第54話 英雄ドラゴン
アンジェリカの寝室。僕はベッドの端に座ったアンジェリカに抱っこされていた。アンジェリカは、淡いピンクのネグリジェ姿で、そのうっすらと透けるほど薄い布地を通して、アンジェリカのぷにぷにとした弾力のある肌や、ほんのりと彼女の体温が伝わって、とても心地が良い。このまま眠ってしまいたいくらいだ。
「今日はいろんなことがありましたね」
「クー!」
僕はアンジェリカに頷いて鳴く。アンジェリカの言うように、今日はとてもいろんなことがあった。なんといっても、今日一番のイベントは、僕の狩りデビューだろう。パパママドラゴンにワープさせられて、僕はたくさんの果物を採取したり、大きな怪獣を狩ってきた。
まだ猫程のサイズしかない赤ちゃんドラゴンである僕に狩りをさせるなんて、初めはパパママドラゴンの正気を疑うほど驚いたけど、一度ティラノサウスのような恐竜に襲われて、別の意味で驚かされた。
どうやらこの神龍の体は、僕の想像以上に強いらしい。
自分の何倍も大きい恐竜に噛まれても傷一つ付かなかったし、今日会得したドラゴンブレス改で一撃で恐竜たちを倒すことができた。
狩るか狩られるか怯える弱肉強食の世界から、ある種の簡単なシューティングゲームに変わってしまったのだ。調子に乗って9体も怪獣を仕留めてしまったほど、僕は無敵で最強だった。
「あんなにたくさんの大きなモンスターを倒してしまうなんて、ルーはとっても強かったのですね」
「ククー!」
アンジェリカが頭をよしよしと撫でてくれるので、僕は今日もご機嫌だ。とんでもない美少女のお膝の上でよしよしされるとか、前世では考えられなかったなぁ。転生万歳!
僕が狩りから戻ってきた後、パパママドラゴンのなんでも収納できる便利魔法で持ち帰った果物や獲物は、中庭へと所狭しと並べられた。一部のメイドさんが悲鳴を上げて驚いていたっけ。
「ほぅ……それにしても今日の夕食は美味しかったですね……」
アンジェリカが目尻を下げて蕩けきった表情で言う。その無防備な美しい顔に、僕はなぜかとても大きな嬉しさが込み上げてくるのを感じた。
持ち帰った果物や恐竜は、夕食にアンジェリカたちと美味しくいただいた。人間の作った料理にパパドラゴンとママドラゴンもご満悦の様子だった。
今まで離宮で食べた料理もおいしかったけど、今日は格別に美味しかった。なんて言えばいいのか……今まで海外産の安い牛肉を使っていたのに、今日は国産黒毛和牛を使ったような……素材からしてレベルアップしているような感じだ。今日僕が仕留めたあの恐竜たちは、その見た目からは想像できないくらい、とても美味しいらしい。
「特にあの果物……。この世の物とは思えないほど美味でした……」
「ルー……」
僕も蕩けきったアンジェリカの言葉に頷く。恐竜の肉もおいしかったけど、果物も美味しかった。アンジェリカは果物が一番気に入ったらしい。これは次回も果物を採ってこないとだね。
パパドラゴンは大蛇、ママドラゴンはイノシシがそれぞれ好みのようだった。それはもうニッコニコで食べていた。よほど人間の料理が気に入ったのかな? もしくは、二柱にとって子どもである僕が初めて狩った獲物というのも最高のスパイスだったのかもしれない。
「お父様もルーの贈り物にとても喜んでいるようですよ」
アンジェリカのパパ。国王であるランベルトも僕の贈り物に喜んでくれたらしい。王様にはいつもお世話になっているからね。今日もまたパパママドラゴンが無茶ブリしちゃって困らせちゃったし、少しでも喜んでくれたらいいな。
「明日改めてお礼参りをなさるようですよ」
そう微笑んで僕の頭を撫でるアンジェリカ。
律儀な王様だなー。王様なんだからもっと偉そうにしててもいいのに。そう思うくらい腰が低く、フットワークが軽い王様だったな。
僕はアンジェリカに抱っこされたまま、一緒にベッドに横になった。メイドさんが明かりを消して、暗くなった天蓋の中、アンジェリカの温もりを背中に感じた。
「そういえば、ルーはもう聞きましたか?」
「ルー?」
僕はアンジェリカの顔を見上げて、首をコテンと傾ける。未だ慎ましい双丘の向こうに、美しい青の瞳が優しく僕を見ていた。いったい何の話だろう?
「まだ一部の者しかしらないことなのですが、国名が変わるようですよ?」
「ルー?」
国名が変わる? なんでそんなことに?
「新しい国名は、『神聖ルシウス神国』ですって」
「クァ~……」
えー……。新しい国名は、なぜか僕の名前が前面に出た、怪しい宗教団体のような国名だった。なんでこんなことに……?
いや、原因は分かっている。ママドラゴンだ。ママドラゴンがこの国を僕に献上させたからだ。
でも、なんで僕の名前が国名にこんなにデカデカと入ってるんだよ。恥ずかしくて死ぬわ! 元のブリオスタ王国でいいじゃないか。
「ルー?」
そういえば、アンジェリカに不満は無いのだろうか?
国名もブリオスタ王国から変わっちゃうし、国王の座も僕の一存で変わってしまう不確かなものになってしまった。間違いなく王家への求心力は落ちるだろう。僕にその気はないけど、王家の娘であるアンジェリカの立場も不確かなものになってしまったはずだ。そのことに不満は無いのだろうか?
「国名が変わることが不思議ですか? あなたはそれだけのことを成したのですよ」
「ウー……」
正直、僕はなにもやっていない。やったのは全てママドラゴンだと思う。
「ルー、あなたがわたくしの召喚に応じてくれなければ、この国に留まることを決めてくれなければ、わたくしたちは亡国の憂き目に遭っていたでしょう。わたくしたちがこうして怯えず暮らせているのも、全てあなたのおかげです。あなたがわたくしたちの運命を変えてくれました」
「クー……」
僕はそんな大したことはしていない。ただ、このハーレムといっても過言ではない優しい空間に入り浸っていたかっただけだ。全ては下心なのだ。なんだかアンジェリカに大袈裟に褒められて、変な気持ちがする。
「ありがとうございます、わたくしの小さな英雄さん」
そう言って、アンジェリカは僕の額に軽くキスをするのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
活動報告にちょっとえっちなSSを投稿しています。
もしよろしければ見ていただけると嬉しいです。
https://kakuyomu.jp/users/ieis/news/16817330666241294788
https://kakuyomu.jp/users/ieis/news/16817330666771633781
召喚に応じたらハーレムができた件~ドラゴンに転生した僕の甘々甘やかされ生活~ くーねるでぶる(戒め) @ieis
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます