第3話 満月と猫
私達は雑談めいた集会を終えるとそれぞれ思い思いの場所へ散りました。私もまた同じように路地から出ていきます。しばらく移動をすると絶好の昼寝スポットに到着します。主人の家の屋根です。外にここに来るのは鳥ぐらいしかいないので邪魔をされることはないのです。また、この周辺のたてものはヒラヤと呼ばれる小さいものだけなので日当たりも良好です。やっぱり私のお気に入りの昼寝場所はここですね。んっんんんんあぁぁ~~。それではおやすみなさい。
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あれ、ここは……?これは夢の中でしょうか。周りを見ると商店街の近くのようですが、いつもと様子が違いますね。建物が綺麗ですね。おや、あれは?辛そうな黒猫がいます。体の汚れがひどいので拭き取ってあげたいのですがなぜか触れません。それどころか私が目の前にいるのに気づいた様子もないです。もしかすると、これは……昔の私かも、しれませんね…………。もう少し綺麗ではいたつもりですが……こんなひどい様子だったのですね。怪我もしてやせ細っているので痛々しいです。これが2年前のあの日だとするときっと野良犬に襲われて逃げ切ったところでしょう。
「はあ。お腹が空いたなあ」
私、いや、彼はそう言い足を引き摺り歩き始めました。
周囲の家には明かりが灯っているので7時位なのでしょう。夕飯時の良い匂いを察知したのでしょう。彼はフラフラと走り始めました。そして車道に出ると同時に木材や鉄パイプを積んだ軽トラックが交差点から飛び出してきました。
「危ない!」
どこか聞き覚えのある声が響きました。彼は道路に身を投げ出した一人の男に抱きしめられ助けられました。
「あいててて。大丈夫ですか、お嬢さん」
痛みを我慢して微笑んだのは主人でした。性別を間違えられたのには腹が立ちますがあの格好良さには憧れますね。
「首輪は……してないか。野良猫かなぁ。よく見たら怪我もしてるし。とりあえず怪我が治るまで家で飼おうかな。名前でも付けるか。そうだな……月が綺麗だし…………ルナなんてどうだ」
「ニャー」
「ハハ。喜んでもらえてよかったよ」
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んにゃーおぉぉ。ふう、よく寝ましたね。何だか懐かしい夢を見ました。辺りはすっかり夜の帳が降りています。家に帰りますか。
私専用になっている開き戸から中に入りましたがやはりと言うべきか、人の気配はしませんね。薄暗い部屋の中は静寂が支配しています。
主人はすぐ帰ると言った日は必ずと言っていいほど遅くに帰ってきます。ザンギョウをジョウシに押し付けられたと酒を呑みつつ愚痴をこぼしていました。本当にしょうがない人です。主人が帰ってくるのを待つことにしましょう。お腹も空いていますがきっと帰ってすぐにご飯をくれるでしょう。
窓から夜空を見上げるとそこにはあの日と同じ大きな満月が輝いていました。
𝑻𝒉𝒂𝒏𝒌𝒔
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猫物語 正体不明 @ToraJii
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