第5話 きん

 有田は魔法学院をやめた。

 確かな情報はなく、噂が噂を呼んだが、新しい生活に追われて騒ぎは風化する。そんな頃、駿河するがヒナが専攻教室へクリスタルを発動させたまま、飛び込んだ。


「これ見て!!」


 浮かぶ映像は歌舞姫かぶきの新しい部屋子へやご特集だった。

 歌舞音曲の創生と継承、融合を掲げる男子禁制の総合芸術、歌舞姫。伝統を絶やさないために今は年一度、門下生を広く募集する。その選抜で部屋子を勝ち取った者は春の一時、話題をさらうのだ。

 注視に慣れた少女達が艶やかに、清やかに360度の視線を把握して取材に応じている。

 その他大勢の少女達の中に有田は映っていた。乳白色の肌に深い藍の瞳、花やぐ唇の紅。この二年、魔法学院で生徒を虜にした容貌が選抜された歌舞姫候補生の中、一瞬、映され消える。

 只、有田は髪を金に変えていた。それはまだ彼女となじまず、俺には心許ない。


 ――いや、知ったことか。俺に一言もなく華やかな世界を選んだ有田なんか。こっちは進路だって……。


 しかし、俺は昼休み、二年ぶりに有田からの着信をクリスタルに見つけた。


『一位君、新生活はどう? 私は歌舞姫を目指すことにしました。二年前は試験を受けるなんて考えられなかった私にこの道をくれたのは一位君です。有難う。

 ずっと歌舞姫が夢で、でも、言えなくて。一位君の魔法で踏み出せた私は自力で勝負してないから自信がなかったの。ごめんね。でも、これから自分で歌舞姫を目指します。この髪はそのあかしです。一位君のくれた色の方がずっときれいだけど、私は全部が一位君の力でなく戦ってみる。

 でも、一位君が装飾士になった時、また私を応援してくれますか? 私、もっと輝いて一位君に魔法をかけたい、と思わせてみせるよ』


 歌舞姫で稀に認められる男性スタッフになるには魔法学院の専攻首席でも足りないのに簡単に言う。でも、俺は有田に魔法を請われて横に並ぶ未来を願ってしまったんだ。


<了>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女には煌めきの魔法を 小余綾香 @koyurugi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ