幕間

化石たちの喫茶店

「すとんと眠ったと思ったら50年過ぎていてな」

「それはよく眠ったね」

「驚いたよ景色が変わって」

「あるある」

 ないよ、って言いたかったけれど仙人みたいな時間感覚の話は衝立の向こうから聞こえてくる。男三人と小学生くらいの子どもが一人。変な組み合わせだなと思ったら話の内容の方が変だった。

「私も、空が綺麗だなあと思って石に座ってのんびりしていたのさ」

 小学生がはいはいと手を上げて発言した。微笑ましい。いいよねえ、空を見上げていると楽しいし時間が知らないうちに過ぎるよねえ。かくいう私も喫茶店の窓から空を見てコーヒーを飲みながら和んでいるところだ。

「知らない間にお尻が冷たくなって、苔が生えて身長も縮んでいてね」

 それはないなあ。苔むすまで空を眺めていたら悟っちゃいそうだね。

「ああ最初に見た頃の身長に戻っているよな」

「この前までは本当は大人だったのね。かっこよかったの」

「そうだね、先日会ったときは手足がもう少し長かった」

 人間って伸びたり縮んだりするんだ。子どもの成長は早いけれど大人が子どもに戻ってもいいんだ。植物が伸びて葉を落として枯れて縮むみたいなノリなんだろうか。石の上にも何年という言葉を実践すると大変なことになるらしい。

「そういえばずいぶん前に地中に物を埋めたことを思い出してこの前掘り起こしたんだけどさ」

 タイムカプセルだろうか。先日が苔むす以前を指すあたり、ずいぶん前というとそうとう前になるだろう。

「化石になってたよ」

 時代単位で飛んでませんか。

「今度の曲のタイトル、化石にしよう」

 一人が途切れ途切れに鼻歌を歌いだす。私の知らない曲だ。何千年前の曲なんだろう。もう一人がノートを取り出してペンを走らせる。私はコーヒーをすする。化石の味がする。午後に予定があった気がするけれど思い出せない。遠い先のことのように感じる。時計の針は行ったり来たりしている。

「できたよ」

「ぜんぜんよくないけれど、いいね」

「しょうもなさすぎて、誰にも見せられないね」

 たった今、歌が生まれたらしかった。何千年と芽吹いては枯れるのを繰り返してきたらしい彼らはミュージシャンだったのだ。冗談が好きな人たちだなあ。

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歌渡り ほがり 仰夜 @torinomeBinzume

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