第56話 変わっていくもの。
「なつみと」
「なぎさの」
「「ななつぎチャンネルーー!!」」
今日も今日とて動画の撮影をしている私たち。
いつも通りの何も変わらない風景―――――の、ハズなのだけど……。
「ねね、なぎさくんこれ見てこれ見て。可愛くない?」
本日はなつみちゃんのアクセサリー紹介動画なのだけど、小さなピアスのデザインを見せようと、近づいて髪をかき上げて耳にピアスをあてて見せてくれるなつみちゃん……。
ちょっと待って可愛すぎる……!
ピアスじゃなくてなつみちゃんがね!!!
なんか、なんか!!ぽーっとしてしまう!!からのドキドキしてしまう!!
なにこれ!?待ってナニコレ!?
おかしい。あの時だ。あのほっぺチューの時から何かがおかしい。
いや、知ってるよ?なつみちゃんが可愛いのなんて、初めて見たときからずっと知ってる。ずっとそうなんだもん。ずっと可愛いもん。
でもさ!!最近なんか……ただ可愛いとかじゃないんだよね!!
「ちょっとー、どうしたのぽーっとして」
そうだ、動画の撮影中だった。
でも、でもさー……!
「えっ、あっ、ごめん。なつみちゃんが可愛すぎて見惚れてた」
あっ、正直に口から出た。
まあいいか、今は彼氏のなぎさ君だし、そんなことも言うんだよ「なぎさ君」は!
「なっ、ちょっ……もー!照れるじゃん!何よ急にー!」
ぺしん、と肩を叩かれました。痛くない。むしろかわいい。
ぺしんぺしんぺしんと3連発です。痛くないけど、ちょっと衝撃はある。でもかわいい。
ペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシンペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシ!!!
凄い連打するじゃん!!太鼓?太鼓なの?僕の肩は太鼓なの??さすがにちょっと痛い。でもかわいい。なにこれずっと可愛いじゃん。
いやさすがにちょっと……これ、これさぁ……いやいや待って待って。
それはだって……違うじゃん、違うよね?
でも、もしかして――――私、なつみちゃんのこと本当に好きなのでは?
―――――――いやいやいやいやいやいやいや!!そんな、ねぇ?
好きだよ?そりゃ好きだよ人間として、友達として。
でもその……え???
これ……「そういう好き」なの???
愛とか恋とか、そういうやつなの!?!?
だとしたら、今後どんなふうになつみちゃんに接していけば―――――とか考えている間も、ずっとペシペシが続いていました。
「いやさすがに長くない!?」
両手でなつみちゃんの手を握ってペシペシを止める。
すると、自然となつみちゃんと近距離で向き合う形になった。
我を失っていたなつみちゃんがハッと我に返り顔を上げると……僕の顔の目の前に、なつみちゃんの顔。
近っ……!
これあれだ、ガチ恋距離だ。
皆がそういう理由もわかるよ……こんな近くで見ても良いところしか見つけられない造形何!?
あっ……これヤバイ……愛おしい。
抱きしめたい。抱きしめても良いのかな?
良いよね、彼氏だし良いよね?
とゆっくり手を伸ばし始めた瞬間、視界にぬるっとしぃちゃんがフェードインしてき我に返る。
はっ、私は……僕はいったい何を!?
しぃちゃんがものすごく複雑な表情をしている。
なんだろう、動画的にはあのまま抱きしめた方がファンは喜ぶかもしれないけど……!みたいなことかな。
いやでも、うん、止めてくれてありがとう。
ちょっとあまりにも勢いに流されてしまいそうだったので、一度冷静になろう。
伸ばした手をなつみちゃんの肩に乗せて、少し距離を離す。
「ごめんごめん、動画の途中だったよね。さあ、続き続き」
「えっ、あっ、うん。そうだね」
一瞬、呆気にとられたような、今何か起きた?みたいな顔をしたなつみちゃんだけど、すぐにプロの顔に戻って撮影を続けるのはさすがだ。
僕もそうでなくては。
プロとして、仕事としてなつみちゃんの彼氏をやっているんだぞ!!
よくわからない感情に振り回されてる場合じゃない!!
……もし、もし仮にこの気持ちが本物の恋だとしても、プロとしてそれは隠さなければならない。
だって、あくまでも仕事として偽彼氏をやっているのに、本気で好きだなんてことになったら、なつみちゃんだって困ってしまうだろう。
あくまでも僕は仕事上のパートナーだし、なつみちゃんからしたら「同性の仕事仲間、もしくは友達」でしかないんだし。
困っちゃうもんね、急に女の子から好きだなんて言われたら。
だから、まだよく答えの見えないこの気持ちは封印しておこう。
いつか答えが見えたら……その時は―――――
……ううん、駄目だね。
仮に何かが明確になったとしても、この関係を、この仕事を続けていこうと思ったらそれはきっと告げてはいけないんだ。
そのくらい、私にとってなつみちゃんは特別で、絶対に離れたくない存在になってる。
想いを告げて断られたら、関係性が壊れちゃう。
だから、ずっとこのままでいい。このままが良い。
私の心、どうか揺れないで。
なつみちゃんの隣に並び続けられるように、ずっと、ずっと―――――
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