第57話(最終回) これからの話。

・三人称視点


 小谷なつみは困惑していた。

 先日、筒美なぎさに頬にキスをされてからというもの、顔を見るたびに心臓が激しく高鳴り何度も何度も胸を叩く。


(おかしい、今までだってアタシはずっとなぎさ君のこと大好きだったハズなのに、ここまで顔を見ただけで緊張して動機が高鳴って顔が赤くなることは無かった。

 いや、瞬間にそうなる事はあったよ!?だってなぎさ君凄いグイグイ来るときあるから、そういう時はそうなったけど、でもただ近くにいて顔を見てるだけでこんな……苦しくなるくらいに……!!)


 その感情に答えを出そうと悩み続けていたが……本当はわかっていた。

 最初から答えは一つしか存在しなかったのだ。


(ああ、これは……本気の恋だ。


 今までも大好きだったけど、これはちょっと段階が違う、深さが違う。

 アタシともあろうものが、たかがほっぺにキスされたくらいで何よ!?と自分でも思うけど、あれはなんかもう……決定的だった……!!


 思えばアタシの好きは、少し浮かれていた。


 憧れに近いというか……あの人素敵!付き合いたいわ!!みたいな気持ちがまだどこかにあったし、そこで止めておく方が良いと無意識のブレーキをかけていたのかもしれない。


 ……でも、もう違う……これは、明確に恋……愛だ。

 ただただ愛しくて、ずっと一緒に居たい。


 そういう「好き」だ)


 その自分の気持ちに気づいたなつみは、しかし次の瞬間 頭を抱える。

 なればこそ、この気持ちを伝える事に対する抵抗が生まれるからだ。


 本気であればあるほど引かれる可能性も高いし、断られた時のショックも大きい。

 今の「仮」であろうと彼氏彼女と言う関係性はあまりにも幸せであり、これを壊す危険を冒してまで、関係をさらに進める為に行動を起こすべきなのだろうか……と。


(……こっちから行動起こすの、だいぶ危険よね?つまり、今まで通りにこの最高にいい女であるアタシに惚れさせて、告白させるという方向性にしよう!うん、それだ!向こうから告白されたら即……いや、即はダメよね、1日考えるふりしてOKする!……待って、一日待てる気がしない、半日……1時間……2分ね!2分考えてOKしよう!うん、それだ!目指すべきはそれよね!!)


 好きになり過ぎた結果、守りに入ってしまったなつみであった。

 しかしなつみは知らない。

 なぎさがもうなつみを好きになりかけていることを。

 そして、それを決して表に出すまいと決意していることを。


 お互いに相手を好きでありながら、それを表に出してはいけないと思い込んでいる。


 そんな二人の様子を眺めながら、椎瑠は思っていた。


(……椎瑠にはわかります。あの二人、どう見ても両思いなのに、たぶん気づいてないし、それを言ってはいけないと思ってますね……?

 つまり、まだチャンスはあるという事!!!

 二人ともがモタモタしてる間に、椎瑠が後方から一気にまくってみせますよ!!覚悟しといてくださいね、先輩方!)


 両思いなのに、片思いと片思い。

 そこに切り込む片思い。

 三角……にはならない歪な関係。

 二人と一人の配信の日々はこれからも続いていく。


 この関係性に一つの答えが出るのは、まだまだもう少し、先のおはなし―――――

 

「ではでは、なつみと!」

「なぎさの!」

「「ななつぎチャンネル、今日はここまで!!バイバイななつぎーーー!!」」



               おしまい?

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