墓守りの腕時計
西しまこ
第1話
その少年は墓守りの役目を受け継いだ。
黄色い砂地に幾つもの土の盛り上がりがあり、粗末な木切れが立てられていた。その一つ一つに、同族の魂が眠っているのだ。
広い広い、何もない砂地。
緑の森は遠方にあり、ほんとうに寂しい場所だった。ただ、墓のためにある場所。
少年は墓のそばの小さな小屋に一人で住んでいた。代々、墓守りが住んでいた場所だ。ベッド以外小さな机とイスがあるだけの粗末な家だった。
そんな墓守りの家に、一つだけきらきらと金色に輝くものがあった。
それは金の腕時計だった。
少年はそれを家の中で一番陽の当たる窓際に置いた。そうすることで、その時計が一番美しく見えたから。時計はもう動いていなかったけれど、その煌めきがこころを癒してくれていた。寂しいこの地で。
墓守りの仕事は、墓を掃除して、花を添えることだった。
花は森へ探しに行った。
森までは時間がかかったが、少年は毎朝必ず行った。そうして、籠いっぱいの花を背負って戻り墓に行き、花を添えた。一つずつ、丁寧に。森のどの場所にどんな花が、いつごろ咲くか、少年は既に熟知していた。
今日も花を添えながら、少年は先代の墓守りのことを思い出していた。先代の墓守りは壮年の男性で、しばらくいっしょに暮していた。そして、少年に墓守りの仕事を教えたのち、森に行くと言っていなくなってしまった。そうして、墓が一つ増え、少年は自分が墓守りになったことを知ったのだった。
ふと、ある一つの墓が目に入った。
木切れが揺れ、地面に亀裂が入り始めた。
少年は驚いて、その様を見つめた。
木切れが完全に倒れ、地面に空いた穴からは眩しい光が出て、そしてそれは球体の形をとり、天へ上った。光の球体はしばらく宙に浮かんでいたのち、少年の家へと光の尾を伸ばしながら飛んで行った。
少年が家に帰ると、ベッドには男の子が眠っていた。
強い光を感じて窓の方を見やると、腕時計が光を放ちながら針をぐるぐると回していた。
墓守りは突然理解した。
墓守りの役目に就いて、もうずいぶん永い年月が経ったことを。永久に回っているかと思われた時計も、ふいに動きを止めた。墓守りの少年は大人の男になっていた。そうして、腕時計を手首にはめた。そうするのが正しいと思えたから。金色の腕時計は、腕にはめると今度はゆっくりと動き始めた。
そうか。
この針が止まるときが、墓守りの役目を終えるときなのだ。
そうして、ベッドのあの少年が次の墓守りとなる――
墓守りの腕時計 西しまこ @nishi-shima
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