第45話
「俺、愛のことが好きだ」
俺は今日一番、愛に伝えたかったことを伝えた。
俺がそれを伝えると愛は、なんだか挙動不審になり始めて。
「そ、そうなんだ。司は私のこと、好きなんだ。……じゃあつまり、司は私とえっちな事をしたいって思っているんだ?」
「そこまでは言ってないけど!?」
「じゃあ私とは、えっちなことしたくないんだ?」
そんな悲しそうな表情で問われてしまえば、俺は素直になるしかなくて。
「そ、そりゃあ、したい気持ちがないわけじゃないが……」
「…………えっち」
「今の発言は会話の流れ的に仕方がなかっただろ!?」
俺が気持ちを伝えてからというもの、なんだか愛はしおらしくなってしまった。まともにこっちを見てくれず、視線が合わない。
さっきまで心地のよい空間がそこにはあったはずなのに、途端に緊張感あふれる現場になってしまった。
しばらくの静寂の後、愛が口を開いた。
「司は私のどこを好きになってくれたの?」
「それ今ここで面と向かって言うの、めちゃくちゃ恥ずかしくない?」
「……いいから」
と、愛は引いてくれそうになかったので、俺はそれを話すことにした。
「全部だよ。とびきり美人なところ。こんな俺を好きだと言ってくれたところ。直向きに努力を続けているところ。辛い過去を必死に受け入れようとしているところ。そして、まだまだ底知れない魅力がありそうなところ」
「それで、私とえっちなことがしたいと?」
「なんでもそこに帰着させようとするのやめない!?」
仮にもここは個室であるし、そんなセンシティブな話題ばかり取り上げていると、お互いに気まずくなってくるというか……。
「私は司のことが好き。司も私のことが好き。これってつまり、私たち両思いってことだよね?」
「そうだな」
「じゃあ私は、司の彼女になれるってことでいいんだよね?」
「ああ、是非とも健全なお付き合いをお願いしたい」
「私が司の彼女になったってことは、司の声が聞きたい時には電話をかけたり、司に甘えたい時には存分に甘えたりしていいってことだよね?」
「ああ、構わないよ」
「それと…………彼女なら、司の交友関係について気になっていることを問い詰めたりしても大丈夫だよね?」
「俺の交友関係? 俺はそんな大した交友関係を築いては……」
「同じクラスの石田さんとは、どういう関係なの?」
「…………」
俺は言葉に詰まってしまった。
まさかここで、愛のファンクラブ繋がりだよとは言えまい。
あのファンクラブは本人には内密な組織であったし、もし組織の存在が愛にバレて解散しろと言われてしまえば、すぐに解散せざるをえないだろう。
あのファンクラブはたまにはちゃんと役に立つもので、それこそ体育祭の時はしっかりと役割を果たしていた。
今後も愛は学校中の注目を集めるだろうし、愛のその人気が起因して、何か事件が起こってしまうこともあるだろう。
そういった時、俺一人の力ではどうにもならないことだってある。
俺一人の力はあまりにもちっぽけなものであるし、愛の美人のスケールはそれほどまでに大きいものであるから。
だから今後も、あのファンクラブは存在していて欲しいという想いが俺にはあって。
最近はテスト期間ということもあり、ファンクラブの活動とは少し距離を置いていたが、テストが終われば話は別だ。
またなつみにファンクラブのミーティングに参加しろと言われるだろうし、そういった時になんて愛に説明すればいいのだろうか。
俺がしばらく黙っていると。
「彼女である私に、どんな関係であるか言えないんだ?」
「ち、違うんだ! 決してやましい関係などではなく、クラスメイトとして健全な仲を築いているというか……」
「でも司って、基本的にはクラスメイトとは健全な仲を築かない人だよね?」
「え、えーっと、それはだな」
「……怪しい」
「怪しくない!」
付き合うことになって、1分も経たずに軽い修羅場になってしまった。
未だかつて、そんなカップルがあっただろうか。
「司が教えてくれないならいいもん。もう一人の司に聞くから」
「もう一人の俺って誰だよ。俺に二重人格設定はないぞ」
「私が司のこと好きになったのも、そのもう一人の司が関係しているんだけどなあ……」
「なにそれ! 詳しく教えてくれ!」
「彼女に隠し事をする悪い彼氏君には教えてあげませーん」
「……えぇ」
愛がどうして俺を好きになってくれたのか。
その理由を俺はまだ知らなかった。
愛が言うにはもう一人の俺が関係しているらしいが、その話の詳細に俺は全く見当がつかなかった。
そもそも愛がいい加減なことを言っている可能性もあるしな。
「でも分かってるよ、司が私を傷つけるようなことはしないって。今日だって、美優のこと報告してくれたし、私のことを大事に想ってくれてるのは理解しているから。……だから、この話は保留にしておいてあげる」
「……ごめん」
「でもそれを教えてくれるまで、私も司を好きになった理由を教えてあげませーん」
「えぇ……」
俺はまだ愛の隣に立つ男としては相応しくない。
それを愛に言えば、気にすることはないと言ってくれるだろうが、その言葉に満足してはいけない。
愛の隣に相応しい男というのは極めてハードルの高いもので、俺がいくら努力しようとそこには辿り着けないかもしれない。ただ、たとえ愛の側に立つに相応しい人間になれなくとも、なろうとする努力はすべきだと思っている。
だからこれからは勉強をより一層頑張ろうと思っているし、あまりやってこなかった運動だって、意欲的に挑戦していこうと考えている。
そしてなつみのファンクラブの活動も、松本さんの動画編集の手伝いも、全力で向き合っていく。
すべては、愛の隣にずっと居られるようにする為————。
「……っ」
瞬間、俺の頬に柔らかい感触が襲った。
「……え?」
「なんか私のことを一生懸命に考えてくれてそうな顔だったから、ついキスしたくなっちゃった。……もう彼女だから、問題ないよね?」
「も、問題はないな……」
「良かった! これからはこれよりももっとすごいことを、たくさんしていこうねっ」
愛は屈託のない笑顔で、俺にそう言い放った。
ネカマだと思っていた俺の一番仲のいいオンラインゲーム仲間が、クラスで隣の席の美少女であることに永遠に気がつかない でらお @naoyaono
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