子どもの頃通っていた図書館の児童書の棚に、その名も「メルヘン文庫」という文庫シリーズがおいてあった。世界の民話集のようなものだ。
巻によって当たりはずれが大きかったが、気に入った一冊は繰り返し借りて、何度も読んだ。
「天空を旅する人びとのかがり火」「チーズの上澄みをくれる友達」……sousouさんの作品は上質なおとぎ話だ。読みふけっていた童話や民話の数々を想い出し、郷愁をもって胸に迫る。
「幼児にこそ、良いものを」
かつて松谷みよ子がそう唱え、すばらしい画をつけた絵本を生み出していったが、心に刻まれて忘れることのない子どもの頃の読み物が上等なものであったことは、振り返っても、とても幸運なことだった。
深い哀しみがあってもいい。不条理があってもいい。小さな胸をいっぱいに満たしたさまざまな童話の世界は、その者の人生に寄り添っていくものになる。
本を閉じて眠りにつく時、幼い心は「それからどうなったのだろう」と夢の中に星空をひろげる。
その星はきれいな色をして、オルゴールの寂しい音色と共にちかちかと瞬き、お姫さまや魔法使いや羊飼いの少年の姿に変わるのだ。
こちらの作品に眼をとおす方は、子ども頃に親しんでいた宝物のようなお話にまた逢えて嬉しい、そう想うことだろう。
再会するメルヘンは、もう一度、忘れていた音色を連れて来てくれる。