ゾンビと終焉世界と俺と
小岩 宥真
第一話 ゾンビ映画と通信障害と俺
映画の冒頭と終末感と俺
今日も静かな一日だ。
何もない、透明な一日。
洒落た感じに言ったらこんな感じだが、実際は結局帰りのホームルームが終わるまでとくに何もなかったとか言うクソみたいな一日だった。
「じゃあ明後日からテスト期間に入るからお前ら気を引き締めていけよ。」
先生のやたらとデカい声が教室に響いた。先生が喋るのをやめた瞬間を見計らって日直が立ち上がる。
「起立、気を付け、礼。」
『ありがとうございました。』
無機質でやる気のないクラスの声、それを皮切りに全員がざわつき、リュックを背負って教室を出始めた。
(よし、帰るか。)
中村
薄は部活や家に向かう人々の群れの中から「あいつ」を探し始めた。
「おーいススキぃ。」
やたら野太い声が耳に届く、「あいつ」が来たようだ、
「イッショに帰ろーぜ」
「おぉ神崎。いいぞ。」
この自分の頭一個抜かした背丈の大きい男は神崎 達也と言う、俺の幼馴染で唯一の友人でありアニメと一部のジャンルの映画を飲むこよなく愛する男だ。
「ススキ、この前俺が推した映画見たか?」
「あの主人公よりマジメ役のほうがゾンビ無双しまくるやつか?」
「あぁ、あれ無理あるよな、体育の授業いつも見学してる奴が奇声あげながらとんでもねぇアクロバットな動きして日本刀でゾンビ一刀両断すんの。」
「しかもなんでロケランがショッピングモールのガンショップに売ってあんだよ。」
「でもまぁ、アクションはよかった。設定とストーリーがおかしかっただけで。」
「致命傷じゃねーか。」
神崎はゾンビ映画が趣味でよく俺に不朽の名作でもB級の迷作でも推してくる。自分自身無趣味なこともあってかよく暇つぶしに見ていたらいつの間にか無駄にゾンビ映画の知識がついた。
「実際、ゾンビ映画みたいなシチュエーションになったら俺たち生き残れると思うか?」
階段から降りながらありがちな質問を神崎に投げかけてみる。
「おいおい俺たちはゾンビから身を守るために見てる訳じゃねーだろ。」
「まぁそうだけどさぁ、」
「実際ゾンビがこの世に出てくる訳ねぇだろ。」
「映画の冒頭かよ。」
確かにな。そう言いながら神崎は微笑した。
下駄箱から靴を取り出して履き、外に出る。暑いな、そう言えばもう7月か。
「暑いな。こんな時はキンキンに冷えたコーラでも飲みながら映画見てたい。」
「そうだな、」
「そういやさ、最近映画館で俺が気になってた映画がリバイバル上映されてんだよ。」
「……ついて来いってことか?」
「そう聞こえなかったか?」
「明後日からテスト期間だぞ、」
「明後日からやりゃあいいじゃねぇか。」
「それともあれか?ショッピングモールに行く理由がキンキンに冷えたコーラが飲みたいからとかいうゴリ押しで作られたストーリーが気にならないのか?」
「なんだその無理矢理な理由。」
「まぁ、とりあえず映画見に行こうぜ」
行くのは確定なのか、そう思いながら薄はいつもの家路とは反対方向に足を向けた。
「なぁ、なんで映画館でポップコーンって食べんのかな?」
突拍子もなく神崎が疑問を投げかけてきた。
「なんで今?……さぁわかんねぇ」
確かになぜなのかあまりよくわからない。薄はスマホを取り出して調べてみることにした。
「あれ?」
「どうした?」
「繋がんねぇ」
「は?なにが?」
「いやネットが」
通信障害か何かなのだろう、気になっていたがまた今度にしておこう。スマホから目を離すと少し遠くにショッピングモールが見えてきた、あと15分程で着くだろう。そう思いながら十字路を右に曲がる。
「……なんだあれ。」
神崎は疑問に満ちた顔でそう言った。神崎が見ている方向に目を向けるとそこには何か異様な光景がそこにあった。
自動車用の道路の真ん中で頭の禿げた老人がこちらを見ながら立っていた。彼の頭にはありとあらゆる血管が浮き出ており、目は白目の部分が見えなくなるほど血走っていた。なのに顔色は死体のように悪い。一眼でわかる、何かがおかしい。
「あのすいません、危ないっすよ。」
神崎の言葉が薄を一気に現実に引き戻していく。
「おい、無視しとけよ、絶対危ねぇよ。」
「大丈夫だろ、多分呆けてるだけだって。」
神崎は左右に注意しガードレールを乗り越えるために足をかけようとする。
「やめとけって。」
薄は神崎の肩を掴み、後ろに引っ張ろうとする。
老人が何かした訳でもないのに薄の全身の細胞一つ一つが警鐘を鳴らしているように感じたからだった。
「あ゛ぁばぁざん゛、」
老人の姿をした何かがそう呟く。
「あ、あの?」
「ざん゛ぼににるぃいいっづででぐるぐるよんよ゛」
「は?」
何を言っているのかわからなかった。だがただ一つだけは理解することができた。
これは呆けている、とかそういう次元じゃない。
やばい、まずい、どうしよう
薄の思考は完全に停止してしまった。
「……い、おい!薄!」
「え?あ?どうし……」 「早く逃げんぞ!、早く!」
神崎は薄のシャツの裾を引っ張りながらそう叫んだ。
「何か」が2人の方向へ走ってきた。姿は老人のはずなのに、とてつもないスピードを出して。
2人は何も言えず、無我夢中で走り出した。
(なんなん……なんなんだよあれ)
薄は麻痺した脳で必死になって考えた、 (あんなんまるで……)
(ゾンビ映画みたいじゃねぇか!?)
いやありえない、意味が分からない、あれはフィクションだ、現実的じゃない。
だが目の前に広がるのは、現実の他ならなかった。
ゾンビと終焉世界と俺と 小岩 宥真 @Koiwayuma2005
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