6-03 ようこそ!
小さな黄色い翼が店内に入り込み、頭上を一周する。
「みんな、こんばんは」
「青葉さん!」
オカメインコ姿の青葉は、ゆずの肩に乗ると、キョロキョロと店内を見回した。
「内装、もしかして変えた? 昼間のお店と同じになってるね」
今までは深い青色の壁だけだったが、今は壁に木々のペイントが施されている。昼間のカフェと同じ内装だ。うろのようなくぼみには、止まり木でなく、オシャレな雑貨が飾られていた。
「らいむさんが模様替えしてくれたんだ」
「以前のは、移転前のカフェの内装でしたからね。昼間のカフェに合わせて、夢のカフェも同じようにしてみました」
「そうなんですね。前のも良かったけど、今のもとっても素敵です」
リフォームされたように新しくなったカフェを、楽しげに見回す青葉。
もちろん、リーダーを譲られるという話は聞いており、「ゆずなら大丈夫」と励ましてくれていた。先ほどまでの話は、あとでゆっくりと聞かせてあげよう。
「さぁ、青葉さんも来ましたし、みなさんでケーキを食べましょうか」
「ケーキ~! 食べたい食べたい~!」
「慌てなくても、もう準備していますよ。席に座りましょう」
はしゃぐすだちを席に戻し、らいむはカウンターの奥へ入っていく。
ゆずも椅子を片付け、カウンター席へ腰をおろした。
「あれ? ゆず~、隣、座らないの~?」
すだちが不思議そうに、空いている右隣の席をぽんぽんと叩く。
いつもゆずがいた席だが、ゆずはその席をひとつ飛ばして、座っていた。
「すだち、嫌われたわけ?」
「えぇ~っ!? ゆず~、オレ、悪いことした~?」
「いやいや! そうじゃないよ! ただ……」
ゆずは手を伸ばし、そっと空いた席に触れる。
夢鼠が見せた嘘の夢を思い出す。壊さなければいけない虚構ではあったけど、ひとつ、知ることができた。
「ここ、れもんさんの席なんだよね」
すだちが目を丸くして、明るく「うん!」とうなずいて見せる。
「だから。らいむ、小さなコップかなにかある?」
「これでいいですか?」
らいむから透明なコップを受け取り、ゆずはそれをれもんの座っていた椅子の前に置いた。ポケットから、昨夜手に入れた白い羽根を優しく取り出し、コップに差す。まるで一輪挿しのように、真っ白な羽根が、カウンターを飾る。
「ではゆず、これも」
奥かららいむの手が伸びてきた。ソーサーにのせられたカップには紅茶が、皿にはフルーツタルトがのせられている。ゆずにいつも出されていたそれらは、ゆずの隣へ。昨日まで自分が座っていた席の前に置かれた。
「らいむ? だからぼくは、そっちの席じゃなくて……」
「いいえ。これはれもんの分です。ゆずはこちらを」
伸ばされた手が、今度はゆずの目の前に物を置いていく。隣と同じ、白いソーサーにのせられたカップには、紅茶よりも茶色い液体が入っている。続けて出された皿の上には、丸い形をした生地の上に、細く絞り出された薄茶色のクリームが重なり、上には光沢をもつ木の実がのっている。
「モンブランだよ。こっちはココアかな。美味しそうー!」
肩の上で、青葉が興味津々に前のめりになって、教えてくれた。
「記憶がなかった時、私は無意識に、ゆずにれもんと同じ飲み物と菓子を出していました。でも、本当はゆず、こちらのほうが好きではないかと思いまして」
紅茶とフルーツタルトが苦手だと、気づいていたのだろうか。
早速ゆずは、フォークを手に、モンブランを一片切り分けた。中にも、大粒の栗の甘露煮が入っている。緊張気味に口を開け、一口、食べる。
「お……美味しい。すっごく美味しいよ!」
柔らかなスポンジ生地と、甘すぎない素朴な味のクリームが、口の中でとろける。栗は柔らかく煮詰められていて、噛むとすぐにほろっとほぐれた。
続けてゆずは、ココアのカップを手に取った。何度か息を吐いて冷ましたあと、口をつける。
「こっちも美味しい! らいむ、ありがとう!」
クリームの入ったココアは、まろやかな甘さが口の中に広がる。
今まで食べたどの食べ物よりも美味しくて、ゆずは頬を紅潮させる。
皆に飲み物と菓子を配っていたらいむも、カウンターの奥へ戻って、嬉しそうに微笑みを返した。
「甘いのばっかで、くどすぎでしょ?」
「えっ、ぼくは、このくらいが好きかな」
「ゆずって甘党なんだね~。れもんも、甘いの好きだけど、いつも紅茶と食べてたよ~」
「そうなんだ。ぼく、紅茶の苦みがどうしても苦手だったから。れもんさんは、砂糖とかミルクとか入れてたのかな?」
「ストレートで飲んでましたよ。これが一番だって、こだわりがあったみたいです」
和やかな会話をしながら、ふと、ゆずは手を止めた。隣にある、紅茶とフルーツタルト、そして、コップに差された白い羽根を見つめる。
「ねぇ、れもんさんって、どんなひと?」
一斉に答えが返ってきた。
「強くてカッコよくて優しくて~、オレの憧れだよ~!」
「しょっちゅう突飛なこと思いついて、
「調子に乗るのが
「でも、みんなを大好きで、みんなが大好きな、素晴らしい仲間です」
すだちも、みかんも、はっさくも、らいむも、懐かしげに、嬉しそうに、れもんの記憶を思い出し、大切な仲間について語り出す。
肩に乗る青葉が、誰もいない隣の席を見つめながら呟いた。
「れもんちゃん、会いたかったな……」
「会えるよ、きっとまた!」
ゆずは明るく大きな言葉を返し、青葉の背を撫でた。
「だって、ぼくたちの夢は、ひとつだから!」
その時、「カランカランッ」とドアベルの音が鳴り、店の扉が開く。
みかんはキッズスペースで口角を上げながらチーズケーキにかじりつき、はっさくはソファ席の奥で目を閉じてブラックコーヒーを口につける。カウンターの奥かららいむが優しい微笑みを見せ、すだちが席からぴょんとツインテールを揺らして立ち上がる。
ゆずは肩に乗る青葉を一目見て、身体をカフェの扉へ向けた。はにかみながら、自信を持った声で、やってきた客を迎える。
「「「ようこそ、夢のふくろうカフェ『
隣の席に飾られた白い羽根が、コップの縁をくるりと回った。
《終》
最後までご覧くださり、ありがとうございました!(作者)
ふくろうカフェの夢狩り梟 宮草はつか @miyakusa
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