第5話「現場待機と先生」

いよいよ、天体観測当日……っと言っても、まだ夜にもなってない午前11時……

舞ねえは弁当作りで忙しいし未央はその手伝いをしている。

料理の事は戦力すらならない俺はこうして商店街をぶらつくのであった。

追加で欲しい物があったらすぐ買える状態……言わば現場待機と言う奴だ。

俺ながら素晴らしいアイディアである。

未央が居たら「ただ、ブラブラしてるだけじゃん」とツッコミが入るだろうが居ないので気にしないで商店街をうろついているのだが……


「暇だ……」


そう小さく呟くぐらいにぶらついてるのである。

ゲームセンターに行くことも考えたのだが現場待機をしてる以上無駄な消費は避けたいのだ。

さて、どうしようか……


「駿一君、どうかしましたか?」

「ん?」


振り返ると舞ねえの担任である大久保先生が声をかけてきた。

両手に荷物を抱えてて重そうだ。


「先生、こんにちわ」

「こんにちわ、それで駿一君は何をしているんですか?」

「今夜に備えて追加の買出しに行けるように待機してます」

「あぁ、それでここに居たのですか」


先生は納得したように頷く、一応天文部の顧問なのだが少しバツが悪そうな表情を浮かべる。


「本当ならば顧問として私も居れたらよかったのですけどね」

「いえ、ただでさえ舞ねえの事もありますので恐れ多いですよ」

「そっちは大丈夫ですよ?ただ、今日はやる事が残ってますから」


両手の荷物を持ち上げて少し、疲れたように笑う

学生にとっては休みなのに大変だな教師って……

さすがに、何も手伝わないのは心苦しいし……


「先生、手伝いますよ」

「いえいえ、大丈夫ですよ?これぐらいなら……あ、ちょっと!」


遠慮してきたので少し強引に両手の荷物を奪った。

これは俺でも少し重いなぁ


「もう、強引過ぎますよ?駿一君」

「さすがに両手に荷物を持ったまま何もしなかったら舞ねえにも怒られてしまうので」

「舞夏ちゃんは今ここには居ないですよ?」

「学校まで運べばいいんですよね?」

「質問に別の質問で返しちゃ駄目です……ってもう……」


大きなため息をつき諦めたようだ。


「学校に持っていきますね」

「あ、ちょっと待ってください、少し早いですが、お昼にしましょう」


俺は頷き、先生の後についていくと1件の喫茶店があった。

この喫茶店はよく舞ねえと未央一緒に行く喫茶店『篠崎こうひぃ』だ。


「いらっしゃいませー!」

「いらっしゃい……」


カランコロンと扉のベルが鳴り響いた後に店長の光司さんと奥さんの雛さんが挨拶をする。


「あらあら、いつもなら舞夏ちゃんとなのに珍しい組み合わせだねー」


舞ねえと一緒に来ていたらしく雛さんとは顔見知りだったみたいだ。


「えぇ、偶然会いまして私の荷物を持ってくれたのでお礼にと」

「駿一ちゃんは優しいねぇ」

「舞ねえが世話になっていますからね」

「えらいえらい!」

「いや、頭を撫でられるような歳じゃ……ちょ、ちょっと雛さん!」


まるで小さな子供を褒めるように撫でて来る雛さん

俺は嫌がりはするがさすがに手を払う事は出来ない……


「ひぃ、席に案内して」

「はーい、こっちに座ってー」

「駿一君すまないな」

「いえ、ありがとうございます……」


助けてくれた光司さんに一言感謝しつつ、雛さんに席を案内される。水を置いてメニュー表を渡すが何故か戻らない……


「あ、あの……雛さん?」

「ん?注文はもう決まっているの?駿一ちゃん」

「いや、ずっとここにいてもいいんですか?」

「いいのよー、まだ開いたばっかりで誰も来てないから」

「いやでも、準備とか……」

「こう君がやってくれてるし」


厨房の前に立って準備している光司さんに目を向けると少し苦笑いをしている。


「もう、先輩は相変わらずなんですから」

「ゆっちゃんは真面目すぎー」

「え……?」


先輩?ふと本来、先生からあまり聞こえてくるはずのない単語に大げさに反応してしまった。


「先輩?」

「あ、駿一君には言った事はありませんでしたね」

「ゆっちゃんと私は高校の先輩と後輩なんだよ」

「そうですね、それと光司兄さんは私の従兄妹です。」

「そうだったんですね……」

「とは言ってもお二人がここで喫茶店を営んでるのを知ったのは去年ですけどね」

「そうそう、舞夏ちゃんと一緒にここに来た時は驚いたよー」

「私もですよ、喫茶店を開いていたのは聞いていましたが、まさかこんな近くあるとは思いもしませんでした」

「ゆっちゃんだって教師やってたのは教えてくれたけど、どこで教師をしてるかは教えてくれなかったでしょぉ?」

「それはまだ赴任したばかりで……」


二人だけの会話が続いていく……舞ねえと未央の時もそうだったが、女の人ってどうしてこんなに会話が続くのだろうか?

話が終わるのを待っていると先生が視線に気づき会話を止めた。


「あ、ごめんなさい駿一君、話に夢中になっちゃって……」

「ごめんねぇ、メニュー決まった?」


先生は少しメニュー表を見て


「先輩、私はミートスパゲッティで」

「俺はサンドイッチで」

「ドリンクは~?」

「アイスコーヒー」

「私も同じのでお願いします」

「ミートスパゲッティとサンドイッチ……後アイスコーヒーっと、こうく~ん!」

「ああ、わかった」


注文を聞いた光司さんは早速調理に取り掛かった。


「それじゃ、待っててねー」


足取り軽く調理場に行く雛さんを見送るとずっと鳴っていたはずだった緩やかな喫茶店で流れてそうなBGMが流れていく……

それ程に騒がしかったと言うべきかな……?


「そう言えば、駿一君 少し聞きたい事があるのですが……」

「聞きたい事……?」


また、舞ねえがやらかしたのだろうか?


「まさか、また……」

「いえ、違いますよ?でも、舞夏ちゃんの事ではありますが……んー……」

「?」


なんだろうか?いつもなら割とはっきり言うのに……?


「そうですね……駿一君は舞夏ちゃんの進路は聞いていますか?」

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