきます。自然なことなんです」


ワラにもすがる思いだったのに、医者から突きつけられた現実は非情そのものだった。


自分の自然治癒を遅らせようと生活を変えても効果は薄い。

じわじわと自分のブランド力が失われる恐怖が迫り始めた。


「そっ……そうだ! ウイルスを再感染させれば変わるかもしれない!」


思い出したのはかつて参加した"ゴールド"だけの集会。

集会の最後にはみんなで手をつないでいた。


あれで再感染できればまた"ゴールド"になれるかもしれない。


集会の場所へいくと屈強なガードマンが立ちふさがった。


「あなたは入れません」


「なんでだよ! 俺だってちゃんと"ゴールド"だろ!?」


「いいえ、あなたは"純ゴールド"ではない」


「なんだよそれ!?」


「下品な"ノンゴールド"が"ゴールド"に憧れ、

 触ったものに間接的に触れてゴールドになる"劣化ゴールド"それがあなたです」


「証拠なんか……ないじゃないか!」


「間接感染すると"ゴールド"が落ちるのが早い。

 あなたの剥げかかった肌の色がなによりの証拠です」


「そんな……!」


「浅ましい"ノンゴールド"は立ち入りできません。お引取りを」


「いやだ!! 俺は"ゴールド"だ! 会員証だってある!! 中にいれろーー!!」


力づくで中に集会に参加しようとすると、

それよりもずっと強い力で持ち上げられて外へ放り出された。


地面に転がった自分を"ゴールド"はもちろん、"ノンゴールド"すら助けちゃくれなかった。

くすんだ金色の肌をもつ自分には誰も見向きもしなかった。


「くそ……なんでこんな目に……」


立ち上がろうとすると、金色の手がさしのべられた。


「大丈夫ですか?」


「え……あなたは? さ、触っていいんですか?」


「ええ」


自分が触るよりも早く、その手で自分を持ち上げてくれた。

握られた手を通してウイルスが自分の肌をふたたび金色にしていく。


「いいんですか? "ゴールド"がそんなに肌を安売りしちゃって……」


「ええ。人にウイルスを渡したほうが治りが早くなるんです」


自分を助けてくれた人の肌はじょじょにもとの色になっていった。


「ありがとうござます。なんてお礼を言えばいいか……!」


「お礼なんていいです。私はただ金色を渡したかっただけです」


「どうして? せっかくの特権なのに」


「普通が一番だって気づいたんですよ。それじゃ失礼します」


最後に金色のウイルスを渡してくれたあと、名前も語らずに去ってしまった。


話していたことには少しも同意できなかったが

ともあれ自分がまた"ゴールド"に戻れたので本当によかった。


「ようし、これでさっきのガードマンに目にもの見せてやる!」


金色を見せつけるように街を練り歩いていると、

"ノンゴールド"のときに友達だった男がいた。


「よお、これから集会に参加するのか?」


「へえ"ゴールド"のことに詳しいんだな」


「ずっとその集会に参加したくてね」


その言葉を聞いただけでその先の要求に察しがついた。


「おいおい。肌には絶対に触らせないからな!!

 人にうつすとますます治りが早くなっちゃうんだから!」


「知ってるよ」


「え……? "ノンゴールド"なのに知ってるのか。すごいな」


「ずっと調べたからな。どうすれば"ゴールド"になれるのか。

 そしてそれをどうすればキープできるのかも」


「キープする方法……知ってるのか!?」


「知りたい?」


「当たり前だろ! このままじゃ自然と色落ちしちゃうんだから!」


「それはーー……」


友達は嬉しそうに笑った。






数日後。"ゴールド"だけの集会がまた開催された。


「みなさん、今日は新しいメンバーを紹介します!

 選ばれた我々に新たな仲間の誕生にせいだいな拍手を!!」


会場はめいっぱいの拍手につつまれれた。

ステージには新メンバーが壇上にあがった。


「"ゴールド"は誰からもらったか聞いていいかな?」


「はい、以前にこの集会にも来ていた"ゴールド"の友人がいて、その人からもらいました」


「それは最高だ。選ばれた人間が選ばれた人間を目利きし、集めていく。

 これこそ理想のコミュニティだよ!」


「こうして"ゴールド"の一員になれて光栄です!

 これからよろしくおねがいします!!」


ふたたび拍手につつまれた。

ステージから降りるとき、その背中をみて声をかけた。


「ちょっといいかな?」


「はい?」


「肌にチャックがあるようだけど……」


そう聞かれて友達はまた笑った。



「ええ、友達からもらったんです♪」

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