第4話『買い物と友人』

 天体観測まで後1日となった放課後

 舞ねえは今日も補習らしく、天文部に行ってもしょうがないので俺は帰ろうとしていたのだが……

「先輩、ちょっと待って!」


 聞きなれた声と同時に聞きなれない単語に苦笑しつつも俺は振り返る。

 そこには後輩であり、幼馴染の未央が立っていた。

 まだ人も居るから『先輩』と呼んだのだろうが、違和感でしかない


「どうしたんだ?未央」

「おにい……じゃない……先輩に買い物を手伝って貰おうかなって」


 言い慣れてないのなら無理に言わなきゃいいのにな

 チラッと残っているクラスメイト達を見ていると微笑ましい笑顔で見てる人達が多い

 微笑ましく見ているのは比率的に女子8割男子2割と言った所か……?

 残りの感情は男子からの嫉妬がほとんどなので、どれくらい居るかは言わないでおく


「昨日、手伝っただろ?謎の少女漫画と一緒に」

「謎って何よ、あれ面白いよ?」

「面白いって……あれが?」


 頼まれた少女漫画はあまりにも気になるタイトルだったので検索をして試し読み版があったので読んで見たが舞ねえのは王道的な少女漫画みたいな感じだった。

 しかし、未央のは……なんだあれは?

 お嬢様が対戦車ロケットで悪霊となった友人や家族を除霊?しかも失敗してる?異世界から来た貴公子が金沢で観光しながら嫁を探す?カオス過ぎる……


「ってそんな事やってる場合じゃなかった いいから、手伝って!」

「ちょ、お、おい!」


 腕を引っ張られながら俺は学校を後にするのだった。



「……予測は出来たけど荷物持ちか」


 いつも通っている商店街で俺は片手には買い物バッグを握っている。

 片手だけでもかなりの量なのだがまだ買うつもりらしい


「野菜の次は……肉買いに行かなきゃ」

「なぁ、どんだけ買うんだ?結構重いぞ?」

「これでもかなーーーーり減らした方だよ?見る?最初に送信された買い物リスト」


 未央のスマホを見るとおぞましい数と量の品々が……


「……食堂でも開くのか?」

「そう思うよね?かなーーーーーり減らした方でしょ?」

「そうだな、減らしてる方だ」

「苦労したよー?お姉ちゃんに確認とってからおばさんに連絡して冷蔵庫の確認して買うもの決めてたけどお姉ちゃんがただこね始めて……」

「いや、なんだ……すまん……苦労かけたな……」

「いつもの事だけど……さすがに今回はかなり張り切ってるみたいだね……張り切りすぎだけど」


 そう、今回は張り切りすぎている。

 ただ、張り切りすぎる理由はなんとなく察しはつく……

 言葉にすれば良いのか迷ったが言わないのは卑怯だから言う事にした。


「……こうやって3人で一緒に居られるのが最後かもしれないからな」

「あ……」


 未央は俺の言葉を聞いた途端、少し表情を曇らせた。

 舞ねえが進学か就職は分からないがこっから先はもう一緒に過ごす時間はほとんど無くなるかもしれない。

 俺は何をやりたいかは別として進学希望だし、未央も恐らく進学をするだろう……

 ただし、自分達が向かう先は同じとは限らない……

 だから舞ねえはこの天体観測を考えついたのかもしれない。


「そっか……そう、だよね……いつも一緒だったからずっとこのままなのかなって思ってた」

「そうだな」


 俺と未央は沈黙してしまった。

 こんな空気で何を話せばいいか分からないし、未央も同じ考えだろう


「あれ?朝川と未央ちゃん、どうしたんだ?」


 聞き覚えのある声に振り返ってみるとそこには七海がいた。

 この空気には正直耐えられそうになかったからありがたい


「明日のための準備だよ」


 俺は持っている袋を揺らしてアピールする。


「あぁ、天体観測の」

「そうゆうこった」

「ところで先輩はどうしてここに?」

「図書館で勉強していたんだ、終わったから帰る途中で二人を見かけたから声をかけたんだ」

「図書館に行ってまで勉強とはご苦労なこった」

「もう、お兄ちゃんはもっと勉強しなきゃダメだよ?いっつも試験前に項垂れるんだから……」

「くっ……」

「ははは、オレは勉強しか取り柄がないからね、逆に言えばオレは朝川がうらやましいよ」

「安易にバカって言われてるような感じがするんだが?」

「そうゆう部分じゃない所でうらやましいだけだよ」

「どのへんだよ?」

「それは……」


 七海は俺と未央を見てから首を振った。

 なんなのだろうか?


「いや、内緒にしておくよ」

「なんだよ内緒って……やっぱバカにされてるにしか思えないんだが?」

「そんな事はないって」

「先輩、もっと言っちゃっても良いんだよ?たまには自力で勉強しろって」

「未央、お前なぁ……」

「まぁまぁ、未央ちゃん、そんな事思ってもいないし言っちゃダメだよ?」

「未央、気づいてないかもしれないが、呼び方変えてないぞ?」

「え……あ!あ、あのその……」


 未央は俺の指摘に気づき慌てて取り繕うとする。


「いいよいいよ、もう放課後で学校に居ないのだから無理に取り繕うとしなくても」

「で、でも……」

「それにもう……」

「朝川、ストップ」


 もうすでにバレている事を教えてやろうとしたのに俺は七海に止められる。


「いやでもな……」

「?」


 七海は今度は何も言わず首を振る。

 あまり、いじめてやるなと目で訴えているようだ。

 俺は大きくため息をついてやれやれと腕を上げてこれ以上言うのを諦める。


「それじゃ、オレはそろそろ帰るよ」

「おう、引き止めて悪かったな」

「こっちこそ、買い物途中だったのに邪魔してごめんね?未央ちゃん」

「あ、い、いえ、謝らなくてもいいですよ」

「二人ともまたね」

 七海は手を振って去って行った。


「まぁ……買い物の続きをするか」

「次はお肉屋さんで」

「あー……はいはい」


 そして、再び買い物の続きへと行くのであった。

 大量の荷物を持たされたのは言うまでもない……


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