第4話訪れた幸せ

肩をとんとんと軽く叩かれ、座っていた僕はその叩かれた方を見上げる。


「お昼ですよ、食べに行きましょう」


そう言って西田さんがニコッと笑う。


「えぇ、また誘うの〜」


と、奥から冗談じみた嫌がる声が聞こえ、加藤さんがやってきた。


「いいじゃないですか、友達ですよ」


「まぁ春ちゃんがいるならそれでいいやぁ」


加藤さんは仕方なそうに、うんうんと頷きながらそう言う。


「じゃあ行きましょう」


「うん」


そして、僕たち三人はそれぞれ弁当を持って屋上へ行った。


右から順に加藤さん、西田さん、僕の並びで屋上のベンチに座り、弁当箱を開ける。


「あっ、今日唐揚げだぁ、しかもマヨ付き!」


と、声を上げて喜ぶ加藤さん。


「あ、私も唐揚げです!」


続いて同じように西田さんが声を上げ、二人は「いえぇい!」と声を揃えて言いながら、お互いの両手をピッタリとくっつける。

その様子を穏やかな表情を浮かべて眺めていた僕は、自分の膝の上にあるコンビニ袋に入ったおにぎりを取り出す。


「えっ、またコンビニなのぉ?」


加藤さんは僕の膝の上のコンビニ袋を軽く覗き込んで尋ねる。


「まあ親が仕事で忙しいからね」


「ふぅん」


と、彼女はごく普通な反応をした。


「それよりさぁ、あの三人退学になって良かったよねほんと」


「まっ、まあ」


少しさり気なさそうに笑みを浮かべ、西田さんは控えめに首を縦に振った。


そう、一週間ほど前にあのいじめ屋の三人は学校外で警察沙汰になる問題を起こし、退学処分を受けたのだ。

これは本当にラッキーだった。

クラス内は賑やかな雰囲気で溢れるようになり、とても居心地のよい空間へと変わった。

僕も前とは違って肩の力が抜けて、とても気楽に学校生活を送れるようになった。

そして今のように西田さんにも女子友達ができた。


とても幸せだった。

そしていつしか気づいた。

僕は西田さんが好きなのだと、恋をしているのだと。

僕があの時もう一度西田さんを幸せにしたいと強く思ったのも、恋をしていたからなんだと納得がいった。


でも、まだ告白するのは辞めておこう。

今のこの幸せを、ゆったりと西田さんには味わって欲しい、噛み締めて欲しい。

そしてこの僕も、この西田さんの明るい笑顔をもう少し見ていたかった。


西田さん、良かったね、本当に良かったね。

もう皆んなは西田さんを除け者になんかしないよ。

困って悩んだ時も、皆が西田さんの味方だよ。


僕は隣にいる彼女に、そう心で話しかけた。

そして最後に雲ひとつない真っ青な空を見上げ、


この先も西田さんに、幸せな青春が訪れますようにと、目を瞑って神様に祈った。

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幸せな青春が訪れるように ひろ @tomihiro_0501

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