第4話 白猫が招く店
いつからか、私は習い事のある日には早めに家を出て、シャッター街を彷徨うようになった。
決して「散歩」ではないので、「彷徨う」は言い間違いでは無い。
目的も無いまま、気になった路地へと足を踏み入れる。そのままなんとなく右に曲がってみたり、大通りに戻ってみたり。同じ場所をぐるぐる回っているだけの日だってある。
空き店舗の並んだ店をガラス越しで覗きながら歩いているとまれに、明日にも営業が再開できそうな店を発見したりもする。トルソーに着せられたままの当時の洋服に、時代の流れを感じて寂しくなるけど。
誰も通らないような奥に人魚のブロンズ像の噴水があったり、水路に色とりどりの金魚が泳いでいたりしてバブル時の遺跡も見つけた。でも、後ろに華やかな時代が隠れ見えて、対比される今の姿がますます悲しく映る。
この商店街には野良猫が多いらしく「餌を与えないで」という手書きのポスターが何枚も貼ってあるが、私は一度も彼らに会えた事が無い。まあ常時、冬の冷たい風が吹き抜けるような場所を、猫が好むとは思えないけれど。
だから、たまたま見かけた白猫を追いかけたって何の不思議もないはずだ。なにせ私は無類の猫好き。『不思議な国のアリス』ではないが、純粋に猫の行き先に興味が湧いたのだ。
長毛の白猫は、ふさふさの尻尾を揺らしながらゆったりと通りを歩いて行く。まるで「付いておいで」とでもいうように時々振り返りながら細い路地の、なお込み入った場所へと進んでいく。
普通に猫の後に付いて歩いているだけなのにしばらくすると、ぐにゃりと視界が歪んだ感じがした。丁度、立てたバットに額をつけたままぐるぐる回った後にやってくるあの感じだ。クラクラした視界のまま白猫を探せば彼女(?)それとも彼(?)が、小さな民芸店に入っていくところを見つけた。
私は猫の姿に誘われるように、店内へと足を踏み入れた。
レトロな白熱球に照らされた店内は、間口の割にずいぶんと奥に長い造りだった。
藤で編まれた買物籠、漆塗りのお椀、縁がウエーブしているまあるい金魚鉢。等々の日常使いの道具から、端布がパッチワークされた割烹着。種類も雑多な品々が、ところ狭しと一枚板で作られたテーブルに並べられている。
ここまでなら、よくある普通の民芸店だ。だけど、なにかが違っている。
ぞわぞわとした違和感が、背筋を駆け上がってくる。何だろう、この感覚?
魂を後ろからグンと引き戻されるような感じの後、店の奥の壁一面に取り付けられた棚が存在感を増した。
寂しがり屋の商店街の記憶が繋ぐ 綿飴童子 @wataamedouji
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