瑠璃蜥蜴城の百鬼夜行 👻

上月くるを

瑠璃蜥蜴城の百鬼夜行 👻





 このお話のタイトルから説明しますね。

 『瑠璃蜥蜴城るりとかげじょう百鬼夜行ひゃっきやこう』と読みます。


 なにやら、おどろおどろしい、ですか?(笑)

 それを狙って付けましたからね、アザアッス。




      🏰




 さて、その瑠璃蜥蜴城へ幼いころの記憶を頼りに行ってみることにしたカホさん。

 というのも、松茸で有名なその山には、蕗の薹の群生する場所があったからです。


 山菜採り、茸狩りが好きだった父と気が合った夫はすでになく、認知症気味の母は老人施設に入所しており、妹一家は武蔵野に住み、ふたりの子どもたちも独立……。


 両親の住んでいた家にひとり暮らしのカホさんは、とつぜん、さびしいスイッチが入ることがあり、そんなときは愛用の軽自動車を駆り思い出をたどりに出かけます。




      🚗




 いわゆるバブル期だったのでしょうか、三つちがいの妹とお揃いの赤いスカート、厚手のタイツで連れて行かれた先には、お伽話に登場する西洋のお城がありました。


 つづら折りの山道がいくえにも曲がりくねった先の雑木林のなかに、まさに忽然とという感じで三角塔が並ぶ城が出現したので、幼い姉妹は呆気にとられたものです。


 木綿藤吉郎というどこかで聞いたような名前(たぶん通称(笑))の成金の資産家が道楽で建てた娯楽施設、週末には上得意を招いて仮装パーティを催していたとか。


 そんな話を聞いたのは大人になってからで、そのときは「どうだ、童話のお菓子のお城みたいだろう」得意そうな父親まで立派に見えて、陶然としていたものでした。


 広大な敷地は高い鉄柵に取り囲まれ、いかにも足が速くて獰猛そうな大型の洋犬が何頭か放し飼いにされているお城の裏手の斜面いっぱいに蕗の薹が生えていました。


 小さな事業を営んでいた父親が仮装パーティの客だったとは想像もできませんが、とにかく毎年、大型犬に吠えられながら蕗の薹狩りをするのがわが家の恒例でした。

 



      👗




 思い出すこともなかったむかしが急に懐かしくなったのは、どういう思考回路か。

 仕事も引退し気楽なひとり暮らしなので、三十分後には運転席に座っていました。


 当時は独立した村だったはずですが、平成合併で隣接する市に編入された山間部へ行く道にも新たにトンネルや近道が拓かれ、すっかり様変わりしていて驚きました。


 もっと驚いたのは廃墟と化した建物のあまりに無惨なすがたで、斬新が仇になり、まるで吸血鬼でも棲んでいそうな幽霊屋敷が丈高い鉄柵のなかに放置されています。


 その鉄柵には遠目にも赤錆が浮き出ていてあちこち壊れており、もちろん大型犬のすがたはありませんし、どこからでも容易に侵入できそうな無法地帯がひろがって。


 そういえば、バブル崩壊のときだったかリーマンショックのときだったか全国展開の居酒屋チェーン店の経営が破綻し、成金オーナーは失脚したと聞いた気がします。

 



      🎢




 気のせいか、記憶にある斜面一帯の蕗の薹の群生にも、昔日の勢いはなさそうで、そう思って見ると、若々しいはずの黄緑色にも少々の濁色が混じっていそうで……。


 とはいえ、せっかく来たのだからと覚悟を決めて、腰をかがめたときのことです。

 三角塔のオルゴールが鳴り出したかと思うと、わらわらと物の怪が飛び出て来て。 


 

 ――木魅こだま 天狗てんぐ 幽谷響やまびこ 山姥やまうば 山童やまわろ 犬神いぬがみ 白児しらちご 河童かっぱ 猫また……


   🥶 👺 🤪 🤢 🤡 😶‍🌫️ 🫠 👹 😱 🤬 🤓 👽 🤖 



 まさに百鬼夜行ではありませんか?! カホさんは腰を抜かしそうになりました。

 ただでさえ怖いのに、その物の怪たちが吸血鬼など洋風の仮装をしているのです。


 ご、ごめんなさい、ことわりもなく蕗の薹を摘んだりして、お、怒っているよね?

 わなわなしてあやまると、物の怪たちは全員が猿顔になって、にんまりしました。




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瑠璃蜥蜴城の百鬼夜行 👻 上月くるを @kurutan

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